義理の家族
社交界の華と言われ、誰がグレイス伯爵令嬢のハートを射止めるのか。
そんな風に皆が囁いてくれた日々が懐かしい。
ウスと愛のない借金返済のための結婚をしてから、五年が経とうとしていた。
「グレイス様はなかなかお子さんができませんよね? どうしてかしら? うちの息子は毎晩頑張っているようなのに」
朝からバッチリ化粧をしている義母は、その年齢にしてはやたらとフリルが多い紫のドレスを着ていた。どこも乱れていないのに、自身の金髪を手で撫でるようにしてから、なぜ子供ができないのかと私に尋ねる。
「……申し訳ありません。鋭意励んでいますが、こればかりは主の采配もあるかと思いますので」
アザレ色のドレスのスカートをぎゅっと握りしめ、感情を殺して私は答える。
「ヤギの乳を発酵させた乳製品を食べると妊娠しやすいそうよ。試したら? あとあなた、あの最中にあまり声を出さないのでしょう? 声を出した方が、妊娠しやすいんじゃないの?」
百歩譲り、ヨーグルトが妊活に効くかもしれない……という話は、前世でも聞いたことがあった。民間療法や迷信かもしれないが。だが、後者については……。こっちは般若心経で、あの苦痛の時間を乗り切るので精一杯なのだ。声なんて出せるわけがない。
でも言い返せるわけがなかった。
「……そうですね。試してみます」
義母は毎朝、こんなことを朝食の席で平気に口にする。そして義父もウスも何も言わない。だが……。
「母さん、そんな言い方は義姉さんが可哀そうだよ」
ウスの一歳年下のバインがそう言って私に流し目を送って来た。
これに対して私は、見て見ぬフリをするしかない。
義理の姉である私のことを、そういう目つきで見るのは、本当に止めて欲しかった。
バインは、無口なウスに対し、よくしゃべる。見た目は、ウスと同じダークブロンドに、琥珀色の瞳と、凡庸だ。だが成金男爵の次男として、気前よく金をバラ撒く。ゆえに腰巾着の令息も付き、社交界では有名人になっていた。
金に物を言わせ、令嬢にも言い寄り、裏では散々ヒドイことをしているとも聞く。さらに自分のことを「独身貴族」と言ってドヤ顔をしているとか。
デリカシーのない義母、色目を使う義理の弟。
夫は遅漏で、あれが絶望的な程に下手くそ。
義父は商売に夢中で家のことには無関心。
この家族といると、息が詰まる。