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092 窮地

 南東から攻め入るアスラ連合国軍を撃退するため、東方のオルリック軍防衛部隊と合流せよ……


 オルリック王国のウルガージェラール第三王子が、兄であり国王代理であるアイゼンベルナール第一王子から受けた勅命はそのような内容だった。


 ウルガーは勅命に従い、東方のオルリック軍に合流するために自分の配下である近衛騎士隊を連れて東へと向かった。

 しかし、その真意は異なるところにあった。


 ウルガーを東方面に派遣することになったのは、ウルガーの強い希望によるものだ。

 そして本当の目的は、父である国王を害した啓とその一味を断罪するためだった。


 国王を殺して王都から逃亡した啓一味が向かう先は、故郷のユスティールに違いないとウルガーは踏んだ。


 そこでウルガーの部隊は、幾つもの町を経由し、密かに情報を集めながらユスティール方面へと向かった。


 そしてエレンテールの町を訪れたウルガー達は、ユスティールからの避難民の立ち話の中で、啓が現れたことを掴んだ。


 啓はエレンテールからユスティールに繋がる街道を通り、ユスティール方面に向かったという。ウルガー達も街道を通り、啓の足取りを追った。


 そしてヒルキの町まであと少しというところで、近衛騎士隊長であるマルティンがウルガーに報告した。


「殿下、ヒルキの町に人間の反応が一人だけあります。バルダーもあるようです」


 マルティンの持つ女神の奇跡の技は索敵。近くにいる人間やバルダーを察知することができる。

 要人を守る近衛騎士隊長という職責にもマッチした能力だ。


「今、ヒルキは無人のはずだな」

「寝過ごして、逃げ遅れた奴がいなければそうですね」


 マルティンはウルガーの幼馴染でもあるため、こうした軽口を叩くこともしばしばある。


「ならば啓か、その仲間に違いない」

「で、どうします?」

「もちろん、捕まえる。マルティンは索敵を続けろ。絶対に逃すな」

「ならば、アーシャも使いましょう」

「リーを……いいのか?」


 アーシャ・リーは今回の遠征から近衛騎士隊に入ったばかりの新人だが、軍人として新人なわけでは無い。軍籍はマルティンよりも少し短いが、後方支援や、時には前線に出て実績を積み重ねている女性隊員だ。


 ただ、今のウルガーの「いいのか?」という質問は、アーシャの技量を問うものではなかった。


「別にアーシャが俺の婚約者だからといって殿下が気にすることは無いですよ。仕事は仕事です。自分の責務を全うしてもらわなければ、わざわざ近衛に入ってもらった意味がありませんからね」

