ラベンダーの花束とミートパイ
藤棚の下でお茶をしながらイーサンに会う。
それならばとこの日は、ウィステリア色のドレスを選んだ。身頃を飾るのは、ミルキーな紫色のシャンテリーレース。ウエストを飾るロイヤルパープルのシルクのリボンは、いいアクセントになっていた。今回はイーサンを意識し、その瞳と近い紺碧色のラピスラズリのイヤリングと髪飾りもつけている。
朝からの晴天で、降り注ぐ陽射しはぽかぽか……というより、もう暑さを感じるぐらい。
手土産として持参するラベンダーの花束、軽食として楽しめるミートパイをホールで用意し、馬車に乗りこむ。
こうして馬車に揺られ、初めて向かうクラエス公爵家のお屋敷。
馬車道沿いに、レンガの垣根に格子を重ね、その隙間から立派な建物が見えてきた。正門に門番が控え、中に入るとタウンハウスかと思うほどの広々とした庭が見える。母屋の他に離れ、厩舎、乗馬の練習場も見え、さすが公爵家とそのスケールに圧倒された。
王都でこれだけの屋敷を構えられるなんて、王族と本当に力のある公爵家だけね。
ようやくエントランスに到着し、馬車が止まると。
そこには私を迎えに来てくれたイーサンと……クラエス公爵夫妻の姿が見える!
イーサンは、白シャツにウィステリア色のセットアップ、撫子色のタイと、サラサラのブルーシルバーの髪によく合う装いをしていた。
そのイーサンと同じ髪色のクラエス公爵は、濃紺のスーツの上下。クラエス公爵夫人は、若草色の落ち着いたドレスを着ている。左側でまとめたモーヴシルバーの髪は緩くウェーブし、とても美しい。夫妻揃って、年齢よりうんと若く見えた。
「ローズベリー伯爵令嬢、わざわざ訪問いただき、ありがとうございます」
イーサン自らが、馬車から降りるのを手伝ってくれる。
さらに馬車から降りると、クラエス公爵夫妻が代わる代わるで挨拶をしてくれた。持参したお土産を渡すと、クラエス公爵夫人は大喜びだ。
「とてもいい香りだわ。これ、ポプリを作るので使わせていただくわね。これだけたっぷりあると、ラベンダーティーも作れそう」
藤棚を作るぐらいだから、花好きだろうと思ったら、正解だった。
しかも予想通り、ラベンダーを活用すると言ってくれている。
ただの飾るだけの花束にしなくてよかったわ。
「これは自家製のミートパイか! しかもイノシシ肉を使っているのか。これは……たまらないな。これはわたし達もいただかせてもらおう。二人のティータイムの席にも出せるよ」
今回持参したミートパイは、イーサンが狩り好きであることから、イノシシ肉で作らせたもの。ちゃんと処理をして臭みもなく、筋もなく、柔らかくしたイノシシ肉で作ってもらっている。過去、何度か食べて美味しかったので、きっと喜んでもらえるはずだ。
我が家にイーサンが来た時。
母親が挨拶をすることになった。
今回、イーサンの屋敷を訪問したら、もしかしたらクラエス公爵夫妻がでてくるかもしれない……と考え、選んだ手土産。喜んでもらえて嬉しい、という気持ちと同時に。どこかでクラエス公爵夫妻に、私自身も気に入って欲しい――そう考えていたことに気が付く。
シャンテリーレース:マリー・アントワネットも愛した繊細で凝ったレース。
モーヴシルバー:紫っぽい銀色。


















