彼女の企み
「もしや自分が社交を行うと、眠り姫になってしまう令嬢が現れるのでは?」とイーサンは考えたのではないか。最初は自分が何か特殊なものを持っているのかと、疑っただろう。それが違うと分かると、眠り姫が現れることになった行事やイベントの共通項目を探したはずだ。
特定の食べ物や飲み物で、眠り姫になってしまうのか。
猛烈な睡眠を促すような食べ物があるのかと、調べたと思う。
でもそんな食品はなかった。
そこで眠り姫令嬢が現れる行事やイベントに、全て出席していた人物がいないか、調べてみたのでは? すると一人だけいた。眠り姫令嬢に、イーサンと同じ確率で遭遇している令嬢が。それがノット子爵令嬢だったのでは?
もしかすると従妹なのだから、ノット子爵令嬢をエスコートして出席した行事やイベントもあったかもしれない。だから早い段階で、ノット子爵令嬢を疑っていた可能性もあるが……。
ノット子爵令嬢は身内だ。親族。その彼女に確固たる証拠もなく、追及はできない。
そうしているうちに、イーサンは騎士見習いとなり、社交どころではなくなった。つまり晩餐会、お茶会、誕生日パーティーには参加しなくなる。
それでもご両親からは「たまには舞踏会に行ってみたら?」「お茶会への招待状が来ていたわよ」と言われた時には、出席を検討したかもしれない。だがすぐに眠り姫のことを思い出したのだろう。顔を出してみようとはならず、スルーしていた可能性が高い。
社交界に全く顔を出さないイーサン。
そのせいで、イケオジなエルン騎士団長が心配するような、浮いた話が一つもない、恋愛力がダメな副団長像が完成してしまった。現在のイーサンがどうやって誕生したのか、改めて分かった気がする。
そして私と行くことになったバレエ観劇。
人気の公演だ。まさか観覧日時がノット子爵令嬢と被るなんて……。イーサンとしては、想定外だったに違いない。
さらに私がノット子爵令嬢から特製ベリージュースをご馳走になったと話したことで、古い記憶が蘇った。そして慌ててエスプレッソを手に入れて……。
ノット子爵令嬢に眠り薬を盛られた令嬢は、誕生日パーティーなり、お茶会なりで、突然みんながいる中、眠ってしまう。
この世界は前世日本人のように、子供はいつまでも親の手元で可愛がりたい……ではなく、自立することを求める。よって表面的には「まあ、まだ幼いから、こんな人前で眠ってしまったのね」と微笑んでいても、裏では「躾とマナーがなっていないわね。あんなに堂々と人前で眠るなんて。無防備過ぎますし、主催者に失礼ですわ」となる。
つまり地味にイーサンと仲良くした令嬢の名誉を傷つけているのだ。しかも子供の頃の話だとしても「そう言えばあのご令嬢、昔……」と、一生つきまとう。かつ、イーサン自身にも「自分と仲良くした令嬢は皆、眠り姫になるのでは?」とうっすらと気づかせ、社交を制限するような足枷をつけることができたのだ。
イーサンと親しくなる令嬢を排除でき、ノット子爵令嬢としては、願ったり、叶ったりだっただろう。
そして今回……。