「まあ、お前がそう言うなら構わないが……」

「大丈夫です。この戦争が終わったら、結婚することにしますよ」

「……そういうことを言う奴は戦場で死ぬんだぞ」


 ウルガーの注意など気にせず、マルティンはアーシャを呼んだ。アーシャに役目を伝え、それを元に、ウルガーと近衛騎士達は啓を捕まえるための作戦を定めた。


「よし、全員バルダーに搭乗!すぐに戦える体制でヒルキに向かう!」



 ヒルキの町にオルリック軍の部隊が接近中であることは、既に啓も掴んでいた。

 町の周囲を監視していたオオハチドリのチャコが、啓にしっかり報告していたからである。


 ただ、啓はそのことをあまり危険視していなかった。


 油断とも言える失態だが、啓の警戒心が薄れていたのは、チャコの報告を受ける少し前に聞こえた、シャトンの遠吠えが原因の一つだ。


 シャトンの遠吠えは、ユスティールでの工作が成功したことを意味していた。その合図によって、オルリック軍はユスティールに攻め入ったはずだ。


 そのタイミングで、オルリック軍の「援軍」が到着したのである。


 これでさらに戦いが有利になると考えた啓は、ヒルキにやってきた部隊に、自分の正体を隠したまま戦況を伝え、前線に合流してもらおうと考えたのだ。


 だから啓は、その部隊が援軍ではなく、啓を追ってやってきたウルガー達だとは思い至らかった。


 ヒルキの町の入り口で、バルダーに乗ってオルリック軍の援軍が来るのを呑気に待っていた啓は、夜道をやってくるバルダーの集団を目視で確認した。


 そして、見覚えのある国章旗とバルダーを見た時、ようやく事態を把握した。


「バル子、あのバルダーって……」

「はい、ご主人。ウルガー第三王子とその配下と思われます」

「だとすると……ものすごくまずくないか?」

「ご主人の逮捕が目的の可能性が高いですね」


 まさか第三王子が来るとは思っていなかった啓は、すぐにその場を離れようとした。

 まだ向こうが啓を見つけていないならば、隠れてやり過ごすという手があると考えて動こうとしたのだが……


『そこのバルダー、いや、ケイ!』


 残念ながら、ウルガー側でも啓を見つけていた。


『国王の……いや、父上の仇。今度こそ討たせてもらうぞ。大罪人、ケイよ!』


 拡声器で呼びかけてくるウルガーの声を聞き、啓の顔は引き攣った。

 ウルガーには王城でバルダーを見られている。ただでさえ、啓のバルダーは独特なフォルムをしているため、誤魔化しは効きそうにない。


「ご主人、どうします?」

「とりあえず、チャコにすぐに戻ってくるよう伝えてくれ」


 チャコとバル子は、啓の貴重な戦力だ。自ら女神の奇跡の力が使える王国の貴族達や、何故か自力で能力が使えるようになったミトラと違い、啓が能力を発動するには、動物達の協力が必要である。

 チャコを呼び戻したのは、戦いになった場合の戦力強化のためだった。 


チャコが戻るまで大した時間は掛からない。その間に啓は、ウルガーの一団にどう対処すべきか考えた。


 まず、真っ先に考えたのは逃げることだ。しかし今、このヒルキの町にはサリーのバルダーが置きっぱなしになっている。

 自分が逃げればサリーのバルダーは接収され、やがて持ち主も判明するだろう。そうなれば、サリーはバルダーを失うだけでなく、今度こそ指名手配される可能性が高い。


 それにミトラとシャトンは作戦を終え、今はヒルキの町へ戻ってきている途中だろう。もしも自分がいない時に町へ戻ってきてしまったら、ミトラ達がウルガー達に捕まるかもしれない。


「仕方ない。一か八か、町の外で交渉してみよう。その上で、やむを得ない場合は戦うしか無い」


 覚悟を決めた啓は、戻ってきたチャコを回収した後、こちらにやってくる王子の一団に向かってバルダーを走らせた。



 啓の前には、三十機ほどのバルダーが展開していた。ウルガーは建前上、ユスティール方面の援軍として行動しているため、元々の近衛騎士隊に追加の兵士を加え、一小隊の編成にしていた。


 ウルガーと啓は距離を置いて対峙している。これがバルダーの試合であれば、ちょうど開始線を挟んだ感じだろう。


 先に声を掛けたのはウルガーだった。


『ケイ、これ以上は逃さん。大人しく投降しろ』


 それに対し、啓はあくまで誤解だと突っぱねる。


『前にも言ったが、オレは国王を殺していない。オレが部屋に行った時、国王は既に殺されていたんだ』

『まだ言い逃れするつもりか!』

『言い逃れではなく、本当のことだ。オレ達は嵌められたんだ。だからオレ達は潔白を証明するために、必ず真犯人を突き止めて見せる。だから今は……』

『真犯人だと?お前が犯人であろう!』

『ああ、もう、この王子は頑固だなあ……』

『聞こえているぞ、ケイ』

『あっ……えっと……』


 啓のボヤキも、拡声器にしっかり拾われていた。啓は誤魔化すために、話を切り替えることにした。


『とにかくオレ達は犯人じゃない。信じて話を聞いてくれるならば、オレは逃げも隠れもしない。だからウルガー王子。今は前線で戦っているオルリック軍に合流してくれないか。今、ちょうど戦況が好転したところなんだ。王子達が参戦してくれれば、アスラ連合軍を押し返せるかもしれない。その戦いが終わったら、改めて話し合いの場を設けてほしい』

