彼女の片想い
今回、もし私がいびきや歯軋りをして爆睡をしていたら、とんでもないことになっていたと思う。まず、私を同伴したイーサンが、大恥をかいていた。それではなくても私は出戻りで、かつて話題になった残念な令嬢なのだ。そんな相手を同伴しているだけでもマイナスなのに、爆睡すれば、さらに噂の燃料投下をするようなもの。
イーサンの名誉が傷つくことは、決してノット子爵令嬢が望むところではないと思う。だが先日、ピシりと厳しいことも言われている。それにイーサンのマイナスな噂をされれば、彼を狙うライバル令嬢が数名は減るという算段を立てたかもしれない。つまりはイーサンの名誉より、自身にとってプラスに働くかどうか、もはやノット子爵令嬢はその尺度でしか動いていない気がした。
イーサンの名誉が傷つき、私に至っては、もう完全に地に堕ちるだろう。入手困難なバレエの一階中央席で堂々と居眠りをしていた恥知らず。そんな陰口を囁かれる。さらにはかつての名門伯爵家、ローズベリーの名も、もはや価値無し……ぐらいになっていてもおかしくない。
私が行儀よく眠れたことと、イーサンがいちはやく気づいて「具合が悪い」としてくれたことで、事なきを得たと言っても過言ではない。
そこまでイーサンを好きなら、近づく女性を牽制したり、眠り薬を飲ませたりする以外の行動をすればいいのでは?と思ってしまうが。
この世界、女性から男性に告白なんて、なかなかするものではない。「あなたに好意を抱いています」とアピールしても、「私はあなたが好きです」と自分からは言わないのだ。
「好きです、婚約してください」「結婚してください」――これを告げるのは男性というのが慣習であり、暗黙のルールになっていた。
だがしかし。
自分から告白はできなくても、縁談話となると話は変わる。「うちの娘はそろそろ年頃なので、どうだろうか?」と動くのは、両親や代理人。
ノット子爵令嬢は、自身の両親や代理人を通じて、イーサンに縁談を持ち掛けたことは……あったのかしら? 本人に聞いたわけでもなく、イーサンに尋ねたわけでもない。でもなかった……という気がしていた。
だって。
縁談話を持ち掛け、断られたら……もうどうにもできない。それでおしまいだ。「君のことは好きではない」と明確になってしまうのだから。
もしノット子爵令嬢が、いわゆる平民成り上がり男爵令嬢だったりすれば、「家格が違う」「経済的な面で折り合いがつかない」など、家同士の理由で断られることもあるだろう。だが従妹同士であり、ノット子爵という家門に問題はない。よって縁談話が断れるとしたら、イーサンが好意を持っていないから……となる。
無論、表立っては別の理由を示すだろう。だが本当の理由は別にあると、すぐに分かるはず。そうなるともう、ノット子爵令嬢がつきまとえば「止めて欲しい」とハッキリ言われることになる。
ノット子爵令嬢は、そうなることが怖く、両親にイーサンへの縁談話を持ち掛けてもらうよう頼むことが……できなかった。
でも待っていたのだろう。イーサンから声を掛けてくれることを。














