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081 ミトラvsグレース

 カフェ・フェリテはユスティール郊外の、周囲を木々に囲まれた閑静な区画にある。その木の陰で、ミトラは、カフェのそばで呆然と立っているグレースを見ていた。


 啓が黒耀騎のバルダーを圧倒的な力量差で倒し、シャトンを収容して立ち去ってからまだ一分と経っていない。ミトラもその戦闘の様子を見ていたが、容赦ない啓の攻撃に、ミトラも軽く引いていた。


 しかし、ミトラはグレースと違い、呆けている訳ではない。ミトラはフェリテの近くで倒れている猫達を救出するため、その隙を伺っているのだ。


「あの女、ボケッとしてないで、さっさと帰ってくれないかな……」


 ミトラはグレースをあの女呼ばわりしたが、実はミトラは過去に一度、グレースに遭遇している。


 啓がオルリック王国の機動保安部隊と市場の試運転場で決闘を行った際、グレースは関係者以外は立ち入れないはずの観覧席にやってきた。名乗りこそしなかったが、グレースはミトラとサリーに話しかけもしていた。


 その時の事をミトラは全く覚えていなかったが、仮に覚えていたとしても気付けなかったに違いない。何故なら、今のミトラはグレースの顔よりも、グレースが手に持っている杖の方に強く意識が向いていたからだ。


「ノイエちゃん。あの杖みたいなの、何だと思う?」

「……気持ち悪い。ガアッ」


 ノイエは一度、杖の方をチラっと見たが、すぐに目を背けて身を小さくした。

 ノイエが体をキュッと小さくするのは、怯えの仕草であることをミトラは知っている。

 それは御用邸に滞在中、ノイエがナタリアのティーカップを落として割ってしまった時に、ナタリアに無言で睨まれたノイエがその仕草を見せたからだ。


「やっぱりそうだよねえ。怒ったナタリアさんと同じぐらい、ノイエちゃんがあの杖を怖がってるんだもん」

「……ガァ」

「あたしもあの杖を見てると、なんていうか、体がチリチリする感じがするのよね。ネコ達が動けないことにも関係があると思う」


 あの杖が何かしらの効果で猫達を昏倒させているならば、早くなんとかしなければ猫達の命に関わるかもしれない。

 そう考えたミトラは、行動を起こすことに決めた。


(全力で、あの杖を奪い取る!)


 ミトラはノイエに触れ、念を込めた。ノイエを通じて変性した魔力が再びミトラに戻る。

 やがて魔力は形となり、ミトラに翼を与えた。


 しかし今度の翼はミトラがフェリテに飛んできた時とは違い、小さな翼が足のくるぶし付近に生えただけだった。


 だが、これはミトラが女神の奇跡の力の発動に失敗したわけではない。この翼は、ミトラの走力を上げるためのものなのだ。

 空を飛ぶことはできないが、短時間なら飛ぶよりも速く地を駆けることができる。


 足に翼がつけば速く走れる気がする、という発想から、ミトラが試行錯誤して開発したものだが、想いはそのまま力となる。そしてミトラは見事に実現させてみせた。

 ミトラは御用邸での特訓で、自分の中の魔力を柔軟に使いこなせるまでに成長していた。


「よし、行ってくる!」


 ミトラは木陰から飛び出し、矢のような素早さでグレースに向かって駆けた。



 グレースが迫るミトラに気づいたのは、ミトラの手が杖に接触するほんの数歩前だった。 もしもミトラの走る速度が、走り出した時の初速から変わらなければ、グレースから杖をあっさり奪い取れたかも知れない。


 しかしミトラが走る速度は、グレーズに近づくにつれて徐々に遅くなっていった。それはグレースが図らずも杖の効果を発動させ続けていたせいであり、ミトラも少なからずその影響を受けていたためだ。


 幸い、ミトラも杖の効果を上回るキャパシティを持っていたため、完全に力を失うことは無かったが、ミトラが杖を掴んだ時には、グレースも杖を奪われまいと抵抗することができた。


「その杖、よこしなさいよっ」

「何だ貴様は!いつから此処にいた!」


 ミトラとグレースは互いに杖を掴み、引っ張り合う状態となった。


「このっ……離しなさいよ……」

「この杖は私のものだ……貴様が離せ……」


 杖の引っ張り合いは互角だった。力はミトラの方が勝っていたが、ミトラも杖による弱体効果を受けていたため、本来の力を出せていなかった。また、グレースは杖の中央付近を握り、ミトラは杖の下の方を握っているため、握りが有利なのはグレースだった。そのため、二人の力は拮抗した。


