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027 開店準備

 サリーが(歓喜で気を失うほどに)念願だった猫を手に入れた翌日、啓は市長から貰った一軒家の下見に来ていた。

 広い庭付きの木造一戸建てで、それほど古さも感じない。元々は料理屋を営んでいた建屋だったため、敷地面積もそれなりに大きい。街の中心部からはやや外れた区域のため、市場までは少し遠いし、近くに工房や商店等も無い。

 だが、そのおかげで騒がしさや工房の作業音などもなく、静かで良い場所であることに啓は満足していた。

 

「動物は騒音を嫌うからな。まあ、普通の動物とは少し違うが……」

「ケーイ!早く中を見ようよー!」


 一緒についてきたミトラがさっさと建屋の扉の前に行き、啓をせかす。鍵を持っているのは啓なので、ミトラは啓に向かって早く来いと言わんばかりに手をブンブンと振った。


「ミトラ、そんなに慌てるなって」

「でも早く入ったほうがいいと思うよ?ここに来るまでもかなり目立ってたし」

「まあ、そうだな……全員揃ってるな?」

「ニャッ!」

「ミャッ!」

「ウニャッ!」

「ミュッ!」……


 啓は足元の猫達の頭数を確認すると、扉の鍵を開けた。


「さあ、今日からここがお前達の家だよ」


 建屋に入る啓の後ろを、20頭の猫が続いた。



「うわ、広ーい!」

「これは思っていたよりも凄いな……」


 建屋に入ったミトラと啓は思わず感嘆の声を上げた。啓達が入ってきた扉は言わば『正面入口』であり、かつての料理屋の入り口でもあった。つまり、扉を入ってすぐの場所は、かつて客席のあった間取りの空間、メインホールなのだ。

 広さはちょっとした個人経営の居酒屋程度はある。今はテーブルや椅子も無いため、余計に広く感じるのかもしれないが、啓の思い描く猫カフェを実現するには十分な広さがあった。啓もここをメインホールとして使うことに決めた。

 ホールの左手側にはカウンターがあり、その奥を厨房として使っていた形跡がある。ここもそのまま使えそうだと啓は思った。


「カウンター席は注文専用のカウンターとして使ってもいいな。厨房はドリンクサーバーや物置に使えば良いかな」

「んー、そうだねえ」

「たしか調理をしなければ飲食店の許可申請は不要……いや、それはあくまでも『あっち』の規則であって、『こっち』にはそもそもそういう手続きが必要なのか……」

「んー、どうだろうねえ」

「まあ、後で市長にでも聞いてみるか。とりあえずすぐに必要なものは客席用のテーブルと椅子、猫用の備品やおもちゃかな」

「そうだねー、それでいいんじゃない?」

「ミトラ、さっきから清々しいほどの生返事なんだが……」


 ミトラは床に腹這いで寝そべり、猫達と楽しく戯れていた。手には紐をくくりつけた棒を持ち、紐の先につけた皮製の球をぴょいぴょいと動かしている。

 その動きに釣られた数頭の猫達は、球を目で追ったり、猫パンチで叩こうとしていた。ちなみにこれは啓が猫カフェの構想を描いた時に啓が試作した猫と遊ぶための玩具であり、猫達には「この球をお客が振った時には適当に戯れてほしい」と依頼してある。


「ふふっ、かわいいなあ」

「猫がかわいいのは同意だが、オレの話も聞いてくれ」

「えー、別にいいじゃない。だいたいの手配は済んでるんでしょ?」

「まあ、そうだけど……それにしても、だらけすぎじゃないか?他の部屋もまだ見てないし」


 先人が居なくなってからも、建屋の内外は市長の指示によって定期的にメンテナンスがなされており、特に今日は啓が内覧に来るということで、前日のうちに床も綺麗に磨かれていた。

