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113 それぞれの思惑

『……上……兄上……』


 ……誰か、僕を呼んでいるのか?


『大丈夫ですか、兄上』

『だから言ったではないか。お前は貧弱なのだから、無理をするな』

『アイゼン兄様、言い方!』


 アイゼン……どこか懐かしい名前だ……それに今の女の声は……


『でも、アイゼン兄様の言う通り、無理はなさらないでください。私が癒しをかけますから、ひとまず体を休めて……』

『そうですよ、イザーク兄上。ここは私に任せてください。アイゼン兄上の連勝は私が止めて見せます』

『お?言ったな、ウルガー。分かった、ならば手加減は無しだ』


 ……そうだ。僕は体が弱い。だからいつも弟や妹にも心配をかけて……

 ……弟?妹?

 ……僕は……そうだ、僕はオルリックの……


『違う。オルリックは敵だ』


 ……今度は誰の声だ……


『オルリックに復讐するのだ』


 ……違う、この声は……これは僕の……私の声だ……


『私を裏切ったオルリックに……オルリック王家に復讐するのだ』


 ……そうだ……私は王家に……復讐を……



「……様、イザーク様!」


 耳元で聞こえる声でイザークは目覚めた。


 開いた目に飛び込んできたものは、寝室の天蓋と、心配そうな顔で覗き込む秘書官だった。


 カナート王国の王城にある国王の寝室で、イザークはいつもより少し早い時間に起きた。いや、起こされた。

 イザークを起こしたのは、同衾していた国王付き首席秘書官のグレースだ。


「……グレース、どうした」

「いえ、その、イザーク様がうなされておりましたので……」

「そうか……どうも眠りが浅かったようだ。すまないが、水をもらえるか」


 グレーズは頷いてベッドから抜け出すと、全裸のままで水差しを取りに向かった。


「眠りが浅い、か……」


 イザークは小さく呟き、微笑を浮かべた。


 グレースから水をもらったイザークは、ガウンを羽織ってバルコニーに出た。

 朝、目が覚めたら城のバルコニーからカナートの城下町を眺めるのが、イザークの日課だ。


 グレースも追従し、ガウンを羽織ってバルコニーにやってくる。


「陛下、ご気分はいかがですか」

「問題ない。心配かけたようだな。すまなかった」

「いえ、もったいないお言葉です」

「久しぶりだったせいかもしれないな」

「陛下、お戯れを……」


 グレースが夜伽を再開したのは昨夜からだ。

 グレースはミトラの誘拐作戦の最中に蜂に刺され、アナフィラキシーショックによる体調不良を起こしていた。

 そのため、体調が完全回復するまで、床を別にしていたのだ。


 本気とも冗談とも分からないイザークの言葉に頬を赤らめたグレースだったが、続く言葉で現実に引き戻された。


「アスラ連合が攻められているそうだな」


 グレースは畏まり、頭の中を情婦モードから仕事モードに切り替える。


「はい。オルリックの少数部隊に翻弄されているようです。内通者からの情報によると、例のケイと言う男と……その仲間が暗躍しているようです」


 グレースは一瞬、言葉を詰まらせた。

 本来言おうとしていた言葉を直前で変更したためだ。


「ケイの仲間……サルバティエラ王女と、ミトラだな」


 しかしグレースが逡巡したその言葉は、イザークに代弁された。

