012 祭と襲撃
「なあ、ミトラ……その格好で行くのか?」
「もちろんよ。絶対にケイを守ってあげるからね!」
祭り当日、待ち合わせ場所にしたガドウェル工房の正面入口に現れたミトラは、完全武装と言っても良い格好をしていた。
作業時に着るつなぎの上には、小型ナイフや沢山の謎の小道具をぶら下げたベルトを2つ、襷のようにかけ、背中には木刀のような棒、腰には長めの剣、太ももの辺りには革ベルトに収めたナイフが数本、そして左手には棍棒を持っている。どう見ても祭りではなく、戦場に赴く装備にしか見えなかった。
「いや、ミトラ。流石にその格好では駄目だと思うぞ」
「やっぱり?あたしも少しそう思ってたんだ」
「少し?……まあ、分かってくれればいいんだ。とりあえず着替えて……」
「まだ武器が足りないよね。ヘイストに言って何か借りてくるね」
「ちっがーう!」
流石に啓も突っ込まざるを得なかった。しかしミトラは何が違うのかわかっていない様子だ。
「えっと、ミトラ。お祭りにはたくさんの人が来るよな?そこにそんな物騒な格好をした人が現れたら、皆驚くだろ?職務質問されるだろ?」
「まあ、少しは驚かれるかもしれないけれど、お祭りだから逆に大丈夫じゃない?」
「コスプレみたいなものってか……いやいや。そんな格好では悪目立ちするよ。人目を引いてオレを狙っている奴らに見つかりやすくなるかもしれないし、オレの同行者が武装していると知ったら、相手もいきなり武器を振り回して襲って来るかもしれない。そうなればお祭りを楽しんでいる他の人にも被害が出てしまう」
「確かに、ケイの言う通りね。でも武器は持っていたいし、どんな格好をすれば目立たないかなあ」
「普通でいいよ。武器はなるべく少なくしてさ、あくまでオレと一緒に祭りを楽しんでいるって格好にして欲しい」
「あたしと啓が一緒に……つまり、その……こっ、恋人みたいな感じ、かな?」
「そう、その通り!是非そうして欲しい!」
啓はミトラに「完全武装されるよりも圧倒的にマシ」という観点で強く同意したが、ミトラの捉え方はやや違った。
「……分かった。だけど、その……ちょっと時間をください……」
「ああ、もちろん。待ってるよ」
「……頑張ってくる」
そう言うとミトラは工房の自室に戻って行った。そして啓はミトラが戻ってくるまで、たっぷり1時間ほど待たされた。
◇
「お、お待たせー、ケイ……」
ミトラは先ほどの完全武装とはほど遠い、ノースリーブの白いワンピースに着替えて出てきた。服の上からでも分かる、程よく発達した胸、その胸とは対照的に細く引き締まったウエスト、腰から下に伸びる長いスカートは陽の光を浴びながら微風になびいていた。頭に被っているパナマ帽子のような、つばのあるベージュ色の帽子は、服だけではなく、イエローベースの肌と茶色い髪の毛にマッチして、よく似合っている。そして、さりげない装飾の入ったイヤリングと金色のブレスレットが服装にアクセントを与え、見事なトータルコーディネートを完成させていた。
「ごめんね、ケイ。かなり待たせちゃったよね?だって、ほら……ね?」
「いや、問題ない。バル子と遊んでいたからな」
「そう……」
「…………」
「…………」
「…………いてっ!」
モジモジしたまま何も言わず、目を逸らしたままのミトラの様子を不思議に思いつつ、とりあえずミトラのリアクションを待っていた啓だったが、突然肩に乗っていたバル子に尻尾で顔を叩かれた。
(何するんだよバル子)
(ご主人、それはこっちの台詞です。女の子が頑張ってお洒落をしてきたのです。褒めてあげてください)
(何で?)
(何でもです!)
