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私は人形ではありません

作者: 藍田ひびき

「アリシア・ハーネット!お前との婚約を破棄する」


 王立学園で開かれたダンスパーティに参加している令息や令嬢たちは、響きわたる声になんだなんだと注目した。

 そこにいたのはアリシア・ハーネット伯爵令嬢と、その婚約者、クライヴ・アシュリー侯爵令息。

 そしてもう一人。クライヴにしなだれかかるように寄り添っているフレデリカ・ダルトン男爵令嬢だ。豊満な肢体に鮮やかなブロンドの髪。ぱっちりとした目は長い睫に覆われており、目を引く美貌の持ち主である。


 周囲の令嬢やまともな令息は寄り添う二人に眉をひそめている。礼節を守るべき貴族でありながら人目もはばからぬ所業に、冷たい目線が向けられるのは当然だろう。だがそれに気付くどころか、クライヴはフレデリカを抱き寄せてより一層身体を密着させた。


「お前のように、自分の意見ひとつも言えないような女に侯爵夫人は務まらない。フレデリカはしっかりと自分を持った女性だ。彼女こそ俺の妻にふさわしい」


 観衆たちの目はアリシアへと注がれた。彼女がどう反応するのか、固唾を呑んで見守っている。

 同情の目で見る者もいるが、大半は興味本位な様子だ。噂話の大好きな貴族たちは、しばらくこの話で持ち切りになるだろう。


「誰かと思えば、“人形姫”ハーネット伯爵令嬢ではございませんこと?」

「え、人形姫?あんなに麗しい令嬢だったか?」

「ああ、ほとんど喋らず口を開けば『はい、承知致しました』しか言わない令嬢か。もっと地味な容姿だったと記憶しているが」


 ざわつく貴族たちの声をよそに、アリシアが一歩進み出る。しかしその口から発せられた言葉は、観衆の期待を裏切るものだった。


「その婚約破棄、お受けすることはできません」



*******



 アリシアはハーネット伯爵家の長女として生まれた。


 物心がついた最初の記憶は、両親が怒鳴り合っている姿である。アリシアの母親は非常に気の強い女性だった。それだけならば良い。だが彼女は歯に衣着せぬ物言いで、相手の失敗や欠点をあげつらう癖があった。

 

 あまりの酷い言葉に、泣きながら辞めていくメイドもいた。夜会で貴族夫人と言い合いになり、その夫から抗議がきたこともあった。

 毎回その対応に振り回されていたハーネット伯爵との夫婦仲がどんどん冷えこんでいったのは、当然のことだろう。


 彼女はアリシアの弟を産んだあと、義務は終わったとばかりに夫へ離婚を突きつけて実家へ戻っていった。


「アリシア。貴族女性は淑やかで夫に従順であるべきだ。決して、お前の母親のようになってはいけないよ」


 去っていく妻を見送りながらハーネット伯爵は娘へそう話した。まだ五歳のアリシアには、父親の言を疑うことなど思いも寄らないことだ。だから彼女はただ素直に「はい、お父様」と答えたのだった。


 そうして、アリシアは物言わぬ令嬢となった。何が欲しいとも、何がしたいとも自分からは言わない。

 親や家庭教師からすれば、手のかからない娘だった。

 ドレスは侍女の選んだものを着るし、食べ物に好き嫌いはせず出されたものを大人しく食べる。趣味は刺繍を少し。これも家庭教師にそう指示されたからだった。


 年頃になり、当然のことながらアリシアにも婚約話が幾つか舞い込んだ。

 最初は伯爵家の長男だった。

 互いの家格は同等。人柄も問題なく、申し分のない相手である。

 ガーネットの瞳に美しくなびく銀髪を持つ彼女にすっかり惹かれた彼は、足しげくハーネット家に通った。だがしばらくして、婚約を丁重に断る連絡が来た。

 曰く、「あまりにも喋らないので、何を考えているか分からない。一緒にいて楽しくない。そのような方と家庭を持つのは……」ということだった。


 その後も何人かの令息と顔合わせをしたが、みな同じだった。しばらくすると断りの連絡が来る。

 貴族の間でアリシアの噂が広がった。もちろん、悪い意味で。

 何度も婚約を断られた令嬢。ほとんど喋らないらしい。頭が弱いんじゃないか?などと揶揄する者もいた。

 そうして彼女は“人形姫”というあだ名を付けられることになったのだ。



 そんな彼女に、ようやく婚約までこぎ着ける相手が現れた。

 それがクライヴ・アシュレー侯爵令息である。アシュレー侯爵家はハーネット家が新規に起こした事業の提携先だった。

 