 そのため、ミトラが床でゴロゴロしても服が埃まみれになるようなことはないが、啓としてはだらしなく猫と遊ぶミトラの姿に軽く苦言をもらしたのだった。


「少しくらい、ゆっくりさせてよ。昨夜から今まで、色々あって疲れたんだから。体力的にではなく、精神的に」

「ああ……それは、その……悪かった」


 啓は昨日、サリーの家で(サリーが気絶している間に)、さらに猫の召喚を行い、合計20頭の猫を召喚していた。

 ペルシャ、スコティッシュフォールド、アメリカンショートヘア、ヒマラヤン、アビシニアンなどの飼い猫としてもメジャーな猫をはじめ、本来飼うには不向きなスナネコや、世界で最も古い種と言われているマヌルネコ、ウサギのようにぴょんぴょんと跳ぶマンクスなど、珍しい品種の猫も召喚した。

 そして目を覚ましたサリーはその光景を見て、秒で再び卒倒した。


 その後、正気を取り戻したサリーと今後の予定や様々な擦り合わせを行い、サリーの気が済むまで猫達と遊ばせた後、啓はサリーの家を後にした。


 それからがまた大変だった。ガドウェルの工房に戻った啓は、大量の猫を連れ帰ったガドウェルにドヤされ、ミトラは阿鼻叫喚した。啓は再び苦し紛れの『地元から啓を追って来てしまった猫達』と弁明したが、さすがに疑いの眼差しを向けられた。


 だが、市長から土地付き一軒家を貰ったこと、猫達はそこで暮らすこと、啓もそこで新たな商売を始めることを告げると、猫の出自については有耶無耶となった。ガドウェルは猫の事情とは違うベクトルで不機嫌そうな顔をし、ミトラはあからさまにしょんぼり顔を見せた。


『ケイ、ここから出ていっちゃうの?』

『お前、ミトラのことは……いや、工房の仕事はどうする。お前は見習いだが、ウチの工房の一員だ。義理も果たさず、途中でほっぽり出す気じゃあるまいな?』


 ふたりの圧に気押された啓は、日数を調整して工房の仕事も続けることと、啓の部屋としてあてがわれている客室も引き続き利用できることを条件に、ガドウェル工房に籍を置くこととなった。


 そして翌日の今日、ガドウェル工房からこの建屋に移動することとなった訳だが、その道中も大変だった。

 昨夜、サリーの家から移動した際には夜も遅かったこともあり、あまり人の目には触れずに帰れたものの、日中はそうもいかない。大量の猫……街の住人からすれば見知らぬ獣を大量に連れて歩く啓とミトラは、ものすごい注目を集めた。


 啓は街の人々から質問攻めにあい、その都度ミトラと手分けして説明を行った。その程度の手間で済めばまだ良かったのだが、先日の襲撃事件からまだそれほど日も経っていないため、中には過剰な反応をする人もいる。

 その結果、再び街を脅威が襲うのではと危惧した人が警備隊を呼び出す事態まで発生し(幸い、ミトラの顔見知りの警備隊員だったので事情を説明してことなきを得たが)、結局、啓と猫達は建屋の近くまで警備隊に囲まれながら移動する羽目となった。


 まるで犯人が護送されているような物々しさは、再び街の人達から奇異の目を向けられる結果となり、啓もミトラも肩身の狭い思いをしながらようやく建屋に辿り着いたのだった。


「だから、あたしはこうしてネコと遊んで回復につとめているのよ」

「来客が来るまでだからな」


 ミトラは放っておき、啓は他の部屋も見て回った。居間や寝室、裏口や他の設備を確認した啓がホールに戻ってくると、ちょうど来客があったようで、ミトラが正面入り口で対応していた。そこにはミトラが姉のように慕っているサリーと、見知らぬ数人の男女がいた……そのうちの1人は、心は女性の男性だが。


