ありがとうございます!
「僕が刺激しようがしまいが、ノット子爵令嬢の敵意は、ローズベリー伯爵令嬢に向けられると思います。そこは……心から申し訳なく思い……。ですがちゃんと守ります、あなたのことを」
ここまで言ってもらえたら、私から言えることはないわね。
それにイーサンの言う通り。
一度目をつけられたのだ。ノット子爵令嬢は前世で言うストーカーのように付きまとってきそうだった。
「ところでこの飲み物は、まだ半分残っていますが?」
「あ……そうですね。ノット子爵令嬢から無理矢理奢っていただいたのですが……。ベリーのジュースなのに、少し渋みが強くて。あまり飲めませんでした」
「……なるほど。では口直しに何か買ってきます。僕も喉が渇いているので」
イーサンはそう言うと、グラスを手にカウンターにいる従業員に声をかける。
私はもう飲み物はいいのだけど。
観劇中、レストルームに行きたくなるのも困るし。
それにしてもノット子爵令嬢とその取り巻きは、まさに典型的な悪役ね。
あそこまで嫌味のシャワーを他人に対して浴びせることができるなんて。
自分はああはなりたくないな、と思ってしまう。
同時に。
誰かの悪口を言う時、鏡を見てみるといいのに――そう思ってしまう。
どんな美人や可愛いと言われる女性でも、悪口を言う時は、心の醜さが表情に出てしまう。気づいていないのは本人だけ。さっきのあの鬼のような形相は……イーサンもちゃんと見ていた。そんなことではイーサンに好かれるのは無理だろうに……。
「お待たせしました、ローズベリー伯爵令嬢」
イーサンが二つのカップを持っているが、それはデミタスカップ。
「今回のバレエ公演を記念し、フィーレン国で人気の“エスプレッソ”というドリンクが発売されていたのです。この砂糖を入れて飲むとのこと。入れないと、とても苦いとか」
ブラックティーとハーブティーが主流で、コーヒーはまだこの国で一般的ではない。きっとこのエスプレッソも、とんでもない値段だろう。しかも砂糖までついているのだから。
だが厚意で手に入れてくれたのだ。ここは素直にこの一言だろう。
「ありがとうございます! いただきます」

























































