始まり
くいっと顎を持ち上げられ、彼の端正な顔が私に近づく。
もうお互いの唇が触れあうぐらいの距離で、甘い吐息がこぼれる。
ペパーミントのいい香りが鼻孔をくすぐった。
「……君のことが欲しい……」
かすれた囁き声に、体の芯から痺れ、力が抜けそうだった。
もう、完璧だと思う。
ここまでできれば。
その引き締まった胸の中から逃れようとしたまさにその時。
さらに腰をぐいっと抱き寄せられた。
えっ、ちょっと待って……!
◇
波打つようなプラチナブロンドに撫子色の瞳。珊瑚色の唇に桃色の頬。小顔で首も手足もほっそり、ウエストも引き締まっている。だが胸は見事なお椀型、お尻はキュッと上向いていた。ドレスを着れば、どんな斬新なデザインでも、素敵に見えてしまう見事なボディ。まさに完全無敵な伯爵令嬢、それがグレイス・デューレ・ローズベリーだった。
名門ローズベリー一族は、歴史も長く、伯爵家の格付けでは、最上位に位置していた。そのローズベリー伯爵家の長女であるグレイスは、実は転生者である。
つまり前世持ち!
前世では、癖毛で髪多めの眼鏡女子で、乙女ゲームとTLのラノベが大好物だった。あえて文字で読み、妄想を膨らませることを好むオタク女子。その結果、年齢=彼氏いない歴なのに、恐ろしいほどの耳年増だった。
だって。
乙女ゲームとTLのラノベには、沢山の恋愛が詰まっている。ひょんなことからフツーの女子が、イケメンからちやほやされる夢展開には、恋愛お役立ち情報が散りばめられていた。
そう、恋愛に関する知識は豊富にある。恋愛偏差値を測る試験を受ければ、ペーパーでは満点をとれる自信があった。だが、実技はどうだろう? 脳内では完璧なシミュレーションができている。だが実際にやったら……。
試すしかない。
この無駄に高い恋愛力を。
そこでただ無造作に伸ばしただけの髪を切るところから始めようと思った。
この癖毛をサラサラストレートにして、コンタクトに変える。そしてこの恋愛偏差値を生かせば、彼氏の一人や二人、簡単にできるはず。マッチングアプリも登録してみちゃう?
そう思っていた矢先にまさかの落雷による感電死! 最近、異常気象で、落雷も多いと思ったけど、まさか自分がそれで昇天するなんて。
昇天……したつもりだったが、どうも違っていた。
まさかの異世界に転生していた。そこは貴族や騎士が存在する浪漫あふれる世界! 乙女ゲームの舞台はこんな世界が多い。俄然テンションが上がる。しかも自分に前世があると分かったのは、まだ愛くるしいベイビーの時。
恋愛偏差値は恐ろしい程、高い。だが、実践経験がない。ここは……試すしかない。
つまりはもう男女問わず、使えそうな知識をすべて実践してみることにしたのだ。
お読みいただきありがとうございます!
完結まで執筆済。
スマホで隙間時間を使い、さくさく読める作品です。
それでは最後まで、物語をお楽しみくださいませ。
※ブックマーク、誤字脱字報告、感想、評価などの応援は大歓迎です!