たまらない
「二冊目のロマンス小説はいかがでしたか?」
私が尋ねるとイーサンは、誰も座らないが用意されていた椅子から、ロマンス小説を取り出した。テーブルクロスに隠れて見えていなかったが、そこに本を置いていたのね。
イーサンが持つ小説には、昨日同様で、しおりがびっしり挟まっている。
「言動で、恋愛に役立つ――これはなかなか難しいですね。ですが見つけることができました」
「そうですか。ぜひ教えてください!」
「はい」と笑顔のイーサンは、本のページをめくる。
「ではいくつか挙げますね。まずは『彼は私の手が届かない、上の棚にある本も、簡単に取ってくれる。笑顔で本を渡してくれるその姿に、頼もしさを感じる』『庭園には美しい薔薇が咲いており、その中でひと際綺麗なものを一輪選ぶと。彼はそれを短剣で切り、棘や余計な葉を落としてくれる。そしてどうぞと差し出してくれた。当たり前のように薔薇を捧げてくれる彼に、嬉しくなってしまう』『舞踏会では飲み物を率先してとってくれたり、休憩を勧めてくれたり、細やかな気遣いをしてくれる。舞踏会にまだ慣れていない私には大いに助かった』……」
イーサンは嬉しそうに、恋愛に役立ちそうだと自身が感じた箇所を挙げてくれている。そして彼が選んだその行動は、間違ったものではない。高い場所にある本を取ってあげること。美しい薔薇をプレゼントすること。慣れない舞踏会に参加する相手を気遣うこと。
どれも恋愛において、正しい言動だ。
だが……。
今、イーサンが挙げた三つのシーン。
そこにはもっと恋愛に役立つ言動が、記載されているのだ!
既にこのロマンス小説を読み、文章を聞いただけでどの場面かだいたい分かる私は。
イーサンに、ここに気づいて欲しかった!
まず高い場所にある本を取るシーン。
そこに至る前段で、主人公は本棚に手を伸ばす。するとお相手の騎士は、すぐに主人公の手が届かないことに気づく。
騎士もその本に手を伸ばす。すると二人の手は一瞬だけ、触れ合うのだ。その状態に主人公は、ドキドキしまくる! 騎士は微笑み、その手の小ささ、可愛らしさ、肌の美しさを褒め――。
「触れてみてもいいですか?」と尋ねるのだ!
エスコートだってしたことがある。ゆえにそんな風に尋ねる必要はない。だが改めてそう言われると、相手を意識することになる。
ゆっくり手が触れるまでのあのドキドキ。
たまらないだろう。
そしてこの世界では、特に貴族の未婚の男女の接触は、控えるように求められていた。
よって「触れてみてもいいですか?」という一言は、効果てきめん。
言われた令嬢はドキドキ間違いなし。
さらに。