バル子は一際大きな溜息を吐くと、肩から飛び降りて毛繕いを始めた。これ以上の話は不要と言うことだろうか。とりあえず啓はバル子に言われた通り、ミトラを褒めることにした。
「あの、ミトラ。その服装、すごく良いよ」
「本当!?嬉しい……」
「(武装が)キレイに(無く)なって嬉しいよ」
「やだ、ケイ。褒めすぎだよ、恥ずかしいじゃない……」
「じゃあ、行こうか」
「え、もう終わり?……まあ、いっか。行こう、ケイ」
上機嫌なミトラは軽くスキップ気味に歩き始めた。啓も歩き始めると同時に、肩にバル子がピョンと飛び乗る。
「ご主人、ギリギリ及第点ですが、良くできました」
「何が?」
「何がって……ミトラの服を褒めたことです。やはりご主人は朴念仁ですね」
「本当に、よくそんな言葉を知ってるね……でも、まあ、祭りだからって浮かれてばかりでもいられないしな」
「ご主人、付近の警戒はバル子にお任せください」
「ああ」
啓は空を見上げた。眩しい陽が射し、雲ひとつない空を小鳥が飛んでいる。少し蒸し暑いほどの快晴で、まさにお祭り日和といった天気だ。
「そうだな。よろしく頼む」
◇
ユスティール工房都市の創業祭は大盛況だった。年に一度だけ開催されるお祭りというだけあって、露店は大通りだけでなく小道や横道にも沢山出ているし、人の出もかなり多かった。工房都市に住む人だけではなく、旅人のような格好をしている人もいて、近隣の街や遠くからも来場している人も多いとのことだった。
「凄いね、見たこともない食べ物ばかりだ」
「食べ物だけじゃないんだよ。掘り出し物や値引き品なんかもあるんだから」
「あれは、くじ引きかな?」
「ああ、あれは駄目よ。1番の当たりなんて最初から入ってないんだから」
「……そう言う話はどこの世界にでもあるんだな」
祭りの雰囲気そのものは、日本の大きな祭りとたいして違わないのだなと啓は感じていた。すれ違う人達は皆笑顔で、祭りを楽しみ、賑わっている。
「どお?こんなにたくさんの人を見るなんて、啓は初めてじゃないの?」
「いや、そんなことないよ。大きなレースの時には凄くたくさんのお客さんが来るしね」
「レース?お客さん?」
「あっ…….えっと、まあ、要するにお祭りみたいなものでさ。こうやってたくさんの人が来るんだ。それをふと思い出したんだよ」
記憶喪失の設定を忘れかけていた啓は慌ててフォローした。競艇選手だった啓は、普段から競艇場で多くの観客を見てきた。一般戦や、大きなレースが行われる競艇場ではない別の競艇場、いわゆる「裏開催」の競艇場でも1000人程度は来るし、大きなレースに至っては1万人を超えることもある。自分が人波に揉まれる訳ではないので、あくまで見ているだけではあるが。
「ふーん、そっか……でもケイがそうやって少しずつ記憶を思い出せるなら、祭に来た甲斐があったってもんだね」
「そうだな。それに目新しいものばかりで楽しいしね。色々見て回ろう」
それから啓とミトラは心ゆくまで祭りを堪能した。夕方、バル子が啓にサインを送るまでは。
「ミトラ、少し休まないか?」
「なーに、ケイ。もう疲れちゃったの?だらしないなー。夜はこれからだよ?」
啓は首を横に振り、作り笑いを浮かべてもう一度言った。
「いや、そうじゃない。『少し休まないか?』と言ったんだ」
「あっ!……うん、分かった」
ミトラも思い出してくれたようだと啓は気付いた。『少し休まないか』というのは啓とミトラが予め決めておいた合言葉だ。つまり、不審な人物がケイ達に迫っているということを意味する。
啓とミトラは人混みを避けるように、裏路地へと入っていった。土地勘のない啓はミトラについて行くだけだったが、ミトラが「この先に空き地があるから」と言うので、ミトラに任せて路地を進んでいった。
◇
男はターゲットを追って路地に入り、やがてひらけた場所でターゲットと女が抱き合っているのを目撃した。盛りのついた男女が祭りの高揚感で盛り上がることはよくある。そんな様子を、男は羨ましさと恨めしさ半分で見ていたが、すぐに本来の目的を思い出すと、懐からナイフを取り出し、ターゲットの背後へと駆け寄った。
