恋は一期一会、チャンスを逃したら、次はない。
毎日履く靴である。その手入れさえできない男が、パートナーへ気配りができるはずがない。よって靴を見れば……。
って、今、そんなことを考えている場合ではない!
この部屋には、あの魅惑の唇の騎士と私しかいないのだ。
ということは、今見えている靴はその騎士だ。
もし違っていたら、ホラーだ。
靴が見えて、上半身がなかったら、それは幽霊かモンスター!
そんなことはあるまいと顔を上げ、ちゃんとあの宇宙のような紺碧の瞳と目が合う。
安堵したのは束の間、鼓動が早くなる。
そしてそのまま魅惑の唇の騎士様と見つめ合うことになった。
最初はもう、加速する心音があまりに大きい音なので、聞こえているのではと焦ってしまう。おかげでさらにドキドキ度が増していた。でもその瞳を見ていると……。
次第に気持ちが落ち着いてきた。
なんというか、そんな瞳なのだ。
あまりにも綺麗で、鑑賞している気持ちになってくるというか……。
透明感があり、静謐な美しさを感じる。
多分、このまま好きなだけ見ていていいと言われれば、飽きることなく見つめることができると思った。
だが、しかし。
こんな無言で見つめ合うのは、さすがにおかしい。
もしや今日は無礼講だから、私から話しかけるのを待っているのかしら?
でもここまで女性が黙り込んでいるなら、男性から話しかけてくれてもいいのに。
「あ、あの……」「なんだ、そこにいたんですかー!」
ガヤガヤとした声と共に、沢山の騎士と数名の令嬢が部屋に入ってきた。
急に騒がしくなり、しかも令嬢がまだ十代なのかキャピキャピしており、なんだか落ち着かない。感覚としては、コンビニ前でたむろする十代男女の若者にビビる二十代という感じか。
しかもあの魅惑の唇の騎士は、彼らに取り囲まれている。
取り囲まれているが、それでも頭一つ分飛び出しているのだから、かなり高身長なのだろう。
もたもたせず、声をかければ良かった。
そう思うが、もう遅い。
私は部屋を出て、舞踏会が行われている大広間に戻る。
そこで三曲ほどダンスをしたが……。
違う。
そう感じてしまった。
騎士だったら誰でも!というミーハーな感覚で、ダンスをしたいという気持ちではなくなっていた。あの魅惑の唇の騎士様とダンスをしたい……と、なんだか初恋をした乙女気分になっている。
だが、再度、軽食部屋を覗いたが、あの魅惑の唇の騎士様の姿はない。
かつての私だったら、こんな失敗はないはずだった。
恋は一期一会、チャンスを逃したら、次はない。
少しでも心が動く相手がいたら、まずは名前だけでも聞いておく。
この世界、スマホもなければ、チャットアプリも通話アプリもない。
代わりに名前さえわかれば、たいがいの貴族がどんな人物であるか分かるようになっていた。
これが五年のブランクの結果かなぁ。
開始早々のテンションの盛り上がりはなく、なんだかどっと疲れて屋敷に戻ることになるが――。
とんでもない情報が、翌朝届いた。それは……。
「ウス様が病に倒れました」