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014 工房都市の戦い その1

 ちょっとした手違いでバル子とチャコにKOされたザックスはまだ地面で唸っていた。とりあえず啓は、バル子とチャコにこれ以上手を出さないよう伝え、ザックスが起きてくるのを待つことにした。


「ねえ、ケイ、そいつの事は放っておいて、早く避難しないと……」


 ミトラの言う通り、今はユスティールの街が正体不明のバルダーに襲われて危険な状況だ。そのため、啓とミトラは警備隊長のレナから警備隊員の護衛をつけてもらい、ミトラの工房へ向かおうとしていたところなのだ。しかし啓はこのままザックスを放置していくべきではないと考えていた。


「すまない、ミトラ。オレは後から行くから、先に帰っててくれないか」

「そんなの駄目だよ!危ないんだよ!」

「オレのことなら大丈夫だ。用が済んだらすぐに行くから。それに今のを見たろ?オレの護衛は見ての通り強いからさ。ね、警備隊員さん?」

「ん?ああ、そうだな……正直驚いた」


 バル子とチャコは、今は啓のそばで大人しくしているが、警備隊員はやや引き気味で2匹を見ている。


「警備員さん、ミトラを頼みます」

「分かった。君も早く来るように」

「ケイ……気をつけてね」


 そう言うとミトラと警備隊員は、ガドウェルの工房の方へと走って行った。既に陽が落ちて暗くなった夜道を走る2人の後ろ姿は、すぐに見えなくなった。啓は自分の目を足下のザックスに向けた。


「おい、ザックス。その……すまん。大丈夫か?」

「ああ……」


  ザックスが目を押さえ、頭を振りながら啓に応えた。


「お前に言いたいことはあるが、今はそれどころじゃねえ。ケイ、お前の力を借りたい」

「……とりあえず話を聞かせてくれ」


 力を貸せるならば貸したいと思う啓だったが、無茶な注文であれば断る、そのつもりで啓は話を聞くことにした。 


「奴らが乗っているバルダーは、うちの工房で造ったバルダーなんだ」

「つまり、ザックスの工房はテロリスト……あの襲撃犯達に武器を供与したということか?」

「違う!……いや、結果的にはそうなっているが、決してそんな真似はしてねえ!」」


 ザックスが言うには、テロリスト達が乗っているバルダーは、オルニック王国のバルダー騎士団に納品するために造っていたものだという。

 ザックスの父親が経営しているロッタリー工房は規模が大きく、戦闘用バルダーを製造するための基準を満たしている。ロッタリー工房はオルリック王国から戦闘用バルダーの製造を受注、生産して先日王国に搬送したのだが、バルダーは騎士団に届けられず、テロリストに渡ってしまったらしい。


「王国への輸送中に奪われたのか?」

「いや、そんな報告は聞いていない。搬出と輸送は市場の輸送部隊に任せているんだ。だから俺はすぐに責任者に問い合わせたんだが、そいつは今、行方不明らしいんだ」

「怪しいのはそいつか……」


 さしずめ、市場の職員が私利私欲のためにバルダーを横流ししたのだろうと啓は推測した。


「それで、ザックスはこの不祥事をなんとか隠したい、ということか?」

「……馬鹿にするなよ」


 ザックスは険しい顔で啓を睨んだ。


「俺はこの街が破壊され、街の人達が殺されることが許せんのだ!それも、うちの工房で造ったバルダーにだ!親父は、出荷後のバルダーの事はうちの責任じゃないと言って取り合わん。だが、そうじゃねえだろう?俺達の街が襲撃されているんだ!何もせずにいられるか!」


 ザックスは吠えるように気持ちをぶちまけた。啓はザックスと会うのはまだ2回目だが、最初の出会いが悪すぎたせいもあって、ザックスがそこまで街のことを考えているとは正直思っていなかった。


「ザックス、オレはお前のことをいけすかない奴だと思っていたが、少し見直したよ」

「ああ?勘違いすんなよ?俺はいずれこの街の市長になる男だ。俺の街が壊されるのが許せねえんだよ!」

「そうか……うん、そうだな」


 それがザックスの照れ隠しなのか、本気なのかは分からないが、理由には納得することにした。


「それでザックス。オレに頼みと言うが、具体的に何をすればいいんだ?」

「奴らのバルダーを止める。だからケイ、バルダーに乗ってくれ」

「確かバルダーは全て街の保管倉庫にしまってあるんだよな?そいつを使うのか?」


 一緒に倉庫に向かえばいいのだと推理した啓だったが、ザックスは首を振った。


「倉庫の鍵は行方不明になっている職員が全て持ち去ったか、隠してしまったらしい。だから倉庫を力ずくで開けようとしたのだが、その前に奴らのバルダーがやってきて倉庫を占拠してしまった」

