女性にもフェチはある
ボルギー男爵夫人の屋敷へ到着すると、エントランスには思いがけず沢山の馬車が止まっている。次から次へと馬車から降りてくるのは……。
男性ばかりだ。
しかも誰のこともエスコートしていない。
なぜかしら?と不思議な気持ちになりながら、馬車を下りる。
かつて足繁く舞踏会に通っていた時。参加しているのは圧倒的に女性が多かった。男性が多い舞踏会なんて、一度も遭遇していない。
なぜこんなに男性率が高いのかしら……?
エントランスホールに入り、そこを見渡すと、やはり黒のテールコート姿の男性が多い。そして令嬢や夫人を同伴しているわけではなく、一人でフラリとやって来ている感じだ。
エントランスホールを出て、舞踏会の会場となる大広間に向かいながら、廊下にいる男性を見て気が付く。黒のテールコート姿に紛れ、騎士団の濃紺の軍服や、ブルーの隊服、見習い騎士の制服を着ている人が多い。
舞踏会で、軍服や隊服姿の男性はよく見かける。爵位持ちの騎士は、定番の黒のテールコートを着るか、軍服や隊服を着るか、選択肢があった。気分に合わせ、どちらかを着るか決めているようだが……。
恋愛偏差値高めの私からすると、断然、軍服を着ることを推奨したい。
なぜって。
女性にもフェチはあるのだ。
フェチと言えば、男性の胸フェチや尻フェチなどが知られているが、女性にもある。この世界の令嬢の中には、軍服フェチ、騎士フェチもいるのだ。
特に騎士フェチについては、ロマンス小説の影響が大きいと思う。
騎士道精神。騎士が捧げるプラトニックな愛。騎士らしい体躯――これらを好む令嬢が一定数いるというわけだ。
当然、日々の訓練で体を鍛えているから、お腹がぽっこり……ということは少ない。黒のテールコートも勿論、似合うだろう。だが軍服を着ていれば、すぐに騎士だと分かる。
軍服フェチと騎士フェチの令嬢が、もれなく反応してくれるわけだ。
そもそも舞踏会では女性率が高く、壁の花になるのは女性達。あぶれることを心配する必要はないのかもしれない。それでも壁のシミになる男性はゼロではない。容姿や体型に多少自信がなくても、軍服を着用することで、興味を持ってくれる令嬢もいるということだ。
興味を持ってもらった後、お近づきになれるかどうかは、また別問題。会話や仕草などにも恋愛テクは必要なわけで。
ともかく。
目に入る隊服や軍服、制服から、私は一つの結論に至る。