羞恥で震える
これから練習をするというのに!
お互いがこんな真っ赤になっている場合ではないと思う。本当に、何をしているの、私達は!
深呼吸と般若心経で気持ちを落ち着けた私は「クラエス副団長、早速こちらで練習しましょう」と通路から奥まった本棚の方へと移動した。
辿り着いてこの場所が死角になっており、柱の影であることから、妙にリアリティがあった。
つまりはイチャイチャするためにここへ来ました!――そう思えるようなスペース。
一度落ち着いたはずの心臓がせわしなく反応している。
「般若心経を……」
「? ハン……ハンニャンシンキョウ?」
ハンニャンシンキョウ!?
イーサンが思いがけずニャン語を口にしたので、頬が緩みそうになる。
可愛すぎる……!
「な、なんでもないです、早速、練習してしまいましょう!」
動転し過ぎて、般若心経と口走ってしまった。
「ハンニャンシンキョウ?」と問いかけるイーサンは、イケメンとは思えない愛くるしさ! とっと練習を終えないと、私が悶絶死しそうだ。
ということで、すっと手を伸ばし、本をとろうと顔をあげ、まさに手が届かない場所にあった本は――。
『歴史に見る夜伽~異国見聞録~』
よりにもよって、なんて古書を収蔵しているんですかー!
伸ばした手が、羞恥でフルフルと震えている。
しかもこの本の隣にあるタイトルが、これまた赤面もの!
左に『入門 カーマ・ストーラ』、右は……『The Perfumed Garden』って何? こっちは怪しい本ではないのかしら? ならばなるべくこっちを取ろうとしていると、思われた方がいい。
そう思ったまさにその時。
イーサンと私の手が、一瞬だけ、触れた。
ほんの一瞬。
まるで雪が、肌の上で瞬時に溶けるようなその刹那。
ドキッと鼓動が大きく聞こえ、全身がカーッと熱くなる。
たかが指が触れただけで、ど、どうしてこんなに……!
「ローズベリー伯爵令嬢の手は……なんて小さく愛らしいのでしょうか」
ロマンス小説まんまのセリフを、イーサンが話し出した。
その声が予想以上に近くて、体がビクッと反応してしまう。
本を取ろうと、お互い本棚に近づいているのだ。
近くなって正解なのだけど、ただでさえドキドキが止まらないのに!
だ、大丈夫かしら!? 私の理性! 崩壊の危機!
振り返ることはできないが、背後にイーサンを感じる。
「僕の片手で、その両手はすっぽり収まってしまいそうです。爪はまるで、小ぶりのピンクの薔薇の花びらのよう。肌もお綺麗ですね。うっすら浮き出る血管さえ、神々しく感じてしまいます……」
そう言った後に。
イーサンが大変甘い溜息をもらした。
これにはもう「くはっ……」と悶絶し、手をバタバタさせ、叫びたい状態になっている。
それをなんとか堪えたまさにその時。
カーマ・ストーラは、古代インドの愛の教科書。
世界三大性典の一つ。
The Perfumed Gardenは、『匂える園』というアラビア語の性典。
こちらもまた世界三大性典の一つ。
なぜこんな本が公爵家の私設図書館にあるのかは……楽しく想像してみてくださいw














