他でもない私が……
イーサンは私の心配をよそに、もう次のセリフへ進んでいる。
「あなたはどうして立場にこだわるのですか? 私があなたという人間に心惹かれているのです。どうか余計なことを考えず、あなた自身の気持ちに従ってください」
これには何だかハッとさせられる。
このロマンス小説のヒロインは、街の花屋の娘。偶然、騎士と知り合う。だが身分の違い。何よりも婚姻歴があり、子供までいたのだ、ヒロインには。
それでもロマンス小説なので、二人はハッピーエンドを迎え、家族三人で暮らしていくことになるのだけど……。
この言葉はもしかすると、他でもない私が言われたいセリフなのかもしれない。
ち、違う、違う。
私情を挟まずに!
「今のセリフは、ヒロインの本質に惹かれていると伝えることになるので、とてもいいと思います。地位やお金などではなく、ましてや過去の出来事にとらわれないところが」
「そうですね。僕もこのセリフには強く共感を覚えました。ロマンス小説はご令嬢が読むものと、これまで目を向けませんでした。ですが思いがけず、恋愛の神髄を垣間見ることになったと思います」
それは本当にそう思う。
ロマンス小説には、女性の夢が沢山詰まっている。平民と貴族の恋。平民が王子様に見いだされるシンデレラストーリー。その中には珠玉の愛の言葉だって散りばめられているのだ。それすなわち、女性がいつかは言われてみたい言葉ばかり!
「あなたが恥ずかしいと思っていること。私は可愛らしいと思います。その癖のある髪も、少しぽっこりしたお腹も、落ち込むとパンの自棄食いをしてしまうところも。全部含め、愛おしく感じます」
これは平民であるヒロインが、騎士からの求愛を断るため、自身のダメなところを列挙するシーンのセリフ。騎士はそれを聞いても、動じることはなかった。むしろ欠点を含め、ありのままのヒロインのが好きだと伝えるのだ。
背伸びした自分を好きになってもらっても、その後が苦しいだけ。いつまで偽りの自分を演じればいいのか。
でもありのままの自分を好きでいてくれるなら……。無理をする必要がない。演じる必要もないのだ。
このセリフを選んだということは。イーサンはありのままを受け入れられる人間なのだろう。
やはりイーサンは得難い人物だ。
私は落ち着いた気持ちで、このセリフを選んだイーサンに率直な思いを伝える。
「プラス・マイナス方式で人間を見るのは味気ないと思います。完璧な人間なんていません。どこかに欠点はつきもの。それが自身の許容範囲であるならば、その欠点も含め、受け入れる。その上で好きだと言えるのは、理想の関係だと思います」


















