これから幸せになれます
「君を侮辱するような言葉を、ノット子爵令嬢は口にしています。あんなことを本人の前で言うなんて……。僕だっているのに。あまりにも驚いて、すぐに止めることができませんでした。申し訳ないです」
そう言って頭まで下げるので、私は慌ててしまう。
すぐに頭を上げるようお願いし、気持ちを伝える。
「ノット子爵令嬢が言ったことは、事実だけですから。私はかつて社交界の中心に確かに存在していて、その頃はちやほやされていたと思います。ですが実家の借金があり、男爵家に嫁ぐことになりました。離婚したのは……事情があり詳細は申し上げられませんが、それも事じ」
「ローズベリー伯爵令嬢! お願いします。ご自身を卑下なさらないでください」
宇宙を思わせるその紺碧色の瞳に涙さえ浮かべ、イーサンは私の手をぎゅっと握りしめる。その瞬間はドキッとしたが、次の言葉に、手を握られているどころではなくなる。
「時に人は……自身の意思ではどうにもならない試練に、直面することがあります。あなたはまさにその試練にさらされ、でもそれをどんな形であれ、乗り越えたのです。まだ遅くありません。これからです。これから幸せになれますから……」
イーサンは一体、私の事情をどれぐらい知っているのかしら?
イケオジなエルン騎士団長は、切れ者でもある。
きっと私のことなんて調べがついて、全て知っている可能性が高い。
そうなるとイーサンも……。
もし全てを知っているなら、とても恥ずかしい。
平民出身で成金男爵と囁かれるレイリー家に嫁ぎ、夫は娼婦と共に性病にかかり、離婚している。夫がそもそも娼婦に入れ込むということは。妻に難ありと思われても仕方ないことだ。
急に惨めな気持ちになってしまう。
未婚であり、将来有望なイーサン相手に、恋愛の手ほどきなど私がしている場合なのか。不安も募る。
「バレエをご存知ですか?」
突然、イーサンから問われ、キョトンとすると、彼は上衣の内ポケットから封筒を取り出した。そして中に入っているチケットを見せてくれる。
「バレエは、フィーレン国で今、最も人気があり、我が国では初めて興行することになったと聞いています。明日の午後の公演のチケットが手に入ったので、一緒に観に行きませんか?」














