社交界デビュー
グレイス十五歳にて、社交界デビューを果たす。
この日、舞踏会に足を運んだ私は、前世そして今生にて、初めてモテ期を実感する。
なにせ次から次へと令息からダンスの声がかかるのだ。
無論、その日に備え、ダンスは完璧にマスターしていた。
そしてダンスに誘われやすい方法も。
まずダンスに誘って欲しい令息を見つけたら、私に気が付くまで見つめ続ける。その間、寄って来る令息は無視だ。
「うん、自分のことを見る令嬢がいる……?」
そう令息が気付き、私と目があった3秒後。
視線をはずす。
同時に、群がる令息と談笑し、もうその令息のことは見ない。
さて、こうなるとその令息はどうなるか。
乙女ゲームとTLで鍛えた私の恋愛脳が、以下の分析を瞬時に行う。
そう、令息が今のアイコンタクトでどうなったのかを!
あんなに熱い視線を自分に向け、そして確かに目が合い、お互いに見つめ合った。
美しい令嬢。
波打つようなプラチナブロンドに撫子色の瞳をしていた。
皆と同じ、白のドレスを着ているのに。
彼女のドレスだけ、輝いているように見える。
あの美しい令嬢は誰だ?
俺に興味があるのか?
そう思うが、なぜか令嬢はもう一度視線をあわせようとはしない。
それどころかその美しさに群がる令息達と談笑している。
なぜだ、どうして? 俺に興味があったのではないのか?
他の令息とあんな笑顔で話すなんて……。
気に食わない。
あの令嬢の笑顔を独占できるのは……俺だ。
以上が令息の心の動き。
この予想が正解かどうかは、すぐに分かる。
ずっと令息の様子を目の端で捉えていた。そして今、彼は意を決した表情となり、テールコートを揺らし、こちらへと向かっている。
その様子を見た私はニマニマ笑いそうになり、大変。
扇子で顔を隠し、心の中でガッツポーズ。上手く行ったわ!と。
もう私に夢中に違いないと思ったその時。
予想通りの一声がかかる。
「失礼。ご令嬢、よろしいでしょうか」
群がる令息をかき分け、狙っていた彼が、声をかけてくれた。
◇
この調子で私は、次々と意中の令息に声をかけてもらい、ダンスを楽しむことができた。
壁の花って何のことかしら?とばかりに、社交界の華へと昇りつめていく。
勿論、こういう時。
出る杭は打たれやすい。そこは抜かりなく動く。
まず、腰巾着令嬢は家門の名で封じる。ボス令嬢には貢物。かつボス令嬢が狙う令息には絶対に手を出さない。わざわざライオンが狙う獲物を、猫の私が奪いに行く必要はないのだから。
それに。
ボス令嬢には縁談話が出ている。間もなく、目の上のたん瘤は消えてくれるだろう。そう思っていたら……。