恋愛頭脳で素早く分析
ボルギー男爵夫人は新しいもの好きで、自身の屋敷で仮面舞踏会を開催することにした。だが運悪く、それはダウン侯爵夫人の舞踏会の開催日と重なってしまった。
ダウン侯爵夫人は、上流階級の貴婦人の間では、よく知られている人物。彼女の主催する舞踏会には、高位貴族の女性達は、特に喜んで参加する。つまりボルギー男爵夫人の物珍しい仮面舞踏会なるものより、ダウン侯爵夫人のいつも舞踏会に、多くの人が流れるということだ。
こういうことは、舞踏会シーズンにはよくあることだった。
ボルギー男爵夫人は「しまった!」と思っただろうが、既に招待状を送った後だったのだろう。参加者が少なく、閑古鳥が鳴く舞踏会程、みじめなものはない。さらにどうせ人が来ないならと、用意する軽食や飲み物を減らすわけにもいかなかった。オーケストラのランクを落とすわけにもいかない。
すると出費はかかるのに、得るものは少ないとなってしまう。
得るもの、といっても形あるものではない。名声とか賞賛、新たなる人脈などといったものだ。きっとボルギー男爵夫人は、夫であるボルギー男爵に泣きついたのだろう。
ボルギー男爵は王立騎士団の団長、副団長に次ぐ上級指揮官の一人。自身の部下に声をかければ、上下関係を重んじる騎士の世界、断りづらい。結果として、ボルギー男爵夫人の仮面舞踏会は、ボルギー男爵の部下や騎士見習いが参加することで、男性率が高くなってしまったのだろう。
さらに。
騎士団のピラミッド構造で、頂点を占める人の数は限られている。多くが役職無しの騎士だ。しかも騎士見習いがスタートするのは、十歳前後。そこから厳しい訓練をしていると、色恋沙汰ではなくなる。何より、よほど優秀でもなければ、一人前の騎士になるのは、この世界では二十歳以降だ。
これは貴族社会の弊害で、家督を継ぐのはよほどのことがない限り、長男。そして騎士を目指すことになるのは、次男以降が多い。そして貴族令嬢が求めるのは、ダントツで長男。
そうなると多くの騎士が未婚であり、エスコートするような女性はいない……ということもしばし。しかも今日はダウン侯爵夫人の舞踏会もある。女性の多くがそちらへ流れ、ボルギー男爵夫人の仮面舞踏会に参加することを決めたものの、同伴できる女性がいなかった。
これが、男性率が高く、騎士率が高く、同伴者がいない理由だろう。
そしてこの理由が分かった今。
恋愛偏差値だけが異常に高い私はこう思うのだ。