「うちには気の強い姉と妹がいてね。あいつらといると息が詰まる。君のような淑やかな女性を是非妻に迎えたい」


 そう言って差し伸べられた手を、アリシアは取った。尤も、それは彼女の意志ではなく、父親がそう望んだからだったが。


「派手な装いの女性はあまり好きじゃないんだ」


 彼の言うとおり、流行遅れの地味なドレスを着た。野暮ったい髪型のせいでその美しい瞳は隠れてしまった。


「すまない、急用が入ったんだ。父の仕事の関係で」


 そう言って誕生日をすっぽかされ贈り物一つ貰えなくても、不満は述べなかった。


「取引先のご令嬢でね。付き合いだから仕方ないんだ。分かってくれるよね」


 夜会で自分以外の令嬢をエスコートしている婚約者を見ても、何も言わなかった。



「アリシア、クライヴ君とは仲良くやっているかい?」


 ハーネット伯爵は時折、娘に尋ねる。アリシアの答えはいつも同じだ。

 

「はい、お父様。何も問題はございませんわ」

「そうか。この婚約は両家の結束を高めるためのものだ。事業を成功させるためにも、どうか上手くやっておくれ」



 学園においても、クライヴが他の女性と親しげにしている姿を度々目にした。

 同級生たちから「相手はあの人形姫ですもの。婚約者の方はさぞ気詰まりでしょうねえ」と噂されていたことなど、彼女は知る由もない。アリシアには、友人と呼べる者はいなかったからだ。

 

 そんな彼女にとって、学園で唯一安らげる場所が図書館だった。

 ここなら彼女へ好奇の目を向ける者も、ひそひそと指さして笑う者もいない。だから休み時間はいつもここに来ていた。


「この本はありませんか?」

「記録によると本日返却になっておりますが。そちらの棚をご自分で探して下さいな」


 目当ての本が見当たらず尋ねたアリシアに、眼鏡をかけた司書が不機嫌に答えた。話しかけるなと言わんばかりの態度である。

 彼女は大人しいアリシアを舐めていたのだ。


「司書とは利用者に便宜を図るのが仕事のはずだが。この学園はそのような態度を推奨しているのか?」


 諦めてもう一度自分で探そうとしたアリシアの背後から、声がした。

 そこにいたのは、アッシュグレイの髪をふわりとなびかせた背の高い男性。彼の怒りを込めた瞳は司書の女性へと向けられている。


「こ、これはウェルトン公爵令息……。いえ、私も忙しい身でして」

「それならせめてどこの棚にあるかくらい、伝えるべきではないか?」


 先ほどとは打って変わった態度で、司書はアリシアを棚へ案内した。


「お探しの本はこれかな」

「ありがとうございます。えーと……ウェルトン公爵令息」

「エルヴィスだ。エルヴィス・ウェルトン。君、よく図書館に来てるよね。名は?」

「アリシア・ハーネットと申します」

 

 エルヴィスとは、その後も図書館でよく鉢合わせした。

 何となく、会えば話をするようになった。勿論、貴族として節度を保った状態で、ではあるが。


「すごいね。君はとてもたくさんの本を読んでいる」


 その素直な称賛にアリシアは戸惑った。

 家庭教師に「貴族令嬢は幅広い知識を身に付けるべきです」と言われ、手当たり次第に読んでいただけだったから。

 

 エルヴィスとアリシアは、本の内容について語り合った。当初は感想を問われても答えられなかったアリシアだが、彼と話しているうちに少しずつだが自分の考えを述べるようになった。

