白い霧が辺り一帯に
狩りの装いをしたイーサンの姿が見える。ベージュのチュニックにグリーンのマント。栗毛の馬がテクテクと道なき道を進んでいる。
白い霧が辺り一帯に広がっていた。
鳥の鳴き声と羽ばたく音も聞こえている。
イーサンの乗る馬が湖畔に辿り着いた。
こちらをじっと見ている。
紺碧色の瞳が私の姿を捉えていると思った。
その視線から逃れるように、私は湖を移動し、そしてゆっくり岸に上がる。
『!?』
下草の上にびちゃっと水滴を飛ばしながら見えたのは、水かきのついた黒い足。
これは……。
背中がつっぱるような感覚があり、ハラリと白い羽が落ち、それを拾おうと手を伸ばす。
一瞬、自分の手が白い羽のように見えた。
何度か瞬きすると、ちゃんと五本の指の手だ。
再度足を見ると、まるでガラスのような靴を履いている。
『君は、何者なんだ……?』
突然、イーサンに声をかけられ、驚く。
馬から降りたイーサンが、こちらへと歩いて来る。
なぜだか「逃げないといけない」と思い、駆け出そうとするが、すぐに手首を掴まれてしまう。
『行かないでくれ。話を聞いて欲しい』
こんな風に懇願されては無下にできない。
立ち止まり、問われるままに答えている。
答えながら気が付く。
これは……バレエでは有名な「白鳥の湖」なのではと?
でもどうしてその「白鳥の湖」の配役にイーサンや私がいるのかしら?
というか、私は今、バレエを観劇しているはずで、出演しているわけではない。
そもそもバレエなんて踊ったことがないのに。
しかも「白鳥の湖」が今回の演目ではなかったと思う。
なぜ……と思っている間にも舞台がどんどん変化していく。
目の前では仮面舞踏会が行われ、皆がダンスを踊っている。
「白鳥の湖」に仮面舞踏会のシーンなんて、あったかしら?
だがぐるぐると回転してダンスをする貴族達。
嬌声と派手な音楽、シャンデリアの明かりは明滅を繰り返し、私はそれを俯瞰して見ているしかない。
気づけば。
ダンスが終わり、フロアの中心にいるのは……ペスト医師の仮面の男性と黒いドレスを着ているのは……ノット子爵令嬢。
でもノット子爵令嬢は自身のことを『私がグレイスです』と名乗っている。
一方のイーサンは『ええ、あなたこそ、私が探していた相手です。この愛で、あなたにかけられた呪いを解きましょう』と言っていた。
ち、違うわ、イーサン!
それは私ではない、ノット子爵令嬢よ!
私は懸命に叫んでいるが、私自身、自分の声が聞こえない。
当然、イーサンにも声が届かなかった。
『イーサン、私の愛する人』
『グレイス、僕の愛する人』
イーサンとノット子爵令嬢が抱き合い、キスをしようとした瞬間。














