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【書籍化】序列最下位の最弱令嬢と龍の当主の最愛婚  作者: 榊木叶音
第一章  わたしの夜が明けるまで
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第22話 エピローグ


 一連の騒動があった夜――深夜だったが、羊垣内家のお屋敷で、継母の嘉代子が逮捕された。父と梨々子も含め、三人とも罪がたくさんありそうだということで、牢で取り調べられることになったのだ。


 父と梨々子も羊垣内家の庭に移送され、これ以上暴れないようにと縛られていたが、互いを罵り合っていた。


 羊垣内家は祓い屋も商家も廃業し、このあとの『羊』は分家が継ぐことになるのだが、それはまた別のお話である。



        *     *     *



 夜が明けて、東の空が白む頃。

 道路を、九頭竜家の黒塗りの車が走る。伊織と十夜は、山を下りて、帰りの車の中にいた。


「あれだけで良かったのか? あんなやつに遠慮することなんかなかったのに」


 十夜はそう言って、伊織を見た。

 ――梨々子へのことを言っているのだろう。


「……はい。その、ドキドキしました。わたしには、あれで充分です」

「そうか」

「はい」


(大変な一日だった……)


 伊織は改めて、十夜にお礼を言う。


「十夜さま、助けに来てくださって、本当にありがとうございました」

「ああ。お前が無事で、心の底から良かった」


 伊織の手に、十夜の手が重ねられた。そのまま、指が絡められる。


「と、十夜さま……」

「……? なぜ逃げるんだ。触れられないだろう」

「あ、あの……っ。その……っ」


 伊織は恥ずかしくなって、彼の手からすり抜けようとしたが、簡単に捕まえられてしまった。再び、指が絡められる。伊織は、自分の顔が熱くなるのを感じた。

 手を握ったまま、十夜が言った。


「〝九頭竜家の次期当主は、結婚すると当主を引き継ぐ〟んだ。帰ったら、すぐに婚約の準備をしよう。祖父さまにも会わせたい」


 ――〝祖父さま〟……九頭竜家の当主のことだ。その名を聞いて、伊織はおずおずと聞いた。


「あの、十夜さま……。わたし、ご迷惑じゃなかったでしょうか? ご当主さまは、その、……もっと優秀な方の婚約を望まれているのでは……」

「大丈夫だ。祖父さまには、はっきりと言っておいた」

「――え?」


 伊織は、目をぱちくりさせた。


「そ、そんな……。大丈夫なんでしょうか……っ?」


 当主に対しても言い切ったと聞き、なんだか恐れ多いような、少しの不安が頭をもたげる。


 そんな伊織を見た十夜は、小さく笑った。


「お前はようやく見つけた、花嫁だ。絶対に結婚するさ」

「……っ。は、はい……。ありがとう、ございます……」


 ――彼がそう言うのなら、きっと大丈夫……。

 車窓からの景色は、埼多摩から頭京へと移ってゆく。




 やがて、ふたりを乗せた車は、九頭竜家へと到着した。

 先に降りた十夜が手を差し伸べ、伊織はその手を取った。

 門を通ると、桜並木が目に入った。九頭竜の各屋敷が並ぶ道沿いには、桜の木が植えてあったのだ。薄桜色の桜の花が、早朝の薄水色の空に映える。

 もう、四月になったのだ。

 ふたりは、まっすぐ十夜の屋敷へと向かった。

 屋敷の門をくぐった時、十夜が言った。


「俺たちの屋敷に帰ってきたな」

「わたしたち……。そうですね」


 もう、十夜だけの屋敷ではない。これからは、ここが伊織にとっても帰る場所になるのだ。


 玄関を開ける前に、サキが出迎えてくれた。


「まあまあ! おふたりとも、おかえりなさいませ!」

「今日から、伊織を俺の婚約者とする」

「よ、よろしくお願いします……」

「まあまあまあ! そうでしょうとも! サキはそうなると思っておりました! ささ、お疲れでしょう。お早く中へ入ってください」


 サキはにこにことしながら、伊織を屋敷へと押し込んだ。

