結婚生活
ギシッ、ギシッ、ギシッ、と激しく揺れるベッドの音。
夫であるウスは、一心不乱で腰を振り続けている。
ウスのダークブロンドの髪が揺れ、一重のグレーの目は真剣そのもの。
一方の私は頭の中で、前世で覚えていた般若心経を唱えていた。
般若心経を覚えることになったきっかけは、動画で見た配信者のこの一言。
「上司とか親とかのくだらない小言を聞かなきゃいけない時に、頭の中で般若心経を唱えるなんですよ。すると自然と心が落ち着き、小言のことも気にならなくなる。しかも般若心経ってお経でしょう? それを唱えるなら、いいことをしている気持ちになれるから、一石二鳥!」
確かに私は今、苦行の最中と言える。
ウスは恐ろしい程、夜の営みが下手くそだった。前世でその経験はなく、今生にて初めて経験したわけだが。それでも下手であると分かったのは、乙女ゲームやTLで見た手順と全く違うからだ。
やたらキスだけしつこく、その後はなぜか左胸ばかり執拗に触り、こちらの準備ができていないことなどお構いなしで、腰を振り始める。最初はもう、あまりの激痛と苦痛で、ウスを短剣で刺し殺してやろうかと思ったぐらいだ。
かつ、男女の営みとは、こんなにも辛いものなのかと驚愕した。それでいてウスはその欲求が強い。一晩で一度では収まらない。かつ遅漏。
とにかく最悪だった。
懸命にどうしたらこの痛みから解放されるのかと調べ、この世界に存在する潤滑油を見つけ、それをなんとか使わせ、耐える日々が続いていた。しかもこちらが月のものではない時以外、連日連夜なのに、子供は一向にできない。
この悪夢のような行為は修行だと思い、もう般若心経を唱え、乗り切ることにした。
そして今、もう般若心経を六回は念じ終わっているが、ウスはまだ果てない。
仕方ないので七回目を念じることにした。