しかし、男は足を取られて勢いよく転倒した。何かに足を引っ掛けた、いや、足を取られたのだ。
「ニャーン」
転んだ男の足元にはバル子がいた。バル子は走る男の足に横から飛びついて足を絡めされ、キレイにすっ転ばしたのだ。
「何だこの獣は……いや、こいつは確か奴が肩に乗せていた……」
「そうだ。オレの大事なバル子だよ!」
「くっ、貴様、がっ!?」
自分を見下ろすターゲットに激昂した男は、まだナイフが手にあることを確認し、すぐさまターゲットに飛びかかろうとしたが、男は頭を硬い棒で強打されて意識を飛ばした。
「はい、恋人のふり作戦、一丁上がり!」
「お見事、ミトラ……だけど、その鉄の棒はどこから……」
「女の子のスカートの中には秘密がいっぱいあるのよ?知らなかった?」
「……知らないでおくことにするよ」
その後、「秘密がいっぱいのスカート」の中から取り出した紐で男を縛り上げたミトラは、男をしこたま平手打ちして男を起こした。そして、啓を襲った理由を聞き出すために尋問を始めた。
「だから、俺は金で雇われただけだ。お前なんて知らねえよ」
「じゃあ、誰に頼まれたんだ」
「言う訳ねえだろうが」
「お前がオレを殺そうとしたのは2度目だよな?」
「はあ?お前なんか知らねえと言ったろ。今回が初めてに決まってるだろうが」
「だってガントさんの工房を襲撃しただろう?2度目じゃないか」
「あそこにお前はいなかっただろうが!」
「そうか。分かった」
啓は立ち上がると、手を顎に当てて男の発言を頭の中で整理した。
「ねえ、ケイ。こいつ何も喋らないよ?これじゃ何も分からないよ」
「いや……とりあえずコイツが間抜けだと言うことはわかった」
「間抜け?」
「ああ、こいつはガントさんの工房を襲撃した犯人だと自白した」
「あー、確かに」
「そして、オレを襲ったのは今回が初めてだと言った。つまり、オレがサリーさんに助けられたあの日の襲撃には加担していない。しかしこの男はオレを追ってきて殺そうとした」
「……どう言うこと?」
「こいつはオレの顔を知らなかったはずだ。ということは、オレの顔を知っているやつがこいつにオレを追って始末するように指示を出した。だとすると、少なくとももう1人、近くいるはずだと思った方がいい……」
この男に指示を出した奴が、啓を始末する様子を確認しないはずがない、と啓は考えた。きっと何処かから見ているに違いない、と。そしてその予想は当たっていた。
(ご主人、囲まれています!)
「ミトラ、気をつけろ!囲まれて……」
「ケイ、後ろ!それと、あっちにも、あれ、こっちも!?」
啓の予想通り、この男に指示を出した襲撃犯の1人はこの様子を見ていた。そして男がやられたのを見て、すぐに仲間達を呼び集めたのだった。
現れたのは8人の男達だった。全員が手に得物をもっている。そしてそのうちの1人は刀身の長い剣を鞘から抜いた。
「あの剣……あの夜の奴だ」
「ケイ、思い出したの!?」
「ああ、あれだけは忘れもしないよ……オレを斬った奴だ」
「おい、お前。なぜ生きてる?なぜ足がある?確かに俺はお前の足を叩き斬ったよな?」
「さあね。オレにも分からん」
「そうかい。ならばもう一度斬ってやろう。今度は確実に、息の根を止めてやる。お前ら、か……」
かかれ、と剣の男が言おうとした直前、ミトラはスカートを翻すと、円筒状の物体を取り出して空に向けた。そして「パァン!」と言う音と共に、空に向かって赤い玉を打ち出した。赤い球は上空で破裂すると、赤い煙の塊を上空に残した。それを見た襲撃犯の1人が叫んだ。
「信号筒だと!?」
「信号筒?なんだそれは」
「あら、信号筒を知らないなんて、余所者が混じっているのかしら?工房都市の人間ならば皆知ってるわよ。信号筒を上げると、ユスティールの警備隊がやってくるわ。お祭りの日なんて警備のためにそこら中に警備隊がいるから、きっとすぐに集まって来るわよ」
信号筒を知らなかったのは他でもなく剣の男だった。つまり剣の男はこの工房都市の人間ではないということになる。啓はなぜ自分がこの街の人間ではない男に狙われているのか、皆目検討がつかなかった。
「クソが……ふん。警備隊が来る前に片付けてやる。お前ら、や……ぐおおっ!!」