 ミトラの誘拐に失敗したグレースは、ミトラの名を自分の口から言うことに躊躇いを覚えたのだ。


「はい……サルバティエラ王女に関しては、本当に本人かどうかは分かりませんが……」

「ガーランの言う通り、生きていると考えるべきだろうな。王女の治癒能力は、少数での長期戦に向いている」

「なるほど……」


 ガーランは元オルリック王立研究所所長だが、イザークと共謀してカナート王国に赴き、過去の身分を隠したまま、カナート王国の研究所所長の役職に就いている。


 なお、ガーランはオルリック王立研究所爆破事件の真犯人だが、爆破の直前にケイとサリーに遭遇しており、その時にサリーの正体に気付いたのだ。


「今度こそ王女も排除せねばなるまいが……重視すべきはやはりミトラか……」


 イザークの言葉に、グレースの体がピクリと動いた。


「現状を打破するためには、例の巨大魔硝石の力が必要だろう。そのためにも、ミトラの魔硝石の力を吸い出す能力が必要だ」

「はっ……」


 カナート王国は、北側に接しているオルリック王国に攻撃を仕掛けている。


 当初はカナート軍が優勢だったが、元々の戦力差と、オルリック軍の戦術、そしてアスラ連合との連携不足によって、戦況は停滞気味となっていた。


 オルリック軍がとっている戦術は、遠距離攻撃を中心とした、防御一辺倒の戦い方である。


 これは、鉄壁と称されたアイゼン第一王子をも負傷させたカナート軍の攻撃を警戒してのことだったが、その結果、カナート軍は攻めきれず、消耗戦に陥ってしまっていた。


 加えて、ケイの蠢動によって、アスラ連合はオルリックへの侵攻を停止している。

 カナートとアスラの同時侵攻によってオルリックに打撃を与えるはずが、片手落ちになっているのだ。


 この状況を打破するためにも、ユスティールで手に入れた巨大魔硝石の力が必要だとイザークは考えている。


 しかし現在のところ、巨大魔硝石の力を引き出すことができていない。


 イザークはグレースに向き直って言った。


「アスラ連合とオルリック軍、いや、ケイとの戦いに介入する。ケイを排除すれば、アスラ連合は再びオルリックへの侵攻を開始できるだろう。そのついでにミトラも手に入れるとしよう」

「はい」

「先日王都に戻ってきた白耀騎の部隊があったな。あれを派遣せよ」

「は……」


 イザークの言う部隊には、かつてミトラの誘拐作戦でグレースと行動を共にしたパトラが含まれている。


 パトラは、作戦失敗の責任を一人で負い、ガーランの人体実験の被験者となっていた。

 そして、その人体実験を指示したのがイザークであることをグレースは知っている。


 もしも人体実験に失敗していれば、パトラは命を落としていたかもしれない。

 少なくとも今は健康体に見えるが、もしかしたら今後、副作用が無いとも限らない。


 実際、今のパトラは戦闘力が向上した代わりに、グレースのことをすっかり忘れてしまい、まるで意思を持たない戦闘機械のようになってしまった。


 何故パトラをそんな目に遭わせたのか、グレースはイザークに聞きたかった。

 

しかし、未だにそのことをイザークに聞けていない。

 ミトラにとってイザークは、心から忠誠を誓っている主人であり、恩人でもあり、一人の男としても意識している。イザークの命令は絶対であり、疑うなどありえないことだった。