「はーい、ケイ。来たわよ。こちらは内装と、家具や調度品の製作と調達をしてくれる人達よ。私のご近所さんで、みんな知り合いだから安心して」

「ありがとう、サリー。皆さん、お忙しいところありがとうございます。ユーゴさんもよく来てくださいました」

「何言ってんのよ。ケイちゃんと私の仲じゃない。遠慮なんかいらないわよっ」

「……ケイ。一体この人とどういう仲なのよ」

「誤解だミトラ。何が誤解なのかと問われると回答に困るが、きっと君は誤解している」


 啓にジト目を向けるミトラに、サリーは思わず吹き出したが、サリーは本来の目的を果たすべく、啓に声を掛けた。


「ケイ、とりあえず入らせてもらうわよ……カンティーク!」


 サリーは連れてきたユーゴ達を中に入れた後、外に向かって呼びかけた。すると、大きくて美しい毛並みの白い猫が、喉をクルルルと鳴らしながら、ひょいっと戸口に現れた。

 昨日、啓がサリーと一緒に召喚し、サリーを主人と認め、サリーの忠猫となったメインクーンだ。


「カンティーク、お友達と遊んでていいわよ」

「ミャォ」


 カンティークと呼ばれた猫は、体の大きさとは裏腹に、かわいい鳴き声で返事をして、ホールの中へと入っていった。


「うえええええ!?サリー姉もネコを飼ってるの?しかもおっきいよ!?」

「ああ。ちょっとしたツテがあってね。啓がネコに詳しいと聞いたので、私も飼ってみることにしたんだよ。名前はカンティークだ。どうだ、可愛い子だろう?」

「ん?それってサリー姉のバルダーと同じ名前だよね?」

「そうさ。だってカンティークは元々……」

「サリー!今日は本当にありがとうな!早速打ち合わせをしよう!」

「あ、ああ。そうだな。そうしよう」


 浮かれたサリーが余計なことを口走りそうな予感がした啓は、二人の会話に割り込み、サリーの背中を押してホールの中へと向かわせた。カンティークは早速、猫達と鬼ごっこを始めたようだ。


「ふう……えーと、ミトラはどうする?オレが皆と話をしている間、ミトラはまた猫と遊んでいてくれても構わないが」

「いや、それもそうなんだけどさ……なんかケイ、サリー姉と距離感が近くなってない?」

「……いや、誤解だミトラ。何が誤解なのかと問われるとやっぱり回答に困るが、きっと君はまた誤解している」


 まるで浮気を探るような目を向けるミトラの横を通り過ぎ、啓は打ち合わせの輪に向かった。



「壁はそのまま使えそうね。色はどうする?」

「茶色が基調の落ち着いた色合いですし、ひとまずこのままでいいです」

「客席はどんな感じがいいんだい?」

「椅子は数脚、適当に配置します。飲み物を置くためのテーブルは少し高めの物を……」

「この、作って欲しいと言われた物の絵なんだけれど……本当にこんな奇妙な形でいいの?」

「はい、これは大事ですよ。キャットタワーと言いまして、猫の遊び道具なんです。大体の形状はこんな感じですが、細部はお任せします」

「飲み物を提供するなら、知り合いの問屋を紹介するわよ。すぐに持ってきてくれるわ」

「ありがとうございます。あ、お酒は提供しないです」

「じゃあ、お茶と果実水を幾つか発注して……」

「お店の前には看板を置きましょう。私が作ってあげるわよ」


 そんな感じで、猫カフェ開業に必要な物の手配が次々に決まっていく。調達のための資金については『サリーの顔』が効き、後払いで構わないと言ってくれたので、早速明日から順次、資材の搬入が始まることになった。


「ケイ。開店の目処は立った?」

「そうだな、ミトラ。もう来週には開店できそうだよ」

「そんなに早く!?」

「まだ足りないものはあるけど、それは営業しながらでも構わない。実際に運営してみて、そこで初めて足りないものに気づくこともあるだろうしね」


 啓は競艇選手を引退した後、猫カフェやエキゾチックアニマルを扱うお店を経営したいと本気で考えていたため、必要な設備や経営のためのノウハウは一応調べてあった。

 とはいえ、実際にやってみないとわからないことはあるだろうし、ここは地球と色々事情が違う。さらに猫達も普通の猫とは違うため、知っている知識や常識だけでは測れない。良い面も悪い面もこれから出てくることだろうと啓は考えていた。