「あんた……ケイにバルダーを全部倒されたくせに、往生際が悪いのよっ」

「ケイだと?さっきのバルダーの使い手はケイなのか?」

「馴れ馴れしく呼ぶんじゃないわよ!」


 グレースは先程の青白いバルダーの操縦者が誰であるかは分からなかった。とんでもない手練れだと思っていたが、その人物がイザークをはじめ、オルリックの王族が一目置いているケイだとすれば納得もできる。


(すると、ケイはわざわざ危険を承知でユスティールに戻り、この茶屋に来たのか……つまり、そうなのか)


 指名手配されているにも関わらず王国内をうろつき、戦禍のユスティールに戻ってくる理由など、グレースにはひとつしか思い当たらなかった。


(やはり、ユスティールの至宝はここにある!)


 グレースはイザークから、啓の経営する茶屋にユスティールの至宝が隠されている可能性を示唆されたが、その真偽は半々だと考えていた。ただの茶屋に、警備も置かず無造作に至宝を隠すなどありえないと思ったからだ。


 実際の所は、啓はシャトンを救出するためにカフェに来たのだし、カフェはいつも優秀な警備隊が守っていたので、グレースの見解とは異なっていたが、結果的にはグレースの読みは正しかった。


 グレースがこの一画に来た目的は、ユスティールの至宝の探索のためだ。そのために、わざわざアスラ軍にこの付近には近づかないよう指示もした。そして至宝を見つけた場合は、密かに回収した後、速やかにカナートへ引き上げるつもりだったのだ。


 しかしこのままでは、先の啓との戦闘による騒ぎを聞いたアスラ軍の兵士が様子を見に来てしまうかも知れない。

 これ以上、無駄な時間をかけている場合ではないと判断したグレースは、目の前の小娘を殺すべく、反撃に転じた。


 グレースは杖から片手を離した。杖の重心がぶれ、ミトラは少しバランスを崩した。その隙に、グレースは素早く腰から短剣を抜き、刃をミトラの左肩に突き立てた。


「あぐっ……このおぉぉ!」


 肩の激痛で左手を杖から離したミトラだったが、根性で右手だけは残していた。

 猫達を救うために、絶対にこの杖を奪わなければならない。ミトラは痛みに耐えながら、ただそれだけに集中していた。


「小娘……いい加減にその手を放しなさい!」


 グレースが二本目の短剣を抜いたのと、ミトラが気合だけで痛む左手を動かし、杖の先端を掴んだのはほぼ同時だった。


「絶対に……絶対に奪い取るんだから!」


 そんなミトラの強い意志が、自身の中の宿った魔力に力を与えた。ミトラがグレースから奪おうとしているものは杖だが、本当に奪うべきものは杖の発している忌まわしい力だ。ミトラの魔力はその本質に呼応した。


 二本目の短剣をミトラに突き立てようとしたグレースの手が止まる。突如、ミトラの左手から光が漏れ始めたのだ。ミトラの手が光っているのではない。ミトラが掴んでいる杖の先端の魔硝石が輝き、ミトラの指の隙間から光をこぼしているのだ。


「何?私は何も……」

「えっ?えええっ!?」


 驚いたのはグレースだけではなかった。ミトラも予期していない事象に慌てた。

しかしミトラは、何が起きているのかすぐに理解した。


(この感触は知ってる……特訓で、ケイに何度も魔力を送り込まれた時と同じだ)


 ミトラは今、杖の先の魔硝石の力を自分の身体に吸い込んでいるのだと自覚した。魔硝石の中の魔力が勢いよく動いたことが、魔硝石を強く光らせた原因であることまでは分からなかったが、ひとつだけ分かっていることがある。


(だったら、このまま続ければいい!)