 十夜が言った。


「サキ、伊織のことを頼むぞ。風呂に入れてやってくれ」

「若さまったら。伊織さまのお体を洗うのも、私じゃなくって、若さまでもいいんじゃないですか?」


 ゴッという音とともに、十夜の頭が壁にぶつかった。

「…………サキ」

「うふふ。なんでしょう?」

「……お前が伊織の風呂の介助をするように」

「かしこまりました! さあさあ伊織さま、こちらへどうぞ」

「あ……はい……」


 伊織はサキのあとをついて行きかけて――後ろを振り返った。

 十夜が小さく手を振ってくれているのが見えて、伊織も小さく振り返した。




 そうして、お風呂上がりにやって来たのは、十夜の寝室だった。

 眠れない十夜のために、毎晩入ったいつもと同じ部屋、のはずなのに。

 今日は、まるで違う部屋のように思えて、なんだかドキドキする。


「おいで」

 優しい声で十夜が言って、手を差し伸べた。伊織はその手を取ると、布団へと下り、膝立ちになる。

 伊織は緊張から、十夜の顔をなかなか直視できないでいた。

 十夜は言った。


「お前がいなくなってから、俺は一日だって眠れやしなかった」

「あ……! そ、そうですよね……っ。すみませんでした。えぇっと、今、能力を……」

「違う。そういう意味じゃない。……帰ってきてくれて、嬉しいという意味だ」

「え? ――きゃあっ!?」


 腕を引き寄せられ、伊織は十夜とともに布団に倒れた。十夜の上に乗ってしまい、伊織は慌てて起き上がろうとしたが、すぐに捕まえられてしまう。ふたりは、ぱたんと横になった。伊織は、十夜の腕に正面から抱きしめられた状態で、布団に寝転んでいた。

 目の前の十夜の顔は、穏やかな笑みを浮かべている。


「と、十夜さま……っ」

「今夜は、こうして眠るか。温かくて、よく眠れそうだ」

「あのあのあの……っ」


(これ、からかってるとかじゃなくって、本気で言ってる……かも……!?)


 伊織は、顔を赤くして、しどろもどろになる。


「えっと……その……」

「うん」

「そのぅ……」

「うん」

「……う、……嬉しいです……っ」

「ははっ! よかった」


 十夜は、伊織の額に優しくキスをした。


「伊織。俺の……愛しい花嫁。俺が、ずっと大事にする」

「十夜さま……。わたし、今、幸せです……」

「俺もだ。……これからは、俺がいるから」


 ――こんな言葉を、抱きしめられながら言われる日が来るなんて。

 そしてそれが、十夜さまだなんて。


「……わたしは、今までずっと、いろんなことを諦めてきました。でも、十夜さまのことは、諦めきれなくって。……諦めなくて、よかったです」

「お前が少々諦めたところで、俺はもう離してやらないがな」

「嬉しいです」


 伊織がそう返事をすると、優しく唇にキスをされる。甘さを孕んだキスに、ぼうっと夢心地になった。胸がいっぱいになって、これ以上なく幸せな気持ちだ。


(わたしが十夜さまに愛されるなんて、夢みたい……)


 彼の温もりは現実だ。伊織はそれが、なによりも嬉しかった。

 伊織を抱きしめたまま、十夜は目を瞑った。


「おやすみ、伊織」

「おやすみなさい、十夜さま」


 伊織は十夜の顔を見上げる。愛しい愛しい、彼の顔を。

 やがてその温もりに包まれて、伊織はいつしか眠ってしまった。


 温かな夜だ。羊の能力を使わなくても、ふたりともよく眠れそうだった。


お読みいただき、ありがとうございました。

「5話 九頭竜家のお屋敷」以降の展開が、書籍用に改稿しており、展開に差があります。

最後の着地点は同じですが、新章追加・新キャラ追加・既存の章にも追加エピソードの加筆があり、

そしてふたりのイチャイチャの加筆もありますので、

よろしければ書籍版もお願いします!


『序列最下位の最弱令嬢と龍の当主の最愛婚』

2025年11月28日スターツ出版文庫さまより発売です。

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