 一方、パトラはグレースにとって単なる部下の一人であり、気にかける存在ではないはずだ。


 なによりイザークは、ミトラの誘拐失敗に関してグレースを一切責めなかった。

 であれば尚更、グレースがこの件について言及できるはずもなかった。


『だって友達だろ?』


 あの時のパトラの言葉は、今でもグレースの心を疼かせる。

 しかし、グレースの口から出たのは、承諾の一言だけだった。


「すぐに手配いたします」


 グレースはうつむきがちに返事をして、バルコニーから部屋に戻った。


 服を着始めたグレースを見ながら、イザークは顎に手をやった。


「ふむ……わたしも動くとしようか」


 その独り言は、グレースの耳には届かなかった。



 アスラ連合評議会議員のレオが、ケイを討つと宣言してから数日後。

 また一つアスラ連合の軍事拠点が襲撃され、陥落した。


 最高評議会の拠点であるニーベルン城では、連日、評議員による閣議が行われていた。


 数日と空けずもたらされる自領襲撃に対処するため、主たる評議会メンバーは自領に戻らず、ニーベルン城に逗留し続けていた。


「レオは一体何をやっているのだ。まだ何も行動を起こしていないではないか」

「おそらく、魔動武器の準備をしているのでしょう」

「魔動武器ね……そんなもの、本当に使えるのかね」

「カナート王国では実際に実戦投入している。我々もその恩恵に与ったではないか」

「恩恵か……負けた腹いせに撒いてきただけではないか」


 皮肉な発言をした評議員の言う通り、アスラ軍は魔動武器を使用した実績がある。


 アスラ軍は、一度はユスティールを陥としたものの、オルリック軍の策略によって敗走する羽目となった。

 その際、町の至る所に、衝撃で爆発する魔動武器を仕掛けたのだ。


 なお、その魔動武器は、ユスティール侵攻時にカナートから派遣されたグレースの部隊が持ち込んだものを、そのまま譲り受けたものだ。


 しかし、アスラ軍は馴染みのない魔動武器に気味悪さを感じていたため、捨て置くつもりでユスティールに仕掛けていったのだが、そのせいでケイ達から余計な怒りを買ってしまったのは皮肉な話である。


「とにかく、早急に次の対策を……」

「よお、待たせたなあ」


 そこに、会議室の扉を開けてレオが現れた。


「いやあ、疲れた疲れた。おっと、戦う前から疲れてちゃ世話ねえな」


 レオは空席にドカッと座り、気だるそうに上半身を伸ばした。

 そんなレオの様子にいらだちを覚えた評議会議長が口を開く。


「レオ……お前がのんびりしている間に、またケイが攻撃を……」

「分かってるって。拠点の一つや二つで慌てなさんな。俺だって別に遊んでたわけじゃねえよ。言ったろ、準備ができたってよ」


 するとレオは身を乗り出し、テーブルに広げられていた地図の一箇所を指差した。

 場所はアスラ連合の西南方面で、ニーベルンの城からはやや距離がある。そしてそこには「ハーボック砦」と小さく書かれていた。


「このバーボック砦を俺にくれ。奴は必ず、この砦に来る」

「その根拠はなんだ?」


 そう問われたレオは、地図に印と線をつけ始めた。

 印は啓が攻撃した砦や軍事基地、そして領主の城だ。そしてその印の付近を繋げるように、ぐるっと螺旋を描く。


 対数螺旋のような渦巻きを描き終えたレオは、頭を上げて評議員達を見た。


「これが奴の行動線だ……中心には何があると思う?」

「まさか……」


 渦巻きの中心にあるのは、ニーベルンの城だった。

 レオ以外の評議員達がどよめき始める。


「ケイは最終的に、この城にやってくるというのか!?」

「ケイは周囲で騒ぎを起こしながら、いずれアスラの拠点を陥としにかかる。おそらく奴の狙いは最高評議会を潰すことなんだろうぜ」

「馬鹿な……」


 ニーベルンの城はアスラ連合の中枢だけに、軍の兵数も、防衛力も格段に堅い。少人数で陥とすなど、正気の沙汰ではない。


 とはいえ、ケイは少人数で難攻不落と言われた領地の城を焼き討ちにしたり、襲撃に備えて警戒を強めていた砦をあっさり陥落させたりしている。


 何より腹ただしいのは、ケイの一行は標的を陥落させた後、その場所を放棄して次の軍事拠点や領地を襲撃していることだ。

 そのため、領地や拠点を奪い取られはしないが、結果的にはアスラ連合の損害だけが増えているという状況だった。


 議長はそんなことを考えながら、再び地図に目を落とした。そしてふと気づいた。


「レオよ。お前が欲しいと行った砦の手前にはターチオンがある。ターチオンはお前の書いた線の上にある領地だ。守るならば、先にターチオンではないのか?」


 議長の言う通り、レオの引いた線上にはターチオン領がある。領地の大部分は農耕地帯で、都市部はそれほど大きくはないが、立派な領主の城もあり、領地を守るための軍隊も駐留している。


