限界腐女子、転生先を間違えた。
わたしは、女オタ。それも俗にいう腐女子。腐っている方の掛け算大好き人間である。
イベント帰りの本日も汚部屋に戻ると風呂の湯を沸かしつつ、メイクも落とさぬままに、ベッドに寝転がって戦利品のウスイホンを嗜んでいた。
寝不足と日中に日差しを浴び過ぎたことによる疲労、暑さによって失われた水分の補給も疎かなまま、そのまま寝落ちしてしまったのだろう。
寝返りからのリモコン操作に、エアコンを停止させたままでの爆睡により、熱中症を発症。
発見されたのは連休明け、腐女子の腐乱死体とネットニュースを騒がせる悲しい晒し者となる運命とだった、らしい。
こんな状況を哀れんだ女神様のお力に縋り、炎上の火消しして貰う代わりに、自分と縁のあるゲームに類似した異世界での転生を引き受けたのだが……。
◇◇◇◇
ここ違う!!間違ってる、間違ってるよ!
ちょっと女神様、これ、明らかにジャンル違いですよっ!!
「ようこそ巫女姫様」って?知らんわ。
わたしマジカルハーブガーデンの庭師長様なんだけど?
薬草男子ちゃんたちはどこよっ。うちのコを返してっ!
コレたぶん、同じ会社の配信しているゲームのどれかだとは、思うんだ。
わたしは、スマフォでもPCでも遊べる『マジカル☆ハーブガーデン』というゲームと、そこに出てくるキャラクターでの掛け算を楽しんでいた。
何らかの擬人化したイケメンを愛でたり、部活員やらアイドルを育てたりと……、いろんな作品があるよね。実際にプレイしたタイトルもあれば、アニメ版だけ見た作品、名前だけ知っているのもある。
ぶっちゃけ、自分の好きな作品以外は、ごっちゃになっていて、あまり覚えてないんだ……。
キャラ名だけ聞いても、どの作品のキャラか、分からない自信さえある。
擬人化系か、日本人ぽさのある名前なら、少しはどうにかなりそうなんだけど。
どれも基本無料だったから、配信会社が稼働率稼ぐために、複数のタイトルにログインすることで、ポイントが貰える仕様になっていたから、実際に遊んでいたタイトル以外も、何作かログインだけはすることが日課になっていた。
最初はなんとなく有名タイトルを選んでたけど、人気作はデータ量も多いのか、読み込みに時間かかる気がして、もっと早めに起動ができそうな、マイナー(偏見)そうな作品を選ぶようにしたから、たぶんそれらの中のどれかとは思うんだけど……。
女神様から、わたしと縁のあるゲームって言われたけど、ポイント目当てのログイン勢って関係が希薄過ぎるよ。むしろユーザーと制作者に謝りたい。
違う、違うのっ。そんなつもりじゃなかったの。おハーブにはちゃんとお金も入れて遊んでいるの。
わたしの愛(お布施)を信じて!!
そんな終わってる感じの浮気女の染みた主張を訴えたくもなる。
女神さま、雑に選び過ぎだよ。もっと、ちゃんとした、この世界が好きな奴を呼んでやれよ。
こんなの絶対おかしいよ。こっちはもう転生してるんだ。取り返しがつかないよ!
