もう失神していいでしょうか?
これにはもう「くはっ……」と悶絶し、手をバタバタさせ、叫びたい状態になっている。
それをなんとか堪えたまさにその時。
「触れてみてもいいですか?」
「勿論です。どうぞお好きなだけ触ってください! なんなら両手とも差し出しますからっ!」と叫びたくなるのをなんとか堪えた。そしてロマンス小説のヒロイン通りの言葉を絞り出す。
「え、ええ、どうぞ……」
ゆっくり近づくイーサンの手が、まず手の甲に触れた。
さっきエスコートされた時にも、手は触れていたはずなのに。
その時は平気……ではなかったが、それ以上にトクン、トクンと心臓が反応している。
そのままイーサンの指が私の中指をなぞるようにして……。
右手がすっぽりイーサンの手に包まれた。
潤いがあり、ほんのり温かみのあるイーサンの手。
こうやって手を包まれると、次第に安心感の方が高まる。
このまま目を閉じ、体をイーサンに預けてしまいたい。
そんな気持ちにまさになっていると、イーサンの手が離れた。
「え」と小さく声が出て、イーサンの顔を見上げてしまう。
するとブルーシルバーの前髪がサラリと揺れ、宇宙のような紺碧色の瞳が甘く輝く。
あまりにも優美で口をぱくぱくさせていると、一度離れたイーサンの手が、私の手の平に近づく。お互いの手の平があわさったその状態で、彼は私の手を自身の方へ引き寄せる。
そこで「チュッ」と可愛らしい音がして、手の甲にキスをされたのだと分かった瞬間。
腰が抜けた。
だがそこはさすが騎士団の副団長。普段から鍛えているその動体視力と俊敏さで、私の腰に腕を回す。おかげで床にへたりこむ事態は回避できた。だがしかし、完全にイーサンから後ろから抱き支えてもらっている状態になった。
清潔感のある石鹸の香りがする。
さらに手はまだ持った状態。
これで腰に力をいれ、きちんと自分の足で立てと言われても……。今の私には無理ゲーですっ!
「髪から香るのは……甘くてフルーティーな……フリージアを使った香水ですか?」
私よりうんと背の高いイーサンの顔は、私の頭上近くにある。
後ろから抱き支えているような今の状態では、必然的に私の髪に、顔を埋めるしかない。そこで香水に気が付いたようだ。
「は、はいっ。フリージアとアプリコットの香りをブレンドした香油を髪につけています……」
「あなたにピッタリな香りですね。とても……素敵です」
もう失神していいでしょうか?
イケオジなエルン騎士団長、私にイーサンを教え導くのは無理でした。
練習相手も務まりません!
というかこの世界に、イーサンの練習相手ができる令嬢なんているのでしょうか!?
どう考えても確定で恋に落ちてしまいそうなのですが……!
心の中で抗議しているまさにその時だった。
「イーサン卿! 休暇中だと聞いて、探しましたのよ! そんなところで何をされているのですか?」
私は今、完全にイーサンの胸の中に収まっている。
よって今、声をかけてきた女性……令嬢に私の姿は見えていないはずだ。
後ろから抱きしめているわけではない。
抱き支えてもらっているのだけど、これは間違いなく、抱きしめていると勘違いされる気がした。
というか、誰です?
公爵家の私設図書館に足を踏み入れているご令嬢って!
しかもこの声の感じ、まだ若く感じる……。
だ、誰なの……?