『ふん……お前に言われなくとも、前線には合流するさ』

『そうか、だったら……』

『合流するが、それはケイを捕まえてからだ!』


 そしてウルガーはバルダーの手に持っていた手斧を前に突き出した。


『全員、突撃用意!』


 ウルガーの号令で、近衛騎士隊のバルダーが一斉に武器を構え、突撃の体制を取った。


「やっぱり駄目か……頭の固い王子だな」


 今度はしっかり拡声器を切ってからボヤいた。


「ご主人、どうしますか?」

「ピュイ?」

「敵の攻撃と同時に、跳躍して逃げよう。バル子、盾を……」

「ご主人、後ろです!」


 啓が指示を出している途中で突然、バル子が叫んだ。

 啓は反射的にバルダーを振り向かせた。啓の背後には、やや距離はあるものの、近衛騎士隊のバルダーが一機潜んでいた。


「いっ!?」


 いつの間に、と言おうとした啓だったが、驚きのあまり、一言目だけを口に出すのが精一杯だった。


 ウルガーと近衛騎士隊のバルダーは全て前方にいたはずだ。ウルガーと話をしている間に動いたバルダーもいなかった。


 仮に最初から別行動を取っていたバルダーがいたとしても、バル子とチャコの気配察知を掻い潜って、啓の後ろに回り込まれることなど考えられなかった。


 しかし実際問題、そこにバルダーがいるという現実を受け入れるしか無かった。


 何故、啓の背後に近衛騎士隊のバルダーがいたのか、それはアーシャ・リーの女神の奇跡の力だった。

 アーシャ・リーの能力は「認識阻害」。その能力を発動すると、相手から見えなくなるという特性がある。


 見えなくなると言っても、姿が消えるわけではない。その場にいるのに、周りから意識されなくなるのだ。


 魔動連結器を通じて行使する女神の奇跡は、その力を増大させる。アーシャはこの能力を使い、自分のバルダーごと気配を消した。


そのため、バル子やチャコにも察知されずに、背後に回り込むことができたのだ。


 ただしこの能力にも制約はある。静止、あるいはゆっくり歩く程度ならば能力を維持できるが、大きく動いた途端、能力が解除される。


 アーシャは、ウルガーの合図で行動を開始した途端、能力が解除されてバル子に発見されたのだった。


 アーシャは、啓が振り向いたのとほぼ同時に、何かを放り投げた。爆砲による攻撃では無かったが、啓は反射的に盾を発現させた。


 啓の思念を受けたバル子を経由し、啓の能力が発動する。

 すぐに半透明の金色の盾がバルダーのそばで具現化した。


 盾は啓のバルダーの周囲をぐるりと囲むように、背後にいたバルダーと自分の間、そしてウルガー率いる近衛騎士隊側にも配置された。


 周囲を盾で囲んでしまったため、自由に身動きはできないが、意表を突かれた以上は一旦防御に徹するべきと啓が考えた結果だ。


 しかし、具現化した盾に対しては何の衝撃も発生しなかった。

 代わりに激しい光が啓の目を襲った。背後にいたバルダーが投げたのは発光弾だったのだ。


 半透明の盾は物理的な攻撃は防げても、光は通してしまった。


「くそっ、目が……」

「ご主人、攻撃が来ます!」


 バル子の警告の直後、近くで破裂音が連続で聞こえた。ウルガーの部隊が爆砲を放ったのだ。


 爆砲は全て盾で阻止したようで、啓のバルダーに損傷はなかった。

 しかし代わりに、バルダーに何かを被されたような音がした。


「何だ?何を食らった!?」

「ご主人、落ち着いてください。転んでしまいます」

「転ぶって……うわっ!」


 まだ視力が回復しない啓は、闇雲に機体をゆすって、見えない何かをふるい落とそうとした。


 自動姿勢制御機能のあるバルダーは、そうそう転ぶことはない。だから啓は目が見えなくても少しぐらい動いても問題ないと考えたのだが、啓のバルダーは見事にバランスを崩し、地面に転がった。


 仰向けに倒れた啓は、操縦席から身を起こし、ようやく回復した視力でハッチからバルダーの周りを確認した。


「……これは、網か?」

「そのようです。機体を絡み取られてしまいました」

「網ぐらいなら……って、動けない!?」


 啓のバルダーは、投網のようなもので全身を絡め取られていた。

 金の盾を周囲に展開したにも関わらず、投げ網は盾のわずかな隙間を抜けて啓の機体に到達していた。


「なんで器用な真似を……そうか、王子の力か!」


 ウルガーの女神の奇跡の技は「投げたものを自在に動かす」というものだ。

 やや地味な力だが、使い方次第では用途は無限に広がる。

 ウルガーはこの力をフルに使い、投げ網を啓のバルダーにしっかりと絡めとっていた。


「こんな網ぐらい……」

「駄目です、ご主人!無理に動いては機体のほうが壊れます!この網は少しおかしいです!」


 網の目は啓のバルダーの関節部までしっかり食い込んでいた。力任せで動けば、強度の高い網に関節部が負けてしまうだろう。もしかしたら網に強化の術が施されているのかもしれない。

