義理の弟
男にこうやって言い寄られた時、女とは非力で悲しい結末になる。
だが、そうならない方法があるのではないか。
それは脳内で何度もシミュレーションしていた。
だから動けた。
まずは足を思いっきり踏む。
バインが驚いたところで無防備になっているアッパーにパンチ!
続けて、あそこを膝蹴り。
バインは酒に酔っていた。
よって私の考えた撃退方法は、すべてクリティカルヒットになった。
悶絶するバインをそのまま廊下へ追いやり、扉を閉めると鍵をかけた。
「バイン、私の部屋には短剣があるわ。同じことをしたら、今度は(ピーッ)を切り落とすわよ!」
そう怒鳴って様子を見ると、廊下の物音が聞こえなくなった。
明朝、何か言われるだろうか。
言えないだろう。やましいことをしようとしたのはバインなのだから。それにこれをきっかけに離婚になっても……。例えば、私からバインをベッドに誘ったとか、そんなことをあの低能な義理の弟が言い出したとしよう。それで不埒な女だと離婚になって、何か問題があるか?
ない!
借金を肩代わりしたが、後からそれを覆す――そんなことはできないように、きちんと婚姻契約書を結んである。よってウス側から離婚を申し出てくれれば、こちらはウエルカムで受け入れることができた。……私から離婚を切り出すのは無理だったけど。
いや、そもそもとして、離婚はこの国の制度としては原則認めていない。ただ何もかもが金で融通が利く世界でもある。法律的には認められにくい離婚でも、抜け穴はあるということだ。
ともかく再びバインが来ないかと警戒したが、それはない。
かつ翌朝も、バインが変なことを言いだすこともなかった。
それでも気を抜くことはできない。
ウスとの苦行がないと思ったら。色目を使う義理の弟がいるのだ。
本当に心から安らげないと思っていたら……。
この日の夜、義父が奇跡を告げる。