魅惑の唇の件
イケオジなエルン騎士団長はこうも言っていた。
――「縁談話を持ち掛けても、本人がとにかく乗り気ではないんだ。お相手がいくら前のめりでも、うまくいかずに終わってしまう」
うーん、これって私の手に負える案件!?
だって本人は普通にしていてもモテてしまうのだ。令嬢が喜ぶような行動をとる必要がない。それでいて縁談話を持ち込まれても、乗り気ではないということは……。
そこで視線を感じる。
イーサンがあの紺碧の瞳で私を見ていた。
何も言わずにじっと。
そう。
そうだわ!
ボルギー男爵夫人の仮面舞踏会よ!!
軽食コーナーに突然現れた魅惑の唇の騎士の正体は、このイーサン!
前世と今生で初めて自分からキスしたいと思った騎士様と再会できた。だがそれは、イケオジなエルン騎士団長から恋愛力向上を頼まれた他でもない副団長!
イケオジなエルン騎士団長はこの依頼を引き受け、上手くいけばイチ押し騎士を紹介してくれると言っていたが……。魅惑の唇の騎士=イーサンでは紹介してもらえない。まさか恋愛力向上を頼まれた相手を私が好きになってしまいました、てへぺろ(・ω<)と言うわけにはいかない。それでは教え子を好きになってしまう先生みたいではないか!
何よりも。冷静に考えたら、あれだけの魅惑の唇の騎士なのだ。初婚の令嬢と結婚したいだろうし、バツイチの私が相手にされるわけがなかった。
いろいろゴチャゴチャ私が考えているのをイーサンはただ心配そうに眺めていることに気づいた。
そうだ、具合が悪くないか尋ねられていたのだわ。
「すみません。少し思い出したことがありまして……。その件の前に二つお伝えしますね」
深呼吸をして、邪念を振り払う。
どんなに素敵な相手でも、手に入らないのだから、ときめくだけ、無駄。
「まず、具合が悪いか、という件ですが、何も問題ないです! 安心してください」
そう言ってニッコリ笑う。さらに。
「騎士なのに甘い物が好き。騎士と甘い物、この二つが結びつかない、おかしいと思われないかというと……。おかしくなんかありません! むしろ喜ばれます」
「そうなのですか……」
ようやくイーサンの紺碧の瞳が落ち着いてきた。
具合が悪いかと心配したが、こうやって元気に話すので、安心できたのだろう。
「令嬢は甘い物が好きな方が多いのです。甘い物が好きと分かれば、こうやってカフェで一緒に甘い物を楽しめるではないですか。それに騎士が甘い物が好きなのは、なんだか可愛いと思います。萌えると思います!」
私の言葉にイーサンが口を開く。

























































