自分でなんとかするしかない
「今晩もウス様は商会の関係者と打ち合わせで遅くなるので、夕食は外で済ませるそうです。帰りは遅くなるので、先に寝ていただいて構わないとのことでした」
連日連夜でこれをバトラーから伝えられると、もうニンマリだ。
まさに願ったり、叶ったり。
今晩もロマンス小説の続きを読もう。
入浴を終え、白い綿の寝間着に着替え、ロマンス小説を手にベッドへ潜り込もうとしたら……。
ドアをノックする音が聞こえる。
これにはギクリとなってしまう。
まず大急ぎでロマンス小説を隠す。
ベッド脇のサイドテーブルの引き出しの奥、主の教えが書かれた本の下に隠した。
まさかウスが私の寝室に来るなんて!
苦行はいつもウスの寝室で行われていた。
完全な不意打ちでドアを開けると……。
ダークブロンドに、琥珀色の瞳の義理の弟バインがいる。
舞踏会から帰って来たばかりなのか、テールコートを着たままで、しかも……アルコール臭い。
「よお、義姉さん。今晩は、兄さんがいないんだろう? 一人寝は寂しくないか?」
完全に酔っていると思った。
酔っ払いへの対処法はただ一つ。
相手にしない。
これに限る。
「寂しくなどありません。疲れていますし、もう今日は寝ますので」
扉をぐいぐい押し、バインを追い出そうとする。
だがバインは逆に扉をぐいぐい押して、中へ入ってこようとした。
「なあ、義姉さん、一度ぐらいならバレないって。俺の気持ち、分かっているだろう?」
力では敵わず、寝室に強引に入って来たバインが、私のことを抱き寄せた。
その酒臭さに辟易する。
ロマンス小説ではこういう時、ヒーローが偶然部屋に来てくれるものだ。
だがしかし。
そもそもこの屋敷に、ヒーローはいない。
私だってヒロインではないのだ。
ならばどうするか。
自分でなんとかするしかない。