消される前に
レイリー男爵家に、ウスなどいなかったことにするために。
私を消すことさえ、義母は匂わせたのだ。
これにはさすがの私も驚き、父親にSOSを求めた。すると父親はウスに手紙を送り、先に離婚の手続きをすすめてくれたのだ。
おかげで私は義母の手で消される前に、実家へ戻ることができた。もうそれは夜逃げみたいな状態で。
逃亡した私に対し、義母はいろいろやらかそうとしたが、こちらは離婚に同意するウスのサイン入りの書類の用意がある。弁護士や代理人を立て、徹底抗戦の構えを見せると、おとなしくなった。
何しろ裁判となり、なぜ離婚なのかとなった時、ウスが性病であることが公に明かされてしまうのだ。それは義父も義母も望むところではない。とにかく秘匿したいのだから。
よって私にこれ以上手出しはしないと決めたようだ。代わりに勝手にお詫び金(?)なるものが届けられ、そこには「ウスの病の件は、くれぐれも口外しないで欲しい」と書かれていた。
ウスとその娼婦がかかった性病は致死率も高く、その病名を聞いただけで、嫌悪する人も多い。離婚した夫がその病にかかっていたなら、その妻も……と、変な詮索をする人は現れるだろう。どれだけ私が健康でも。
よって私だって口外するつもりはない。それは私の家族も同様だった。
ちなみに離婚は、この国の制度として原則認めていない。その一方で何もかもが金で融通が利く世界でもある。法律的には認められにくい離婚でも、抜け穴はあった。つまりしかるべき立場の人物に金を握らせることで、離婚が成立することもあるわけだ。
だが今回、抜け穴を使う必要はなかった。隣国で発生している性病は忌むべき病であり、結婚相手がこの病に感染し、発症した場合。問答無用で離婚が認められるという法律が、まさに三年前に成立していたのだ。
こうして私は愛のない結婚五年目で、バツイチになった。