剣の男は再び号令を掛け損ねた。男は突然目の前に現れた「何か」に目潰し攻撃を受けたのだ。そしてその「何か」は目にも止まらぬ素早さでちょこまかと動き回り、他の襲撃犯達の目も潰して回った。
襲撃犯達も「何か」を捕まえようとしたり、得物で叩き落とそうとしたが、その動きは極めて速く、さらに急旋回や急停止を繰り返して襲撃犯達を翻弄した。そして隙をついて目を潰す。襲撃犯達は阿鼻叫喚の様相となっていた。
「よし、狙い通りだ!」
「ねえ、ケイ……あいつらどうしたの?一体何が起きてるの?」
「ミトラ、説明は後だ!怯んだ奴らを全員ぶっ倒してくれ!」
「う、うん、分かった!」
ミトラが目潰しされてのたうち回っている襲撃犯達に向かって行く。その間にも、小さな味方は襲撃犯の目を執拗に攻撃して戦意を削りまくっていた。
「ご主人、指示された通りに伝えました」
「ああ、バッチリだよ。ありがとう、バル子、そして……」
鳥のように舞い、蜂のように刺す。襲撃犯達を襲う小さな刺客、それはハチドリだった。
◇
昨夜、カンムリクマタカの召喚に失敗した啓は「ならば小さくて軽い動物ならどうだろうか」と考えた。魔硝石の大きさや品質で、召喚できる動物に制限がかかるというならば、魔硝石に合わせて、体重が軽くて、サイズの小さい動物で試してみればいい。
「しかし、ただ軽くて小さいだけでは心許ないし、偵察や監視だけでなく、いざという時に、撹乱する程度には何かできるような動物といえば……そうだ!」
啓は小さな魔硝石を握り、念じた。魔硝石が手の中で輝き出し、そして変質し始めた。手の中の魔硝石が熱を持ち始める。しかし火傷するような熱さではない。啓がゆっくりと手をひらくと、輝きは徐々に形作るように収束していき、やがて一匹の鳥になった。
「……できた。ようこそ、オオハチドリ!」
茶色い体、長い嘴、つぶらな瞳。重さを感じさせないその鳥が、ケイの掌の上に立っていた。
ハチドリは英語でハミングバードと呼ばれ、目にも止まらぬ羽ばたきで、空中で停止しているかのようなホバリング飛行ができることで有名な鳥だ。ハチドリにも様々な種類がいるが、平均すると全長は10-15cm程度、体重は10g前後とかなり小さい。啓が召喚したのは世界で1番大きいオオハチドリだが、それでも全長は20cm、体重は20gほどしかない。これならば小さな魔硝石でも呼び出せると啓は考え、そして見事に成功した。
「えっと、オオハチドリさん。オレの言葉、分かるかな?分かったら3回頷いて欲しい」
オオハチドリは小さく3回頷いた。その後も何度か意思の疎通ができるか試してみたところ、こちらの言葉が通じていることは分かったが、あいにく言葉は喋れないようだった。なお、オオハチドリは雌だった。
「こちらの言葉は理解しているみたいでよかったよ。会話ができないのはちょっと不便だけどな」
しかし、意外な所から意外な解決策が見つかった。
「ご主人はこの鳥の声が聞こえないのですか?バル子には聞こえていますが」
「え?そうなの?」
「はい。ご主人。音声とは違う何かですが、バル子は鳥と会話ができています。鳥はご主人をご主人と認め、生を与えてくれた感謝と共に、ご主人のお役に立ちたいと言っています」
「そうか……そうかあ……」
啓はオオハチドリにそっと頬擦りした。オオハチドリも身を寄せ、啓に体をスリスリする。
「頼もしい仲間が増えたな。これで明日の警戒体制はできた。バル子と仲良く、これから一緒によろしくな……チャコ!」
今回は見た目で、茶色い体の色から啓が思いついた名前がつけられた。
◇
「チャコ!もう大丈夫だ!戻っておいで!」
啓がチャコに呼びかけると、チャコは啓が伸ばした手のひらに降りた。啓が長い嘴の先を軽く拭うと、チャコは啓に向かって機嫌よさそうにピュイッと高く一鳴きし、羽繕いを始めた。
襲撃犯達は全員、チャコに両目を攻撃されて碌に目も見えない状態になっているところに、ミトラが何処にしまっていたのか分からない大きさの木製ハンマーでしこたま叩かれ、半数は失神し、半数は戦意を喪失して立ち上がることさえできなかった。ミトラは一仕事を終えて、啓の元に戻ってきた。
