私が動くしかない
「ばばぁのくせに、調子に乗っているんじゃねーよ」
この世界の恐ろしいところ。それはこの世界全体の価値観が、アイドルの価値観と近いということ。前世でアイドルと言えば、十代が中心。二十代でアイドルを目指すとなると、引退まで時間がない、大変だろうけど頑張ってと、同情される。
人生百年時代からしたら、二十代ではまだ若いと思うし、これからでは!と思うが、そうではない。
寿命も短いこの世界の貴族社会では、女性の年齢に対して、実にシビアだ。
さらに離婚歴があると、再婚相手が後妻か醜男、もしくは没落貴族か平民成金、平民になることも、これまた事実。
よって悔しいがバインが言うことは、全てその通りだった。
「はい、あなたのおっしゃる通りです。気に掛ける必要もない、価値のない女ですから。どうぞ、好きなだけ嘲っていただき、お帰りください」
表情を変えず、そう告げると、バインは先ほど以上に驚いた顔で固まっている。
バインの次のアクションを待つことすら、バカバカしく思えた。
よって、こう告げることになる。
「特にこれ以上、罵倒する気がないなら、どうぞ、お帰りいただけませんか」と。
さらに私としては、既に限界だったので、ソファから立ち上がった。
すると何を血迷ったのか、バインが私に縋りついた。
ドレスのスカートに抱き着き、「そんなこと言わないでくれ、義姉さん、愛しているんだ!」と泣き喚いたのだ。その様子はもはや子供。
バインは私のことを「おばさん」呼ばわりしたが、だったらお前は「ガキだ」と心の中で思ってしまう。
ここで困るのは、暴力や武器を使い、危害を加えるような状況だったのなら。ヘッドバトラーとメイド長も、止めに入りやすい。だがバインはスカートに抱きつき、子供のように泣きじゃくっている。
ヘッドバトラーとメイド長も近くに来て「落ち着いてください、お客様」と声をかけるが、手を出しにくい。
こうなったら、私が動くしかないだろう。
バインを引きはがそうとする。だが彼は、まるで私から手を離したら、溺れてそのまま海底に沈む……とでもいうかのように、がっつりスカート掴んで放さない。
「おやめください、放してください!」「いやだよ、義姉さん、愛している!」
この問答をしばらく繰り返し、揉み合い状態になっていた時。
「ビリッ」
嫌な音が響いた。
まさか。
そう思ったがもう遅い。手縫いのドレスは繊細だ。モーブ色のこのドレスは、スカート部分が三段ティアードになっていた。その二段目のフリルがビリビリと破れたのだ。
伯爵令嬢のドレスが目の前で破かれた事態に、普段は冷静沈着なメイド長が「きゃぁーっ」と悲鳴をあげた。私は割と冷静だった。だがこの世界、スカートで隠された足は、秘匿しておくべきものだ。このままスカートが引き裂かれ、足が露わになったら大変と、メイド長はパニックになったのだと思う。
メイド長の悲鳴に、さすがにバインも慌て、私から手を放した。
「義姉さん、ごめんな」
バインが謝罪の言葉を口にしようとしたまさにその時。
応接室の扉がバンッと勢いよく開いた。