 エルヴィスが相手だとなんだかとても話しやすい。アリシアが言い淀んでいると「こういうことかな?」と助け船を出してくれるのだ。

 

 こんなに会話を楽しめる相手は初めてだ。アリシアはそう思った。



「君の婚約者……クライヴ君といったか。彼の行動は目に余る。どうして君は何も言わないんだ?」


 ある日のこと、エルヴィスが険しい顔でアリシアへ問いかけた。

 最近のクライヴのお気に入りはダルトン男爵家の令嬢らしい。人目もはばからずイチャイチャしている姿を見かけることもあった。

 アリシアと目が合っても怯むどころか、まるで見せつけるように身体を寄せ合う彼らに、黙って通り過ぎるしかなかった。


「殿方のなさることです。私には言うことも思うこともありません」

「君は聡明で理知的な女性だと思う。彼の行動がどれだけ理不尽なのか、本当は理解しているのではないか?何故そんな風に口をつぐむんだ」


 アリシアは少し悩んだが、思い切って話した。幼少期に母が出て行ったこと、父親が話した「従順であるべき」という言葉を。


「そんなことが……。妻が夫に従う必要はあるかもしれないが、アリシアは明らかに行き過ぎだ。父君は妻と上手くいかなかった原因を、君に押しつけていると思う。そもそも、離縁の原因は君の父君と母君が抱えていた問題に過ぎないのに」


 その言葉が、アリシアには一筋の光に感じた。その光が、頭の中に広がっていくようだ。


「アリシア。一度、父君と話してごらん。うちの父からハーネット伯爵について聞いたことがある。真面目すぎるきらいはあるが、物の道理の分らぬ人物ではないと言っていたよ。きっと悪いようにはならないはずだ」



 その晩、アリシアは思いきって父親と話した。クライヴの不埒な行動を聞いたハーネット伯爵は驚き、娘を抱きしめた。


「アリシア、済まない。あのときは離縁されて自暴自棄になっていたんだ。お前にそんな生き方を押しつけるつもりは無かったんだ」

「お父様……」

「クライヴ君との仲があまり良くないことは察していたが、まだ二人とも若いからと自分に言い聞かせていたのだ。お前に辛い思いをさせてまで婚約を続ける必要はない」

「良いのですか?それでは事業が」

「なあに、他にもツテはある」


 事業を起こす際、アシュレー侯爵家より良い条件を提示してくれた提携先もあった。だがアシュレー侯爵は、嫡男とアリシアの婚約を追加条件として提示してきたという。ハーネット伯爵にとってはかなり不利な条件だったが、なかなか縁談の決まらない娘の為にと受け入れたのだ。


 ――そんなこと、全然知らなかった。


 お互いに、話さなければならないことを伝えてなかった。アリシアの不器用なところは父親にそっくりだった。

 

「明日にでもアシュレー侯爵へ婚約解消を伝えよう」

「いいえ、お父様。少し待って下さる?私に考えがありますの」



*******



「その婚約破棄、お受けすることはできません」


 そうして迎えたダンスパーティの日。

 伸ばしていた前髪を切り美しい銀髪を結い上げ、ガーネットの瞳に良く似合うワインレッドの上品なドレスを着たアリシアはそう答えた。

 それを聞いたクライヴは、驚愕のあまり言葉を失った。今まで一度も口答えをしてこなかった婚約者が、きっぱりと彼の申し出を拒絶したのだから。


「な、何を言っている!お前に拒否権など」


 ようやく口を開いたクライヴだが、アリシアはそれには答えず言葉を続けた。


「理由は三つ。まず、私と貴方の婚約は、アシュレー侯爵家とハーネット伯爵家、それぞれの当主が結んだもの。当主以外に、それを破棄する権限などございません」

「は?次期当主の俺が破棄すると言っているのだぞ」

「二つ目。この婚約は、アシュレー侯爵と我が家の共同事業の盟約の証です。つまり婚約を破棄するということは事業提携を切るということ。今まで事業を立ち上げるために費やした時間、費用、人材……どれほどの損失が出るか、お分かりになりませんか?」