 それを察したバル子が、啓を諫めた。


「だがこのままでは……」

「バルダーが壊れてしまっては元も子も……ああっ!」

「ピュイッ!ピュイッ!」


 再びバル子が、そしてほぼ同時にチャコが騒ぎ出す。


「どうした、バル…子……ぐむっ」

「ご主人!この空気を吸ってはいけません!」


 バル子が両手で啓の鼻と口を押さえる。しかしすでに遅かった。


「チャコ……バル……」

「ご主人、しっかり!ご主人……」


 バル子の叫び声が遠ざかっていく。

 そして啓は意識を失った。



 ウルガーが最後に行ったのは、催眠ガスによる攻撃だった。広範囲の戦場ではあまり効果はないが、動けない相手をピンポイントで狙い、無力化するには最適の方法だった。


 啓を捕えるにあたって、ウルガーが考えていたのは、知略による奇襲だった。


 かつてウルガー達は、王城で啓と戦った時、啓のバルダーの機動性能に圧倒された。一対複数で正面から戦っても苦戦は免れないと考えたウルガーは、最初から正攻法で戦うつもりなどなかった。


 相手は国王殺しの大罪人である。どんな手を使ったとしても卑怯などと言われる筋合いはない。


 発光弾も、捕縛用の網も、催眠ガスも、全ては啓を捕えるために準備していたものだった。


 啓の乗ったバルダーは横たわったまま沈黙していた。

 そのまま数分間待った後、ウルガーは通話回線を開き、マルティンに聞いた。


「マルティン、ケイの様子はどうだ?」

「索敵にかかっていますので息はあるでしょう。ただ、気になる点が一つあります」

「なんだ?」

「その……奴の操縦席には、動物らしき影があります。おそらく以前見たネコとかいう獣と、もう一匹、鳥のようなものがいるように見えます。肉眼では」

「それがどうした?」

「そのネコと鳥が、何故か俺の索敵に引っかからないんですよ。人以外でも検知できるはずなんですがね。しかも眠ってないようですし」

「人と違い、動物には耐性があったのではないか?まあ、今はどうでもいいことだな。噛まれないように気をつけて、ケイを引き摺り出して拘束しろ」


 啓は眠ったままバルダーから降ろされ、手足を縛られて拘束された。


 なお、その作業を行なった近衛騎士の数人は、バル子とチャコによって顔や手に引っ掻き傷や、突き傷を負った。


 しかし、「分かった、分かった!お前達の主人は丁重に扱うから!」という苦し紛れの言葉が通じたのか、バルコ達は騎士達に睨みを効かせつつも、大人しくなった。



 明け方、ようやく目を覚ました啓は、自分が拘束されていることを知った。

 啓は昨日戦った町外れの街道の脇で転がされていた。啓のバルダーは網を外され、近衛騎士達によって検分されている。


「とりあえず、オレはまだ生きているんだな……」

「にゃっ」

「ピュイッ!」

「バル子、チャコ、お前達無事だったんだな。良かぶへっ!」


 啓の胸の上にいたバル子とチャコは、意識を取り戻した啓の顔に、猫パンチとついばみを喰らわせた。


「いってて……ああ、そうだな、心配かけてごめん」


 心配したのはこっちだよと言わんばかりの攻撃を正確に理解した啓は、二匹に謝罪した。


 するとすぐに、複数人の足音が近づく音が聞こえた。


「目が覚めたか、ケイ」

「……ウルガー殿下」


 横たわる啓を、ウルガーと数人の近衛騎士達が見下ろす。


「その獣達はたいした忠臣だな。片時もお前から離れようとしなかったぞ」

「ああ。オレの大切なパートナーだよ」

「パートナー?まあいい。お前を処刑する前に聞きたいことがある」

「だから、オレは犯人じゃない」

「お前の仲間達はどこにいる?」


 ウルガーは啓の発言を無視し、質問を投じた。


「少なくともあと二名はいるはずだな。ユスティールのミトラ、そして獣の仮面を被った女。二人はどこにいる?」

「……」

「黙秘か。ならば質問を変えよう。お前達は、アスラ連合の者か?」

「アスラ連合?何故そう思う?」


 ウルガーの質問の意図が分からなかった啓は、質問に質問で返した。


