ぜ、ぜひ、お願いしますっ!
もう頭では理解している。
早速、イーサンが練習をしているのだと。
でも実際にそれをされると、もう心臓がバクバクしてしまい、大変だ!
そこで戸惑うようなイーサンの瞳と目が合う。
へ、返事をしなければ!
「ぜ、ぜひ、お願いしますっ!」
随分と前のめりな返事をしてしまったことで、バクバクより恥ずかしさの気持ちが際立った。その状況で、イーサンは安堵の微笑を浮かべる。それを見た私はもう、こうするしかなかった。伝家の宝刀の般若心経を、最大限で心の中で唱えた。
すっと伸びた手が、こめかみのあたりで止まる。
ドクンと心臓が盛大に反応した。
淡い桃色の、形の整った爪が見える。
イーサンの指が、私の髪を流すようにして、耳の上に触れた。
「はうっ」と小さく声を出してしまい、羞恥で目をつむることになる。
何度か同じ動作をされ、もう頭の中には菩薩様さえ浮かべ、般若心経をとにかく念じた。
ようやくイーサンの手が離れ、どうやら髪を耳にかけることができたようだ。
すると今度は、左手で顎を押さえられ、驚いて目を開けてしまう。
真剣な瞳と目があい、爆発しそうな心臓が、少しだけ落ち着いてくれる。
ちゃんと髪に薔薇を飾ることができるのか、確認しているんだ……。
イーサンがとても真摯に向き合っていると分かった。
ドキドキしている場合ではない。
真面目ね、本当に。イーサンは。
遂に薔薇の飾り付けが終わったようだ。
とても満足な笑顔になったイーサンを見て、私の顔もほころぶ。
「……ありがとうございます」
薔薇の花一つで大袈裟な――と言い聞かせ、狂喜乱舞しそうになる自分を抑える。だがイーサンは実に嬉しそうな笑顔のままで、私に尋ねた。
「どうでしたか?」
「完璧過ぎて、もう鼻血が出そうです。多分、花を髪に飾る。これはもう練習なしで、大丈夫でしょう。むしろ意中の相手以外には、やってはいけないと思います。間違いなく、こんなことをされたら、恋に落ちてしまうと思いますっ!」と言いたくなるのを堪える。
代わりに。
「素晴らしかったと思います。薔薇を用意するまでもとてもスムーズで。それに意図したわけではないでしょう。それでも慣れていない分、ゆっくり髪を耳にかけ、真剣な顔になることで……。とてもドキドキさせられました」
私の評価を聞いたイーサンは、ぽっと頬を赤める。
その上でこんなことを尋ねた。
「……ドキドキしたのですか?」
「し、しまたよ。ちゃんとしたので、大丈夫です!」
そんなに心配しなくても、十分、十分すぎる程、ときめかせることができている。
練習なんていりませんでした、ごめんなさい!と心の中で謝罪していた。
だが私の意図は、全く伝わることがない。イーサンは再び、あのシルクのような肌触りの手を、私に差し出す。その手に自分の手を重ねながら思う。
上目遣い、そして薔薇の花を髪に飾られるだけで、もう天にも昇るぐらい嬉しくなれた。心臓は、海から上がった魚のように大騒ぎ。意識は飛びそうになるし、全身の血流もとてもよくなっている。とても熱く感じていた。
図書館。
図書館では……そうだ、手を触れるだけだ。しかも触れるか、触れないかでドキドキするぐらいなら……。今、実際に触れているのだ。なんてことはない。大丈夫だ。問題ないと思う。
そう自分で自分を納得させ、イーサンのエスコートで図書館へ向かった。