「じゃあ、バルダーに乗れないじゃないか」

「うちにある。お前が壊した俺のバルダーだ」

「……壊れてるんだろ?」

「半分は修理が終わっている。動かない事はない」

「……それで?」

「俺のバルダーをお前が操縦して、倉庫を占拠している奴を倒してほしい。倉庫さえ解放できれば、街の連中と共闘して対抗できる」

「なるほど。筋は通ってるな」

「俺は怪我でまともに操縦ができねえ。それに俺より……認めたくはねえが、俺よりお前の方が、上手くバルダーを操縦できる。頼む。力を貸しれくれ」

「……できるかどうかは分からん。だがやってみよう。ザックス、バルダーがある案内してくれ」



 啓はザックスと一緒に、ロッタリー工房へ急いで向かった。幸い、工房に向かう途中で襲撃犯のバルダーに出会うことは無かったが、道中は散々たるものだった。通りに面した店や露店は破壊され、怪我人を介抱する者や、地面に横たわる人のそばで泣き崩れる人を嫌と言うほど目にした。

 日本で生まれ、日本で育った啓は戦争や紛争は書物や海外のニュースで見たことしかない。凄惨な光景を目の当たりにした啓は、実際の戦争はこういうものなのかと実感し、恐怖と怒りで身震いした。


(絶対に奴らを止めないと……だけど奴らと戦うということは、オレも死ぬかもしれないということだよな……)


 啓も内心では戦いが怖かった。先日のザックスとの模擬戦は、命のやり取りまで行わないという前提のものだった。無論、一歩間違えば死ぬ可能性はあったが、試合と殺し合いでは訳が違う。今回の相手は確実に殺しにかかってくるのだ。せめてもの救いは、ザックスのバルダーは戦闘用仕様で、性能も良かったことだ。そこに勝てる可能性と、生き残れる希望があるはずだ。

 そう思っていた啓だったが、ロッタリー工房の修理場に到着し、ザックスのバルダーを見て絶句した。

 ザックスのバルダーは胴体のコクピット以外は脚しかなかった。腕の部分は肩の接合部から先が綺麗に無くなっていて、まるで二足歩行テストを行うための筐体のように見えた。背中に薙刀のような武器を背負ってはいるものの、腕も無いのにどうやって使えばいいのだろうか。


「ザックス……お前のバルダー、全然直っていないじゃないか!」

「壊したのはテメェだろうが!」

「……それはそうだが、半分は直したって……」

「だから半分じゃねえか。脚はあるだろう」

「……」


 物理的に半分だとは思わなかった啓だった。


「じゃあ、ザックス。あの、蒸気のようなものを吹き出すやつは使えるのか?それと隠し持っている武器は?」


 先日の模擬戦の時、このバルダーが見せた機能が2つあった。ひとつは、一時的にスピードやパワーが増加する機能だ。その機能を使う際には、バルダーの関節から蒸気が噴き上がるのだが、おそらく機体に過度の負荷をかけるためにそのような現象が起きているのだろうと思われる。もうひとつは仕込み武器だ。このバルダーは、肩付近に仕込まれている砲口から砲弾を発射する機能を持っていた。模擬戦では蒸気に紛れて使用してきたし、2度目の使用時には啓は高くジャンプしていたために啓自身がはっきり見たわけではないが、後から聞いた話で、このバルダーに武器が搭載されていたことは判明している。


「ああ、性能強化は数回使えるはずだ。だが機体がこの有様だからな。使った途端にバラバラになるかもしれねえ。武器ってのは掃射砲のことだな?掃射砲は右肩の一門だけ使える」


 掃射砲は、先を尖らせた筒状の金属を高速で飛ばす武器で、敵の機体に穴を開けて破壊したり、部位破壊によって足止めをするためのものだとザックスが解説した。


「ならば、その掃射砲だけが頼りだな……」

「ケイ、やってくれるか?」


 ザックスが期待と不安をごちゃ混ぜにしたような表情で啓を見ている。啓は小さくため息を吐き、頷いた。


「やってみるよ。だけど情報は必要だ。倉庫にいる敵のバルダーの数と、バルダーの性能を教えてほしい」


続けて次話投稿します。


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