「そ、それくらいの金額、我が侯爵家ならば大したことはない」


 父親の仕事を手伝っていると言っていたが、その実クライヴはほとんど何もしていなかった。きちんと事業に関わっていたのならば、その損失が侯爵家にどれほどのダメージを与えるか分かっただろうに。


「最後に三つ目。我が国の法では、不貞を働いた者、つまり有責者からの結婚、もしくは婚約の破棄は認められておりません」


 婚約の解消を申し出ることが可能なのは、瑕疵の無い側のみ。そんなことは、この国の貴族なら誰でも知っていることだ。


「不貞だなんて。私たち、そのような関係ではございませんわ」

「そうだ。これは謂われのない侮辱だ。俺とフレデリカに謝罪しろ!」

「貴方がたが学園内で()()()触れ合っている様子は、多くの方が目にしております。婚約者がいるにも関わらず他の女性と必要以上に親しくなさっているのは、不貞ではございませんか?」


 背筋を伸ばし、婚約者に真っ直ぐな瞳を向けて理路整然と答えるアリシア。その凛とした姿に、令息たちは勿論、令嬢たちすら見とれていた。


「っ……うるさいうるさい!いいから俺の言うとおりにしろ!」


 怒気をはらんだ眼でクライヴが怒鳴りつける。

 彼の行いに正当性は無く、またこの場を切り抜ける弁舌を思いつくほどの頭も無かったのである。

 固唾を呑んで見守っている者たちにもそれが伝わったのだろう。どこからともなく、失笑が湧き上がる。


「言い返せないものだから、怒鳴るしかないのね」

「見苦しいな。あれが次期当主とは、アシュレー家も先は無いようだ」

 

 周囲の刺すような視線に気づいたクライヴは「ふん!行くぞ、フレデリカ」と男爵令嬢の手を取り、慌てて会場から出て行った。



「ハーネット伯爵令嬢!本当に申し訳なかった。貴方の冷静な判断に感謝する」


 数日後、ハーネット伯爵とアリシアは、オールディス公爵家を訪れていた。オールディス家はアシュレー侯爵家の主人筋にあたり、言わば寄り親のような存在である。オールディス公爵の仲介により、両家の話し合いの場が設けられたのだ。


 謝罪を述べるアシュレー侯爵に対して、クライヴは明らかに不満そうだ。父親に無理矢理連れてこられたのは明らかだった。


「あの男爵令嬢とは手を切らせた。今回のことは若さ故の気の迷いということで、許してくれ。まあ、男にはよくあることだ。アリシア嬢も、あまり騒ぎ立てずどんと構えたまえ。君はいずれ侯爵夫人になるんだしな!」


 謝罪しているとも思えぬ居丈高な態度に、ハーネット伯爵は勿論、オールディス公爵も渋面である。それに気づかないのか、アシュレー侯爵はガハハと下品に笑った。



 ぱぁん。

 

 あとは二人で話し合ったらどうかというハーネット伯爵の提案により部屋に二人きりになった途端、アリシアはクライヴに頬を叩かれた。

 じんじんと痛みが伝わってくる。


「俺に恥をかかせやがって。生意気な女め!」


 ――自分を持った女性の方が良いと言ったくせに。

 

「おかげで父上に怒られた。全部お前のせいだ!そこまで言うなら婚約は継続してやる。ただし余計なことを父上に言ったら、こんなものじゃ済まさないからな」


 ふん、とクライヴが馬鹿にしたように鼻を鳴らした。


「髪を切ったのか?ちょっとはマシな見た目になったようだが、フレデリカとは雲泥の差だ。俺に愛されようなんて思うなよ。そんな棒っきれのような身体、抱く気にもならない」


 ――地味にしろと言った癖に。

 

「フレデリカは側室でもいいと言ってくれている。健気な女性だ……お前とは大違いだ。大人しい女だから嫁にすれば好きなようにできると父上に言われたからお前と婚約したのに、見込み違いだった。俺が侯爵家を継いだらフレデリカを第二夫人に迎えるからな。文句は言わせないぞ」