 ミトラは激痛に耐えながら、魔硝石を握る左手に力を込めた。


「ちょっと、何よ……何なのよ!」


 光り続ける杖にグレースは目を見張った。同時に、耳鳴りにも似た奇妙な音が、グレースの鼓膜を刺激した。


 その数秒後、硬質なものが割れるような音が聞こえた。目的を果たしたミトラがそっと左手を杖から離す。左腕をだらんと落とし、肩から流れる血が指先から滴り落ちる。


「杖が……破壊された?」


 杖の先の魔硝石が破壊されたと言うのが正しいのかも知れないが、杖としての機能を失ったという意味では間違っていなかった。


「吸ってやったわよ……ざまみろ……」


 肩で息をしながら、ミトラは苦痛で歪めた顔に無理やり笑顔を作ってみせた。


「吸った、だと……貴様……」


 グレースは今、信じられない事態に遭遇していた。本来の魔硝石の使い方は、人が魔硝石に対して力を込め、魔硝石を活性化させて大きな力を生み出すというものだ。しかし目の前の小娘は、逆に魔硝石の力を吸い取ったと言った。そんな事ができる人間がいるなど、グレースには信じられなかった。


 しかし今は、杖の機能が破壊されたことに対する怒りのほうが勝った。


「貴様、よくもイザーク様から賜った杖を!」


 グレースは壊れた杖から手を放し、力任せにミトラを蹴飛ばした。腹を蹴られたミトラは後ろに吹き飛び地面に転げた。ミトラも無用になった杖を放り投げ、腹を押さえて呻いた。


 その直後のことだった。


「ニャッ!」

「ニャニャッ!」

「イテテ……ん……みんな、気がついだんだ!」


 ミトラの耳に聞こえたのは、猫達の鳴く声だった。杖の効果が切れたことで、意識を取り戻した猫達が起き上がったのだ。


 やはり杖を破壊したのは正解だったと改めて思ったミトラは、近くにいるはずのノイエに向かって叫んだ。


「ノイエちゃん、みんなを連れてキャリアに行って!あたしもすぐに行くから!」

「……分かった、ガアッ!」


 林の中から飛び出たノイエは、猫達の上をバッサバッサと旋回した後、林の向こうへと飛んでいった。猫達もノイエを追って走っていった。


(……19、20匹。よし、これで一安心……)


 全猫揃ってノイエを追っていったことに安堵したミトラは、再びグレースに目を向けた。しかし、周囲にグレースの姿はなかった。


「嘘……どこに行ったの?」


 ミトラがグレースから目を離したのは僅かな間だった。その間に走り去るような音も聞こえなかったし、すぐ近くに隠れられるようなところもない。嫌な予感がしたミトラは、肩の痛みを堪えながら、全神経を集中して辺りを伺った。


(………………………………いる)


 ミトラは、近くで何かが動いている気配を感じていた。姿こそ見えないが、間違いなくさっきの女がいると察したミトラは、その場で身構えた。


 直後、ミトラは風を裂くような音を聞いた。すぐにミトラは野生の勘でサイドステップした。突然現れた短剣が、ミトラの脇腹の横をすり抜けていった。

 しかし投げられた短剣は二本だった。もう一本は、ミトラの右足太腿に刺さった。


「くああっ!」

「……今のを躱すなんて、貴女は一体何者なの?」


 足の痛みで膝を落としたミトラは、短剣が飛んできた方向に目を向けた。さっきまでは何もいなかった場所に、グレースは立っていた。


「あんた……もしかして、姿が消せるの?」

「ええ。そうよ。私の力はこの隠密の力。だからもう、貴女に捕まるようなことはないわ。その足ではもう動けないでしょう?」


 既に勝負の趨勢は決したと判断したグレースは、自分の力を隠すこと無くミトラに教えた。

 肩と足に重傷を負った小娘はもう動けないだろう。グレースはこのまま近づいて、イザークから賜った杖を壊してくれた小娘の喉を掻き切ってやろうと思ったが、グレースはそうしなかった。


(得体のしれないこの小娘には、近づくべきではない)


 グレースは自分の油断で既に二度の失敗をしている。一度目は啓のバルダーの力量を見誤り、黒耀騎を三機も失ったこと。もう一つは、女神の奇跡の力を封じ込める杖を失ったこと。

 これ以上の失態はもう許されない。そう考えたグレースは、このまま距離を取ってミトラを串刺しにすることに決めた。グレースは残り二本となった短剣を手に持ち、再び姿消しを実行した。


「本当に消えたし……くっそー……」


 目の前で姿を消してみせたグレースに、ミトラは悪態をついた。姿が見えない以上、どこから短剣を投げてくるか予想がつかない。風切音を聞いても、足に負傷を負った以上、避けられる自信もない。


(あたしもサリー姉みたいに治癒の力を持っていれば……えーい、傷よ治れ!)


