棚ぼたラッキーには恵まれない
人妻となってしまった今。
無駄に恋愛偏差値が高いだけの私であるが、もし未婚だったら。
間違いなく、ボルギー男爵夫人の仮面舞踏会への参加を選んだだろう。
そう。
今でこそ、恋愛感度が低くなっている。だが未婚令嬢のままだったら、事前にどちらへ行くか、吟味したと思う。そして感度良好な私は間違いなく、高男性出席率、高騎士率、ノー同伴率の高さに気づき、迷うことなくボルギー男爵夫人の仮面舞踏会へ行く選択をしたはずだ。
今回は、単純に義理の弟が行かない舞踏会として、このボルギー男爵夫人の仮面舞踏会を選んでしまったわけだが。
何を隠そう私自身が騎士フェチなのだから!!!!!
ロマンス小説にはとんでもない力を持つ王太子や皇太子、隣国の王子なんかが登場する。でもやっぱり行きつく先は騎士様ですよ。
だがしかし。
理想と現実は違う。ウスは将来の男爵だが、騎士ではない。既に三十路を迎えたウスのお腹周りは、目をつむりたくなるものだった。顔はそこまで悪いわけではない。だが引き締まっていないぶよぶよした体は……。
もしここに愛があれば。
どんなにぶよぶよだろうが、乗り越えられた。
だが、ないのだ、肝心の愛が!
それで苦行を含めて我慢するのは……!
せっかく乙女ゲームのような世界に転生できたのに。ヒロインではない私は、棚ぼたラッキーには恵まれない。むしろこの世界で、あるあるの愛のない結婚が、ゴールだった。しかも子供はまだかと義母にいびられ、義理の弟からは言い寄られて……。
うっかり嘆きそうになるが。
今は好物の騎士様がわんさかいる舞踏会にいるのだ。しかも仮面舞踏会! かつらだって被っているし、アイマスクだってつけている。ドレスもシンプルでシックなものにした。
かつて社交界の華と言われたあのグレイス伯爵令嬢だとは、気づかれないはず。
今日は沢山の素敵な騎士達とダンスをして、思い出を沢山作ろう!
思い出は脳内でいくらでも再生できる。何も必要ない。しかも脳の中まで邪魔することは、誰もできないのだ。例えウスとの苦行がまた再開されても、この思い出で乗り切る!
こうして大広間に到着すると、程なくしてボルギー男爵夫人が登場。
開催の挨拶が始まる。そして今回の仮面舞踏会の趣旨を説明した。
「この仮面をつけた瞬間から、皆さんは普段のあなたではなくなります。今日はいつもの自分と身分、職責を忘れ、別人として過ごしていただくのです」
これを聞いた騎士達はざわざわしている。
それはそうだろう。
職責と立場を最も気にする騎士や騎士見習いばかりがここにいるのだから。
「女性から話しかけるのは失礼、女性からダンスに誘うのは失礼、そんなことはなしです。男女の区別もなし。そして本名や身分を問うことこそが、マナー違反です。問われても答えなくてOK。偽名や嘘の身分を伝えて構いません。今日の皆さんは、自由です!」
実に斬新な趣旨だった。でも上官にあたる夫人が無礼講を推奨したのだ。
ならばとこの後、普段は真面目な騎士様とその卵たちが、はじけることになった。
勿論、騎士道精神を忘れない範疇で。
そしてそれは私だって同じ。
思いっきり、開放感を楽しむことにしたのだ!