それは鬼畜の所業だ
父親が若い頃、この国は戦争がまだ頻繁にあった。それは隣国との戦いしかり、内戦しかり。そこに彗星のごとく登場した凄腕の騎士が、今のエルン騎士団長だ。彼が戦場を駆け抜けると、屍の山が築かれる。
だが同時に、焼け出された国民には救いの手を差し伸べ、彼らを安全に避難させた。このことでまず内戦が終結。国が安定することで、隣国との戦いに参加する兵も増え、見事勝利を収めた。最終的に平和条約が結ばれ、現在の安定した治世を迎えることができたのだ。
つまり生きる伝説、この国の英雄、それがエルン騎士団長だった。
「自分が現役にしがみつけば、後輩が育たない。それに将来有望な副団長もできたからな。奴が男としても一人前になったら、自分はもう引退するつもりだよ。田舎に引っ込み、のんびり畑でも耕して過ごすつもりさ」
それは勿体ない……!
こんなにイケオジで声も素敵で、輝かしい戦績を誇るのだ。このまま名誉団長として騎士団に残り、後輩の育成をぜひして欲しいと思う!
ということで目の前の人物が、生きる伝説のエルン騎士団長であることが分かった。それはバインも同じ。
胸倉を掴まれ、持ち上げられている時点で、呼吸もままならない。その上で相手があのエルン騎士団長だと分かった。青ざめた顔は蒼白となり、目が死んでいる。
「おっと。虫けらだが、命がある。むやみには殺せんな」
イケオジのエルン騎士団長がパッと手を放すと、バインはどさりと床に転がる。
「それで。貴様。レディに対して、何をしようとした? 自分には団長特権がある。女子供が侮辱され、その名誉や身体が傷つけられた時。同等の報いを負わせることができる。返答次第ではこの特権を行使するぞ!」
床に転がったバインは、気絶したフリでこの場をやり過ごそうとしていた。だが、そうは問屋が許さない。答えないと……多分、着ている服をボロボロにされる?
「も、申し訳ありません! 自分はこちらの義姉さんを心配し、訪ねただけです。兄と離婚し、寂しいのかと思い、よければ自分が慰めになろうかと……」
「……ローズベリー伯爵令嬢」
「は、はいっ!」
イケオジなエルン騎士団長に声をかけられ、ドキドキしてしまう。
父親と同い年だから、恋愛対象にするつもりはない。
でも父親とは同い年とは思えない程、カッコイイ。
この反応は生理現象。仕方ない!
「君はこの男の慰めを求めるのかね?」
「一切求めるつもりはありません! 既に離婚が成立し、私はこちらのバイン様の義姉でもないのです。こんな風に抱きつかれて、ドレスがボロボロになり、ましてやプロポーズされるなんて。屈辱的です! 私の名誉が汚されたと思います!」
「なるほど。一方的に想いを寄せられ、断りもなく抱きつかれた。……それは鬼畜の所業だ」
イケオジなエルン騎士団長が、バインを睨んだ。

























