 ミトラは怪我が治るように願った。それは本当に、ただやけっぱちでそう思っただけだった。しかし……


「あれ……あれれれ?……嘘でしょ!?」


 ミトラの肩と足に刺さった短剣はミトラの体から押し出され、地面に落ちた。そして短剣の刃が刺さっていた箇所はみるみるうちに塞がっていった。皮膚に若干の痕は残っているものの、傷は塞がり、痛みも引いていった。


「治った……なんで?」


 何より面食らったのはミトラ自身だった。ミトラは自身の魔力を操り、傷の治癒を行ってみせたのだ。実はこの時、杖の魔硝石から奪い取った魔力も能力の発現に一役買っていた。


「駄目駄目、考えるのは後よ。今はあの女の攻撃に備えて……」

「きゃあああああ!」


 ミトラがグレースの攻撃に備えようとした時、女の悲鳴が周囲に響いた。ミトラは悲鳴の聞こえた方に目を向けた。そこには、グレースが腕を押さえて呻いている姿があった。



 ミトラが傷の治癒をしていたのは十数秒ほどだったが、それはグレースにとって十分な時間と隙だった。グレースは十分な距離を保ったまま、静かにミトラの背後にまわり、短剣を構えた。


 グレースは、ミトラが何やらゴソゴソと動いている様子(この時、ミトラは傷の治癒をしていた)に不審を抱いたが、グレースはこの隙を逃さず、短剣を持つ腕を上げた。


 しかしその腕を振ることはできなかった。グレースの腕に、とんでもない激痛が走ったからだ。


 突然襲った痛みで集中を切らしたグレースは、姿消しを維持することができなかった。そこをミトラに発見されたのだ。

 グレースには自分の腕が痛む理由が分からなかったが、ミトラには、グレースを襲った痛みの原因がすぐに分かった。


 周りで聞こえる、大きい虫の羽音と、聞く人が聞けば背筋が凍る、カチカチという顎を噛み合わせる音。

 グレースを襲った痛みの正体、それは啓のカフェを守っている黄色と黒の守護神であるモンスズメバチの蜂姫隊の攻撃だった。



 蜂姫隊のモンスズメバチも、杖が壊れたことで復活を遂げたが、猫達が意識を取り戻すよりも少し遅かった。そのため、蜂姫隊はノイエに着いて行かず、この場に残っていたのだ。


 蜂姫隊は、ミトラの顔をちゃんと覚えていた。そのミトラが見知らぬ人間に襲われている。単純な引き算でその相手を敵とみなした蜂姫隊は、グレースに襲いかかったのだ。


 グレースは蜂姫隊の目の前で姿を消したが、それでも蜂姫隊はグレースの居場所を掴んでいた。それは蜂の優秀な嗅覚によるものだった。


 グレースはこの戦いにおいても軍の指揮に携わる側の人間として、一応の身だしなみには気をつけていた。

 特に長い間水浴びができない場合も想定して、自分自身に香水をふりかけたりもしていた。自分自身が前線に立つような真似はしないので、匂いで自分の位置がばれて困るような事態になることはないが、それでもグレースは匂いのきつい香水ではなく、体臭をカバーする程度の、人によっては気付かない程度の香水を使っていたのだ。


 しかし蜂にはそれで十分だった。姿は見えずとも、匂いを発する塊が動いていることを把握した蜂達は、その空間に向かって飛び、そしてグレースを刺したのだった。


「ありがとう、蜂姫隊のみんな!」


 ミトラは周りを飛び回る蜂姫隊にお礼を言った後、痛みでのたうち回るグレースに目を向けた。


「さて、そこの女はどうしてくれようか……」

「ミュッ!」

「ん、あれ、ミュウちゃん?ノイエちゃんと一緒に行かなかったの?」

「ミュッ!ミュミュッ!」


 いつの間にか、ミトラの足元にミュウが来ていた。実はセジロスカンクのミュウも蜂姫隊同様、猫達の少し後で気がついたため、逃げ遅れたクチだった。


 興奮して鳴き続けるミュウは、ミトラに何かを訴えているように見えた。ミトラは、ミュウもグレースにやられたことに腹を立てているのかと思ったが、もしかしたらミトラに忘れられていたことを怒っているのかもしれないと少しだけ思った。