 こうして初日の打ち合わせは無事に終わった。



 プレオープンの前日。啓とミトラは仕上がったホールをぐるっと見回していた。


「いいね、仕上がったね」

「本当、短期間でよくできたもんだわ」

「物を運び込んだだけで、たいして手は入れてないしな」


 ホールには猫用の遊び道具やキャットタワーが置かれている。客用の椅子も用意してあるが、目線を低くして座れるようにクッションや座椅子もある。ドリンクサーバーも準備済みで、今すぐ営業開始もできる体制だ。


「明日は招待したお客さんだけが来るんだよね?」

「ああ。良かったらミトラも知り合いを連れてきていいよ」

「いいの?本当に!?」

「ああ。数人ぐらいならば、増えても構わない」


 明日のお披露目会には、ガドウェル工房の人達や、この店の開店に協力してくれた人達、そして市長と、サリーの知り合いが来ることになっている。

 一般のお客さんはまだ呼ばない。まずは知人を招待して、店の雰囲気やサービスを見て意見をもらうための、言わばプレゼンテーションだ。


「しかし、啓がこんなに早く独立するなんてね」

「素敵です、ご主人。まさに一国一城の主様ですね」

「ああ、バル子、ありがとう……それにしても、よくそんな四字熟語を知ってるね」


 今はミトラと啓しかいないので、バル子も遠慮なく喋っている。


「そう言えばケイ、なんで他のネコちゃん達はお話ができないの?」

「まあ、前にも言ったが、バル子は特別な子なんだ」

「もう、ご主人てば……バル子が特別な存在だなんて……」

「……まあいいか」


 パルコが喜んでいるので、啓はバル子の勘違いをそのまま放置しておくことにした。


「でもさ、ケイ。この店の営業が始まったら、ケイがうちの工房で仕事をする暇なんてやっぱり無いんじゃない?」

「そんなことはないよ」

「あるわよ。開店までは色々忙しくなるからって父ちゃんも工房の仕事を休ませてくれたけれど、開店したらもっと忙しくなるんじゃない?お店が休みの日だって、ネコ達のお世話は必要でしょう?一体どうするのよ」

「ああ、そこはちゃんと考えてあるんだ。もちろん、承諾してくれればだけどね」

「承諾?」

「お、そろそろお昼だな。食事でもしながら話そうか。午後には面接をしなきゃいけないからね」



 ケイとミトラが昼食を終え、ホールで猫達と遊んでいると、1人の少女が店にやってきた。


「あのう……」

「やあ、来てくれてよかったよ」

「ほほう、この子がそうなんだ……あたしはミトラ。ケイの友達よ。あなたのお名前と歳は?」

「私の名前はシャトン、13歳です。あの、親方さんにここに来るようにと言われて……」

「オレが親方にお願いしておいたんだ。とりあえず入って」

「はい……」


 シャトンは恐る恐るホールへと入った。訳も分からずここに来るようにと言われ、不安そうな表情を浮かべるシャトンだったが、2秒後にはその表情が崩れた。


「あの時の動物さん!?こんなにたくさんも!?」

「ああ、そうだ。猫だよ。ここは『猫カフェ』という店なんだ」

「ねこ……ねこかふぇ……わあ、かわいいなあ……」


 シャトンは驚きと歓喜の表情を浮かべ、猫達を見ていた。


「ケイ、いけそうじゃない?」

「ああ。そうだな……シャトン。今日君に来てもらったのは、君に大事な話があるからなんだ」

「大事なお話?」

「ああ。君に頼みたいんだ。この店の店長を」

「て、店長!?」


 少女は今日一番の驚きの声を上げた。


「シャトンは先日、このバル子と遊んでくれただろう?」

「うん……覚えてる」

「あの時、この店を任せられるのは君しかいないと思ってね」


 無論、これは啓の嘘である。まるっきり嘘というわけではないが、シャトンの身の上を知ってしまった啓は、なんとかシャトンの生きる道を作ってあげたいと思っていた。

 そんな時に猫カフェ実現の目処が立ったため、シャトンにこの店の店長をやってもらおうと構想を固めたのだった。


「オレは別の仕事もあって、ずっとこの店にいることができない。だから代わりにシャトンにやってもらいたいんだ。仕事の内容は猫の世話と、この店に来る客の応対と飲み物の提供。やり方は全部教える。給料は売上の3割。まずはこれでどうだろうか」