通販で買った同人誌が逆カプだったとか、友達のハマってるカプが実は地雷で本当は布教とかされたくなかったとか、そんな小さな悲しみとは、比べ物にならないぐらいの、悲劇を生んでしまった。
◇◇◇◇
知識も愛着も何もなかろうと、来てしまった以上は、この世界でのお役目はきちんと全うしよう。
どうやらわたしは新たな精霊の巫女姫として、精霊たちのための様々なイベントに合わせた(祈りの儀式という名のガチャでゲットした)メンバーを魔法学園の生徒の中から選出して特訓。
日課の禊や修行をこなして、絆を深めて一緒に祭事を行うお役目を担うことになるらしい。
うん、知ってる。アプリゲーでお馴染みのシステムだね。いつもとやることが変わらなくて安心だ。
そんな感じで、お仕事の方にはすぐに馴染めたんだけど、問題なのが乙女ゲーム要素。
ここって、乙女ゲーム的な恋愛要素のある世界でもあると思うんだ。
乙女ゲーって、アゴとハトしか記憶にないけど、BLゲーを基準に考えるに、そんな香りがする。
恋愛シミュレーション、あるいは恋愛要素もあるゲームは、ざっくり言って二種類に分けられる。
主人公ないしはユーザーがほぼ無言のタイプと、よく喋るタイプの二つだ。
個人的には、断然無言タイプの方が好きだ。
男キャラがいっぱい出てくる作品なら、女子向けでもキャラ同士の掛け合い台詞と行間を楽しめるし、BLゲームなら相手役のキャラをルートごとにしっかり堪能できるから。
喋るタイプの主人公は、物語を引っ張り、相手役の魅力を際立たせるために、オーバーな振る舞いをするキャラとして、描かれやすい。そのため時に間違った意味での個性が際立って、良シナリオだけど、主人公がクソという不幸なジレンマを発生させることもありうるのだ。
どうしてこんなことを指摘したかというと、現在のわたしには特殊な異世界翻訳が搭載されていて、両方とも出来るタイプの主人公だからだ。
無言モードを選択すると、イケメンどもは『さす巫女』状態になるデバフが常時発動してしまい、非情に心苦しい。
好感度を保ってくれる補助機能だと思われるが「おっふ、巫女姫様ぁ、ハァハァ」みたいな握手会のオタ染みた反応には、さすがにどうかと思うの。
ならばと、ヴォイスオンにすると、わたしの話す言葉が、やけに暑苦しいものへ翻訳されてしまうのだ。
「みぃんなー、おっはようぅ!!今日も元気に張ーり切って、レッスンやっていこうねぇえ♪」
(おはようございます、本日も修行よろしくお願いします)
「うぃーす、よあざーす。」
「よろしくですー」
「はーい」
こんなんで、まともな会話できるか!!
毎回の声優声でアイドルオンステージは、正直キツイ。中の人との温度差に、風邪ひきそう。
音声有りの時には、主人公が物語を引っ張るから、デバフは切れるみたいだけど、自分が強制的に痛い子を演じさせられるのが、正直キツい。
『大好きな作品の悪役令嬢に転生した腐女子で、推しキャラは今の婚約者ですけど、お顔を眺めているだけで充分ですわー』からの絆され展開、何回見た?
逆ハー狙いの転生ヒロインちゃんをディスりながらも「そんなつもりないのにぃ」言いいつつ
自分が逆ハーしちゃう悪役令嬢ちゃん、何回見た?
「推しの壁になりたい言ってたくせにっ!!」「腐女子、夢女子、単推し勢とか違いを主張していた分際で!!」と罵る同士たちよ、理想のイケメンを前に、絶対に絆されないという真の猛者だけが今のわたしに石をお投げなさい!!
めちゃくちゃ、羨ましい。わたしだって、腐女子を自称しながらもリアルな恋愛に転んでみたい!
せっかく二・五次元の役者さんたちみたいなグッドルッキングガイと仕事仲間なんだよ。チヤホヤだってされてみたい!!
…………そんな己を弁えない欲を持った日もありましたっけ。
驚くべきことに、この世界、女性キャラは最初から画面内にいないご都合仕様だから、萌え語りする女友達以前に、普通の交流が出来る相手すら全く存在しないんだよ…………。こんな真実気づきたくなかった。
イケメン動物園も、逆ハー風味も、思ってたのと違い過ぎて、これじゃあ全然嬉しくない。
このままでは、前世以上のコミュ障になってしまう……。
もはや、恋愛以前に、普通に会話がしたいだけなのです……。
女神様、転生先が違っていたのは諦めますから、本当にもう勘弁してください。
どうか、この異世界翻訳だけでも、修正入れて頂けませんかね。
ここから幸せになれる道、誤字脱字などありましたらお願いします。