勘違いしてはいけないわ!
「王都警備隊に対しては、知らぬ存ぜぬを通していますが……。僕が直接問い詰めたところ、一部認めるような発言がありました。でも何としても切り抜けようとするでしょうね。何せ子供の頃の話は、証拠もないのですから」
「昨晩、バレエの会場で会ったのは、偶然だと思うのです。ノット子爵令嬢は普段から眠り薬を持ち歩いているということなのでしょうか?」
それについては医師から聞いた話として教えてくれる。
「ノット子爵令嬢は、子供の頃から王立ローズ女子高等学院への入学のために、勉強に追われ、不眠症になっていたようです。寝ている時間があれば、勉強しなくては……そんな風に追い詰められていた。本来寝るべき時間に、眠ることができなくなっていたようです。よって眠り薬は、子供の頃から侍女が持ち歩いていたようです」
「そうなのですね。勉強に追われ、心理的に追い込まれていたのかと思うと、少し可哀そうになります」
レモン水を口に運んでいたイーサンは、そこでふわっと笑みを浮かべる。
「ローズベリー伯爵令嬢は、どうしてそんなにもお優しいのですか? 眠り薬を盛られたのですよ? 眠り薬を盛った相手なのですよ」
「それは……。どうしてでしょうか。でも、きっとどこかでそうすることに理由があり、本当は悪い人ではないのではと、思ってしまうというか……。お人好しなのでしょうか?」
すっとイーサンが手を伸ばした。
テーブルにのせていた私の手に、イーサンの手が優しく重なる。
「ローズベリー伯爵令嬢がお人好しで優しすぎるので、僕は心配です。ちゃんと守ってあげないといけない。そう思ってしまいます。ですからノット子爵令嬢にも今回、ハッキリ伝えました。もしもこの次、ローズベリー伯爵令嬢に何かしたら。僕の地位と名誉、使えるものを全て総動員してでも、あなたの悪事を断罪すると」
「そ、それは……!」
「やり過ぎとは思いません。それだけあなたを大切に想っていますから」
そう言って私の手を持ち上げ、甲へとキスをした瞬間。
私は失神寸前だった。
いろいろと勘違いしそうになる言葉に、レモン水を飲んでクールダウンする。
これは私があまりにも無防備だから、イーサンが目を光らせておかないと心配ということ。眠り薬も盛られてしまったから、なおのこと責任を感じているだけ。
とはいえもうすぐ、この恋愛レッスンは終る。
そうなればノット子爵令嬢との接点もなくなり、何かされる心配もない。
だから「大切に想っています」という言葉を一人歩きさせて、勘違いしてはいけないわ!
そこで顔をあげると、イーサンのあの宇宙を思わせる紺碧の瞳と目が合った。














