衝撃だった。
デートのお誘いの話は終わり、先日観たオペラの話をバーナードとしながら、おかわりでスイーツを食べる。
紅茶も楽しみ、フロアに戻ると……。
イーサンの姿がないと思ったら、イケオジなエルン騎士団長に声をかけられた。
前回会った時と同じ、団長専用のシルバーグレーの隊服に白のマント姿は、この舞踏会でも目立つし、映える!
「ああ、なんて麗しい。まさに美の女神の降臨だな」
「そ、そんな……。でも褒められるのは、嬉しいです」
「こんな女神を置いて先に帰るとは。けしからん奴だな」
「……?」
イケオジなエルン騎士団長によると、イーサンは何やら急用ができ、屋敷へ戻ることになった。そして既にイーサンは、宮殿の敷地内にある騎士団本部へ向かっているという。なぜならそこには有事に備え、馬を待機させている。この馬に乗り、公爵家の屋敷へ戻るというのだ。
一方私には、そのまま行きに乗って来たクラエス公爵家の馬車で、屋敷まで帰れるようにしてくれていた。それをイケオジなエルン騎士団長が、イーサンからの伝言として教えてくれたのだ。
「それとだ、女神よ」
イケオジなエルン騎士団長に、「女神」と呼ばれるのは、なんともくすぐったい!
仮面舞踏会だから、名前を呼べない。ゆえに女神と呼んでいると分かるのだけど。
「そのけしからん奴だが、女神のことを、とても褒めていたぞ。いろいろ教えてもらえて助かったと。もう既に自信をもてるようになったから、問題ないと言っていた」
「それはつまり……」
「予定していた期間より早いが、もう恋愛レッスンは終了で構わないそうだ」
これには衝撃だった。
イーサンからまだ学びたいことがあると言われ、なんとなく延長……みたいになっていたのに、こんな唐突に終わることになるなんて! しかもイーサン自身ではなく、イケオジなエルン騎士団長にそれを聞かされることになるとは。
でも、そうか。
イーサンもとうとう決めたのだろう。意中の相手に想いを伝えるなら“今だ”と。これに関して私がとやかく言うことは……できない。
「そうですか。……少しはお役に立てたのでしょうか」
「勿論だよ。そこで、だ。約束通り、君にはイチ押しの騎士を紹介しよう」
この一言に、私は「わーい」と喜ぶべきなのに、なんだか素直に喜べない。
かといって「結構です」とも言えなかった。
結局、二日後。
その騎士を紹介してもらうことになった。