「簡単な話だ。父上が害された後、アスラ連合はカナート王国と手を組み、我が国へ侵攻してきた。お前達がこの戦争の引き金になったと考えるのはごく自然なことだ」

「なるほど……って断じて違う。オレ達はアスラ連合と手を組んでなどいない。奴らはむしろオレ達の敵だ」

「証拠は?」

「証拠は……」


 証拠と言えるものはないが、ひとつだけ証拠になりうることはある。ただ、それを啓の口から言うわけにはいかなかった。


「証拠は無い。だが、アスラはオレの敵だ」

「何一つ言うつもりはないと言うことか。残念だ」


 ウルガーは後ろで控えていた近衛騎士に目で合図した。近衛騎士は、やれやれというポーズをしながら、啓に近寄り、言った。


「あーすまない。あまりやりたくはなかったが、ここからは拷問の時間だ。君が吐くまで、君を痛めつけ痛ててっ!」

「シャーーー!」


 不埒な言動をバル子は聞き逃さなかった。バル子は拷問を口にした近衛騎士に飛びかかり、顔に爪を立てた。


「この、獣風情が!」

「シャーーー!」


 バル子は近衛騎士の前で気を逆立てて威嚇する。近衛騎士は引っ掻かれた顔を押さえながら、腰から剣を抜いた。


「殿下、やはりこいつらはアスラの手先ですよ。こんな野蛮な動物を連れてくるとは!」

「なにを!バル子は優しい美猫だぞ!野蛮なのはお前のほうだろう!」


 バル子を誹謗された啓は、自分の状況を忘れ、反射神経で近衛騎士に怒鳴り返した。バル子もバル子で、尻尾をピンと立てて喜んでいる。


「やめんか二人共!」


 ウルガーが仲裁に入るが、ウルガーとしてもこの状況は看過できなかった。


「お前達、そのネコを捕まえろ。拷問はその後……おい、鳥はどこに行った?」


 気づけば、片時も啓のそばを離れなかった鳥の姿が見えなくなっていた。

 鳥である以上、どこかに飛び去ったと思うのが筋だ。だからウルガーは何気なく空に目を向けた。


 そしてウルガーは見つけた。


 鳥ではなく、空から落ちてくるバルダーを。


『ケイを離せえええ!』


 拡声器で叫ぶ声は、紛れもなくミトラの声だった。


 バルダーは、真っ直ぐに啓に向かって落ちてくる。ウルガーと近衛騎士達は、慌ててその場から離れた。


 地面スレスレで速度を落としたバルダーは、多少の地響きを立てて着地した。


『お待たせ、ケイ!』

『オーナー、大丈夫ですか?』

『にゃにゃニャにゃんニャニャにゃんミュッにゃにゃにゃっ!』


 ミトラに続き、シャトンの声が拡声器から聞こえた。

 そして一斉に声を出して支離滅裂になった動物達の声も。


「ミトラ、それにシャトンも!」

『チャコちゃんが教えてくれたの。ケイが危ないって。あたし達が来たからにはもう大丈夫よ!』


 啓の真正面に立つバルダーは、ミトラがアスラ軍から拝借したバルダーだ。

 侵入工作を完了したミトラは、シャトンと動物達を連れて、飛行能力でバルダーごとヒルキに戻ってきた所だった。

 それに気付いたチャコが猫達とコンタクトを取り、ミトラとシャトンに知らせたのだ。


「ありがとう、ミトラ。とりあえず縄を……」

「ケイ、貴様!やはりアスラ連合の者だったか!」


 落ちて来たバルダーを避け、少し離れた場所からウルガーが叫ぶ。


「いや、だから違うと……」

「そのバルダーはアスラ連合のバルダーではないか!もはや言い逃れはできんぞ!」

「あ……」


 ひとまず窮地は逃れたものの、話はさらにややこしいものになりそうだった。





ウルガーの執念で啓は捕らえられました。

そこに颯爽と現れたミトラ。

でもまだ窮地は続きます。


お盆休み、皆さん如何お過ごしでしょうか。

猛暑と天候不良に負けず、残暑を乗り切りましょう(残暑っていつまででしょうね……)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 >やっぱお前らアスラじゃん! 一瞬「あぁん?なんで?(レ並感」となりましたが、そういやミトラのは向こうからかっぱらって来た機体でしたね…そりゃそんなもんが疑惑の人間を…
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