 だからミトラは、誤魔化しついでにミュウに言った。


「そうだよね、ミュウちゃん。ミュウちゃんも怒ってるよね。うん、あたしもよく分かるよ。ミュウちゃんがここにいてくれてあたしも嬉しいよ。さあ、ミュウちゃん、やっておしまい!」

「ミュッ!」


 ミュウはグレースの近くへトコトコ歩いていき、フサフサの尻尾をグレースに向けた。

 一方、蜂に刺された痛みに苦しむグレースは、自分の近くに何かが近づいてきたことをすぐに察した。グレースは激痛に耐えながら、すぐに短剣を構えた。


「……ネコか?」

「ミュッ」


 近づいてきたのがミトラではなく、小さな獣だったために少しだけ気を抜いたのが、グレースの最大の失敗だった。


 ミュウは、得意の一発をグレースにお見舞いした。数秒後、グレースの意識は完全に途切れた。


「さすがミュウちゃん!えらい!かわいい!」

「ミュッ!」


 グレースが白目を向いて倒れる様子を見たミトラは、全力でミュウを褒めちぎった。ミュウのことを忘れてなんかいないよ、という裏事情を見透かされないように祈りながら。


 それからミトラは、グレースが完全に気絶したことを確認してから縛り上げようと考えたが、残念ながらその時間はなさそうだった。


 ようやく騒ぎを聞きつけたアスラ軍が、数機のバルダーを連れてやってくる音が聞こえたからだ。


「んー、仕方ない。ミュウちゃん、蜂姫隊のみんな。急いでキャリアに逃げよう!」


 ミトラはミュウに頼んで、グレースの周囲だけ匂いを残してもらい、ミュウの体についた残り香を消してもらった。そしてミトラは無臭になったミュウを抱き、背中に翼を具現化してキャリアへ向かって飛んで行った。蜂姫隊もミトラの後を追って飛んだ。



 この時ミトラは、無意識で普通に翼を具現化したが、「ノイエが傍にいなければ女神の奇跡の力を使えない」という制約があることを完全に忘れ、自力で翼を具現化したことに気づいていなかった。



 やってきたアスラ軍の兵士達は、破壊された黒耀騎のバルダーと、意識を失って倒れているグレースを見て騒然としていた。

 

 アスラ軍の兵士によって助け起こされたグレースは、自分の失態を詫び、兵士達にお礼を言ったが、兵士達は何とも言えない表情を浮かべていた。


「どうした、お前達。私の詫びに不服でもあるのか?」


 グレースはまだ痛む腕をさすりながら、兵士達に尋ねた。

 兵士達は、互いに顔を見合わせながら「お前が言え」「いや、お前が言えよ」と言い合っている。


「言いたいことがあるならはっきりと言え!」


 兵士達の態度に苛ついたグレースは、一人の兵士を指差した。

 指名された兵士はグレースに怯えつつ、非常に気まずい顔をしてグレースに言った。


「あの、ですね……お戻りになる前に……早めに下着を変えたほうが……よろしいんじゃないかと……」

「下着!?……何故、私が下着を変えなければならない!?」

「いや、だって……その……匂いますから……」

「!!!」


 ようやくグレースは気がついた。周りに漂うこの酷い匂いがグレースを中心に発生していることで、兵士達がグレースに対して良からぬ誤解をしているということを。


「違う!違うぞ!私ではない!この匂いはネコという動物のせいであって……とにかく私ではない!」


 その後、「グレースが気絶中にう○こを漏らした」という誤情報と「どうやらネコは臭い動物らしい」という風評被害は、侵攻中のアスラ軍全体にあっという間に広がっていった。


ミトラはグレースを退け、猫達の救出に成功しました。

シャトンをひどい目に合わせたグレースには、とても残念な流言付きで。

次回はシャトンの話です。


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[良い点] 更新お疲れ様です。 ミトラ無茶するな!もし捕まって人質にでもされてたらどうすんだ!…と怒る場面ではあるんでしょうが。 でも今回死線をくぐり抜けたからこそ一つ壁を越えられたというのもありま…
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