ドキドキしている
サラリとブルーシルバーの前髪が揺れ、読んでいた本から視線をこちらへと向ける。
陽射しを受け、透明感が増した紺碧色の瞳を細め、文学青年……イーサンが私を見上げた。
私の瞳を見て、髪に目をやり、スッと席から立ち上がる。
無駄のない動きで、余計な音も立てず、実に優雅だ。
私の瞳と髪を見たということは。
おそらく事前に聞いていた私の特徴と、目の前にいる私を見比べ、確認したのだろう。
「初めまして、ローズベリー伯爵令嬢。エルン団長からあなたを紹介いただいた、イーサン・ヒュー・クラエスです。王立騎士団で副団長を務めさせていただいています。……この度はいろいろご指導いただけるということで、よろしくお願いいたします」
明るく涼やかな声。その容姿と相まって、私の相好は自然と崩れてしまう。
「初めまして、クラエス副団長。グレイス・デューレ・ローズベリーです。こちらこそ、よろしくお願いします。お会いできて光栄です」
お互いに挨拶が済み、着席した。
心臓がドキドキしている。
まさかあの文学青年が、イーサンだったなんて。
でも納得ね。
読書好きだと聞いていた。
本を読む時は没頭すると言っていたが、その通りだ。
あれだけ店内の令嬢がチラチラとイーサンを見ているのに。
一切気にせず、本に集中していた。
本当に本好きなのね。
「!」
イーサンがじっと私を見ている。
しかも微笑を浮かべたその様子は……。
ど、どうしよう……ドキドキが止まらない。
「ご注文はいかがなさいますか?」
ハッとしてイーサンの方を見ると、既に紅茶を注文していたようだ。
「クラエス副団長がお飲みになっている紅茶は何ですか?」
「私はブレンドハーブティーです」
そう言うとイーサンは、メニューブックを開き、「この中から三種類の茶葉を選び、ブレンドハーブティーとして出していただきます。僕はローズマリーとペパーミント、それにオレンジブロッサムを合わせました」と教えてくれる。
「ローズマリーは癖があり、香りも独特です。ですがこのブレンドであれば、オレンジブロッサムをメインで入れていただくので、ローズマリーがいいアクセントになります。そしてペパーミントの清涼感が、口の中をさっぱりさせてくれる。気に入っているブレンドです」
「な、なるほど……。クラエス副団長は、紅茶にお詳しいのですね」
「あ……はい」
透明感のある肌がぽっと淡い桜色に染まる。
「「はうっ」」と小声を漏らし、卒倒しそうになったのは、私と店員さん。
店員さんは私の椅子の背もたれを掴み、なんとか倒れるのを回避。
私はなんとか歯を食いしばった。