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【書籍化】序列最下位の最弱令嬢と龍の当主の最愛婚  作者: 榊木叶音
第一章  わたしの夜が明けるまで
14/25

第14話 それはとても鮮やかで


 建物がぐらぐらと揺れている。


「な、なんでしょう?」

「伊織!」

 

 十夜がすぐに伊織の手を掴み、窓から離した。

 外からは、轟くような声が聞こえている。


「グォォオオオォォッ」

「……妖怪だ。危険だ。窓から離れろ」

「は、はい」

「…………」



 

 牛の姿をしている」

「こんな街中に……きゃっ」


 ドガン!

 建物が揺れる。


 そろりと窓を覗くと、それは牛と言っても三メートルほどもある大きな体躯をしていた。

 それが、街の建物に手当たり次第ぶつかっている。

 先ほどからの揺れは、妖怪の頭突きのようだ。


「店をでる。いくぞ」

「は、はい」

「俺から離れるな」

「! は、……はい」


 十夜は伊織を抱きかかえると、階段を駆け下りる。

 店の一階は客が逃げ回っており、混沌としていた。


「十夜さま、避難を……」

「大丈夫だ」

「……え?」

 

 十夜は伊織をおろすと、落ち着いた顔で言った。

 

「大丈夫だ。すぐに戻る」

「……十夜さま?」


 そうして十夜は表に飛び出していった。

 道路には人の姿はまばらだ。みんなどこかの建物に入ったらしい。

 牛の妖怪が十夜に気がつき、ドッドッドッと走ってくる。

 そして十夜に襲いかかったかと思うと――


「はあッ!」


十夜の声とともに青い稲妻のような光が流れて、――そして牛の妖怪の動きは止まった。

 十夜の右腕は巨大化し――『龍の腕』になっていた。白く大きく、鱗のついた腕。かぎ爪は長く、鋭い。

十夜は、腕を一振りしただけで妖怪の動きを封じてしまった。

 鮮やかな、一手。


「す、すごい……」


(これが……九頭竜十夜さま……)

 

 伊織は、高鳴る胸を押さえつけた。



「怪我はないか! 伊織!」

「十夜さま……!」

十夜が走って戻ってくる。腕は、もう元の人間のものに戻っていた。


「伊織!」

「……!」

 

(わ、わ……っ! よ、呼び捨て……!)


 ……そういえば、先ほど――避難の途中にも、一度『伊織』と呼ばれたはずだ。

 

「あの、その……な、名前……」

「ん? ……ああ。つい。……嫌だったか?」

「い、いえ……! 全然、嫌とか、そういうことではなくて……」

「そうか」


 十夜は、ほっとしたような表情をした。

 

「……そうだな。客人のつもりで伊織嬢と呼んでいたが――九頭竜家(うち)にいるなら、『伊織』と呼んでもいいだろうか」

「……!」


(うちにいる、って……!)


 伊織は、昨夜のことを思い出す。

――「お前さえよければ、――このまま俺の屋敷に残ってくれないか」


「…………」


(本当に、そんなことに……?)

 まだ、信じられない。

 あの言葉は、本当だったのだろうか?


「どうした?」

「……っ! いえ、大丈夫です。……はい」

「うん。じゃあそうしよう。伊織」

「……! その、なんだか、その……」


 伊織はもごもごと口ごもる。男性に呼び捨てにされるのは初めてで、慣れない。


「伊織も、俺のことを十夜と呼んでもいいが」

「い、いえ、それは……。で、できません……」

「そうか。別にいい。そのうち頼む」

「……!」


 十夜はさらりとそう言って、少し笑った。

 

(そ、そのうち、って……!?)


 伊織がドキドキしていると、


 ピリリと十夜の携帯電話が鳴る。


「もしもし。こんな時に出現しなくてもいいんだがな」

「黒牛はまだいるとのことです」

「……そうか」


(……せっかく、街へでてきたというのに)


 街で一番人気の喫茶店が、九頭竜家の系列店だと知ったときは驚いたが、良い案だと思った。

 元気のない伊織を連れ出そうと思ったのだ。


(……いや。俺がいっしょに出かけてみたかっただけ、か……?)

 


 初めてのプリン・ア・ラモードを食べる伊織はなんとも可愛らしく、十夜の心をうきうきとさせた。

 それなのに――これか。


 十夜は、横たわっている黒牛を忌ま忌ましそうに見る。

 

「伊織。すまない。……少しばかり仕事だ。先に屋敷へ帰っていてくれ」

「わかりました。十夜さま……」

「車まで送ろう」


 ここへ来た時の運転手を、待たせてある。

 自分は別の車を手配して――先に伊織を屋敷に帰すことにする。


(まあ、またくればいいだろう)


 そう思った。





 その日の夜、どんなことになるかも知らずに……。

 

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