 シャトンはキョトンとして啓の話を聞いていた。もしかして給料が安すぎたのだろうかと思った啓だったが、そうではなかった。

 シャトンは表情に影を落とし、啓に言った。


「何で、私なんですか……」

「いや、さっき説明した通りだが……」

「嘘、ですよね」

「えっ?」

「私が……私が父を亡くして、孤独になったことを知って、可哀想だと思ったんですよね。同情……ですよね」


 シャトンの推測は正鵠を得ていた。啓はシャトンが諸手を上げて、喜んで話に乗ってくれると思っていたが、シャトンは施しを受けることを良しとしなかった。啓自身も、シャトンが少女だと思って侮っていた自分を恥じた。


「とてもいいお話でしたが、そんなつもりでこのお話を受けることはできません。あなたは私自身のことを知りもしないでこの店を預けようとしています。そんなの、私自身が許せません。私は無償で施しを受けたいとは思いません。だからごめんなさい。私ではなく、他の人を……」

「待ってくれ!」


 啓はシャトンに近づくと、頭を下げた。


「オレが間違っていた。いや、完全に間違ってはいないが……ただ、最初に君を店長にしたいと思った動機は、君が指摘した通りだ。本当に申し訳ない。だけど……」


 啓は頭を上げ、シャトンの目を見て話を続けた。


「オレも両親を事故で亡くして、一人で生きていくために、自分に向いている仕事を見つけて、がむしゃらに頑張った。他人に頼ることなく、一人で生きていくために。だが、君はその時のオレの歳よりも若い。君の辛さは分かるつもりだ。いや、オレよりもきっと辛い思いをしているだろう」

「……」

「だから、せめて、いつか君がやりたいことを見つけて、それを実現したいと思った時、オレはその背中を押してあげたい。こう言っちゃ何だが、君はオレが思っていたよりもしっかりした子だった。歳なんて関係ない。芯の強い、素敵な女性だ」

「そんな、私なんて……」


 シャトンの顔が少しだけ赤くなった。バル子とミトラは、早くもに嫌な予感を感じていた。


「だから、改めて君に店長をお願いしたい。君の身の上は関係ない。君を信頼して任せたいんだ。オレの大事な猫達を預けるに値すると感じた、君だけに!」

「!!!」


 シャトンの顔が完全に真っ赤になった。ミトラとバル子に戦慄が走る。


「いつか、君が自分の夢を見つけるまでで構わない。それまで店長の仕事をやってもらえないだろうか。もちろんオレも協力するし、君が何かをするためにもそれなりの支度金は必要だと思うし、仕事で疲れたらここに泊まってくれても構わない。空いている客室があるから君に一部屋提供しよう。それから……」

「やります」

「えっ?」

「やります。私、店長をやらせていただきます!」


 シャトンは満面の笑みで啓に応えた。


「そっか……そっかあ。良かった……よろしく頼む、シャトン」


 啓はシャトンに握手を求めるために手を伸ばした。


「はい、えっと……」

「あ、ごめん。自己紹介をちゃんとしてなかったな。オレは啓。この店のオーナーだ。ああ、オーナーというのは、この店の所有者という意味の言葉だよ」

「ケイ……オーナー。私のオーナー」


 シャトンは啓の手を握った。両手で、ギュッと啓の手を握りしめ、そのまま自分の胸に引き寄せた。


「ん?えっと、シャトン?」

「オーナー。これからよろしくお願いします」

「ああ……改めて、よろしく」

「それと、私、早速ですが、夢ができました」

「ええっ!?てことは、まさかすぐに店長を辞めるんじゃ……」

「辞めませんよ。辞めるどころか、一生、この店にいようと思いました」

「そうなのか?まあ、オレは助かるけど……」

「……オーナーは鈍いですね」


 ふふっと微笑むシャトンの表情を見た啓は、とりあえず快く店長を引き受けてくれたことに安堵した。


 一方、ミトラとバル子は『またコイツやりやがった』とゲンナリするのだった。

開店準備は整いました。


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