「それはどういうことだね、クライヴ君!」


 怒気をはらんだ声で現れたのは、ハーネット伯爵だった。その背後にはオールディス公爵の姿もある。慌てるクライヴに、ハーネット伯爵が詰め寄った。


「その男爵令嬢とやらとは手を切ったんじゃなかったのか?」

「え、そ、それは……」

「しかも私の娘に対する暴行まで。もう勘弁ならない。婚約はそちらの有責で破棄させて貰う!」

「侯爵にも弁明してもらわねば。これは仲介をした我がオールディス家の顔にも泥を塗る行為だ」

「そんな、待って下さい!誤解なんです。アリシア、お前からも何とか言ってくれ」

「誤解と言われましても……。先ほどご自分で仰ったではありませんか。私を抱く気もないし、フレデリカ様を側室へ迎えると。私、そのような不実な方に嫁ぎたくありません」


 必死で縋るクライヴを冷ややかな眼で一瞥した後、アリシアは父親と共にその場を後にした。



*******



「上手くいったようだね」

「何通りかの対応を考えてはいたのですけれど。まさかパーティの場であのような暴挙に出るとは思いませんでしたわ」

「即興とは思えないくらい、見事な対応だったよ。やはり君は聡明な女性だ」

 

 図書館で、アリシアはいつものようにエルヴィスと向かい合わせに座っていた。


 ハーネット側から言い渡された婚約破棄に対してアシュレー侯爵は渋ったが、オールディス公爵という証人の前で行われた暴言と暴力に言い逃れはできない。婚約破棄を受け入れざるを得なかった。


 勿論、あの場にハーネット伯爵とオールディス公爵が現れたのはアリシアの策である。二人きりになれば、愚かな婚約者はボロを出すだろうと父親に提案したのだ。


 クライヴの暴挙は貴族中に広まり、アシュレー侯爵は彼の廃嫡を決定した。侯爵家は五歳下の弟が継ぐらしい。学園を卒業した後、クライヴは領地で下働きとして一生飼い殺しにされるそうだ。


 事業については今更手を引くと双方に負債が増えるため、アシュレー侯爵家との提携は継続。ただし、慰謝料に加えてハーネット家にかなり有利な条件での再契約となった。


 ハーネット伯爵はフレデリカの実家、ダルトン男爵家にも慰謝料を請求した。フレデリカは「私は被害者よ!クライヴ様が無理矢理」と喚いたが、学園内でクライヴへはしたなく寄り添う姿を目撃した者は山ほどいたため、誰も信じなかった。


 クライヴと結婚するなら慰謝料を減額するというハーネット伯爵からの提案を受け、ダルトン男爵は娘を切り捨てる選択をした。卒業後はクライヴと結婚し、平民のような暮らしを強いられるだろう。

 

「あれから、求婚者が増えたんだって?」


 アシュレー侯爵家との婚約破棄の噂が広まると、アリシアの元へは令息からの釣書が殺到した。

 あのダンスパーティの様子を見て、“人形姫”などではなく、貴族夫人として申し分のない理知性を持った女性であること、また見目が美しいことなどが伝わったようだ。

 中には、以前婚約を断ってきた令息もいたという。


「現金な方たちですわ」

「彼らにも、ようやく君の良さが分かったということだよ。先んじて求婚しておいて正解だった」

「本気ですの?」

「こんなことで冗談は言わないよ。ああ、勿論、受け入れるかどうかは君に任せるよ」


 少し考えた後、アリシアは自らの意志で彼の手を取った。


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[気になる点] 親御さん達大人世代が概ねマトモなのは結構ですが、今まで、何してたんですの、と。 節穴揃いですか?
[良い点] 幼少の不幸な事態(両親の離婚)から掛けられた呪いを解除できた事 [気になる点] >>趣味は刺繍 家庭教師に言われたからと思う『趣味はなんですかと聞かれたら淑女としてこう答えるべき』 本人が…
[気になる点] 「ハーネット伯爵令嬢!本当に申し訳なかった。貴方の冷静な判断に感謝する」 これが誰のセリフかわかりませんでした。 [一言] エルヴィス、良い仕事しましたね!
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