経歴は完璧だけど……
ノット子爵令嬢は、初めましてなのだけど、とても……綺麗な方だった。
金髪に蜂蜜色の瞳、小顔で口も小さく、首も手足もほっそりしている。
小柄だけど、胸はドレス映えする大きさで、ザ・ご令嬢という感じ。
多くの男性が守りたくなるような可愛らしい令嬢のはずが、今はイーサンに手を掴まれ、驚愕の表情を浮かべていた。
「イーサン卿、痛いですわ。手を……はなしてくださりません?」
「ノット子爵令嬢。扇子はご自身に使うものです。そこはお間違えないように」
その言葉に「え」と思い、ノット子爵令嬢の手を見る。その手には閉じられた状態の扇子が握られているが……。
そうか。
私が無理矢理イーサンに抱きついていると思い、その扇子で私を……叩こうとした?
うん、多分そうね。それにいち早く気づいたイーサンが阻止してくれたんだ。
イーサンが手をはなすと、ノット子爵令嬢は手首をさすりながら、引きつった笑いを浮かべる。その上でこう尋ねた。
「イーサン卿、それでそちらのご令嬢は見たことがない方ですが、どちら様ですの?」
「ではまず、君から名乗ってはどうですか?」
イーサンが……すごく冷たい!
ど、どうしたのかしら!?
確かに扇子で叩こうとしたのは、ダメだったかもしれない。でも未遂で終わっている。それに従兄弟なのだから、もう少し穏便にと思い、二人の顔を見比べた。
ノット子爵令嬢は意外にも冷静だった。
ニコリと笑うと私を見て、挨拶をする。
「アオリーナ・マイリー・ノット、ノット子爵家の次女であり、イーサン卿とは従兄弟ですの。子供の頃から彼とはずーっと仲が良くて。私、王都のタウンハウスに住んで、王立ローズ女子高等学院に通っていましたのよ」
瞳の奥に見え隠れする闘争心。
これは理解できた。
ノット子爵令嬢は、イーサンのことが好きなのね。
従妹同士でも結婚はできるもの。
そうでしたか。
それにしても。
王立ローズ女子高等学院!
名門貴族のご令嬢のみが通うことができる、淑女養成学校だわ。
既に一通りのマナー、作法、礼儀、ダンスを身に着けたご令嬢のみが入学可能で、一学年の定員はわずか三十名。その狭き門を目指し、国中の令嬢がお受験していると聞く。二十歳まで受験できるので、例年千名近くが受験する。とんでもない受験倍率だ。
なるほど。
そこに合格しているということは、完璧令嬢のはず。
だがしかし。
婚約指輪も結婚指輪もなし。
何よりもイーサンに片想いをしている……。
そして扇子で見知らぬ令嬢を叩こうとした。
ということは。
間違いない。
経歴は完璧だけど、きっと面倒くさい令嬢だわ!
関わりを持つと、多分、私は嫌な思いをすることになる……!!