「ふー。いい運動になった。あんまり張り合いはなかったけどね」
「なあ、ミトラ。そのハンマーは……」
「もちろんスカートの中よ?」
「……オレはもう、スカートからバルダーが出てきても驚かないからな」
ヒラヒラとスカートをはためかせるミトラを見て啓は小さく息を吐いた。
「それよりも、その鳥よ。一体何なの?」
「ああ、この子はチャコ。この子もバル子と同じくオレの大切な仲間だよ。空から見張っててもらったんだ。昨日再会できたばかりでさ。あはは……」
「何よ、だったら最初から教えてくれればいいのに……でも助かったから、まあいっか。それにしてもめちゃくちゃ素早いし、えらく攻撃的だし、あたしもちょっと怖かったよ」
「ああ。ハチドリは結構攻撃的なんだよ。縄張りを守ったり、他の鳥から身を守るために嘴で刺したり挟んだりするんだ」
ホバリングをしながら長い嘴で花の蜜を吸う姿が愛らしいことで有名なハチドリだが、実は何気に喧嘩っぱやく、軽い体重の割には地味に強い。武器として使う長い嘴はよく見るとたくさんの刺がついており、刺すと同時に棘でさらにダメージを与える。この危ない嘴は、日々の戦いの中で進化したものとも言われている。
啓がミトラにハチドリに関する説明をしていると、こちらに駆けてくる複数の足音が聞こえてきた。やがて空き地に現れたのは、揃いの制服を着て帯剣した複数の人間だった。ユルティール工房都市の警備隊が到着したのだ。
「お前ら、全員動くな!……動けそうにない奴もいるようだが、そのまま大人しくしていろ!」
先陣を切って場を仕切っていたのは、女性の警備隊員だった。そのことに目をつけた剣の男は、突然声を上げた。
「警備隊長さん!助けてくれ!こいつらが俺達を襲ってきたんだ!そこの男は猛獣をけしかけて、その隙に女が俺達をめったうちにしたんだ!」
「……ほう、猛獣というのは……こいつらか?」
「ニャーン」
「ピュイッ」
「……とりあえず頭がやられている可能性は考慮しよう」
「いや、その、とにかく、悪いのはあいつらだ。やられているのはどう見ても俺達だろう!」
確かに、今健在なのは啓とミトラだけで、怪我をして倒れているのは9人の男達だ。暴行犯として捕まるのは自分たちかもしれないと啓は焦り、緊張した。警備隊長はゆっくりミトラに近づくと、ミトラの肩をガッと掴んだ。そしてホッと息を吐いた。
「無事で良かったよ、ミトラ」
「へへっ。レナ隊長とサリーに鍛えられてるおかげだよ」
「……ミトラ、この人と知り合いなのか?」
「この人はレナ隊長。ユスティール警備隊の隊長で、あたしに戦い方を教えてくれた師匠!」
「はあ……何だよ、だったら、最初から教えてくれればいいのに……」
「あははっ。さっきのお返しだよ!」
啓は拍子抜けして、全身から力が抜けた。
「くそがっ!」
言い逃れができないと悟った剣の男は逃亡を図ろうとしたが、あっという間に警備隊に取り押さえられ、拘束された。
「連れて行け!……済まないが、ミトラと、そこの男も来てくれるか。一応、事情聴取はしないといけないのでね」
「勿論です」
啓としても、自分が襲われる理由を剣の男と襲撃犯達から聞きたいと思っているので、レナの申し出を拒否する理由は無かった。
「ところで、ミトラ」
「何?レナ隊長」
「この男は、お前のいい人なのか?私は何も聞いてないぞ?水臭いじゃないか」
「やっ!違う、違うから!」
ミトラは真っ赤になって手と首をブンブン振った。
「おい男、名は何という?」
「啓と言います」
「ケイ、こいつを泣かすようなことはするなよ?ミトラは私の大切な友人だ。不幸な目に遭わせたら承知しない」
啓はレナに「お前がちゃんと賊と戦ってミトラを守れ。ミトラをこんな事件に巻き込んで不幸にするな」と叱咤されたのだと理解した。いや、誤解した。
「はい。オレが守ります。ミトラを不幸になどしません。オレが必ず幸せにします!」
ミトラの顔は今にも沸騰音が聞こえてきそうなほどに熱を帯びて真っ赤になり、その場でへたりこんだ。
ハチドリ参戦。
次回、再び事件です。
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