 しかし、レオは首を振った。


「ん?ああ、心配いらねえ。ケイはおそらく、ターチオンを襲うことはない」

「……何故、そんなことが分かるのだ?」

「分かるんだよ。いや、むしろ分かりやすいだろ。すでにケイが通過した線上をよく見てみろよ。この領地も……ここの領地も襲われてねえだろ?だから、ターチオンも襲われねえんだよ」

「……」


 レオの主張を理解できない評議員達は、首を傾げる他無かった。



 ターチオン領のはずれにある農村で農業を営む老夫婦は、ある日、奇妙な建造物を見つけた。


「おい、あんなところに建屋なんてあったか?」

「さあ、どうだったかしら?」


 遠目で見える距離ではあるが、確かに見覚えのない平屋の建物がある。


「家?いや、倉庫かな?」

「軍人さんが建てたのでしょうかねえ?」

「ふむ……そうかもしれんな。なにしろ最近物騒だからな。あちこちの領地が襲われているって話だ」

「この領地は大丈夫かしらねえ?」

「もしもウチの領主様に危害を企てる輩が現れたら、儂の鍬の錆にしてくれるわ!」

「はいはい。でももう歳なんですから、無理せず領主様にお任せしましょうね」


 興奮する夫を宥め、老夫婦は再び農作業に戻った。



 老夫婦が眺めていたその建屋の中には、6人の人間と、23匹の小動物、3羽の鳥、そして4匹の虫がいた。


 ちなみに動物達の内訳は、猫22匹、セジロスカンク1匹、オオハチドリ1羽、ハシボソガラス1羽、オオコノハズク1羽、モンスズメバチ4匹である。


 人間達と動物達は建屋内の一室に集まり、ターチオン領に関する話し合いをしていた。


「調査の結果、ターチオンの領主に後ろ暗いところはないし、民にも信頼されているようだよ」

「統治も行き届いております。とても良い領地だと思いました」

「というわけで、ターチオン領は素通りで良いと思います。いかがでしょうか、オーナー」


 ヘイストとアーシャとシャトンとの調査報告を聞いた啓は、大きく頷いた。


 ちなみにヘイストはバルダーの修理や改造を行うメカニック担当、アーシャはサリーの護衛として(強引に)付いてきた正規の軍人である。

 今回はこの二人にシャトンを加えて、ターチオン領の調査に向かってもらっていた。


「オレもシャトンの意見に賛成だ。ミトラとサリーはどうかな?」

「異議なし!」

「私も賛成だ」


 アスラ連合国の各地で騒動を起こしている啓一行だが、一応、大雑把なルールは定めていた。

 それは、「民衆への被害は最小限に」、「軍事拠点は攻撃してよし」、「領主の城など、領地の最大拠点に攻撃を仕掛ける場合、まずは調査を行ってから攻撃するかどうかを決めること」の三点だ。


 宣戦布告をしたとは言え、啓は無差別攻撃で民衆を殺めるような行為をするつもりはなかった。同様に、善政を行っている領地を攻撃して、結果的に民衆を苦しめるのも避けたいと考えた。


 そこで啓達は領地を攻める場合、まず最初に領地の偵察を行い、領主の評判を聞いたり、町の様子を探って、攻撃するかどうかを決めていた。

 偵察の結果、悪徳領主によって民衆が苦しんでいるような場合は、領主の城を攻撃するのだ。

逆に、領主が公明正大で良い統治を行っている領地の場合は、攻撃を仕掛けること無くスルーして進むのだ。


 なお、砦や軍事基地などの軍事拠点については、お互いに命のやり取りの覚悟ができているものとして、遠慮なく攻撃を仕掛けている。それでも無用な殺生は極力控えているが。


 偽善的と言われればその通りだが、せめて納得の行く理由を見つけて戦いたいと思う啓だった。


 そしてその思惑は、レオに完全に読まれていた。

 レオの読み通り、啓達は平和なターチオン領を素通りすることに決めた。


「ではみんな、トータス号の発進準備に取り掛かってくれ。ミトラも準備はいいか?」

「もちろん!」

「準備が出来次第出発しよう。バル子、コノハ、おいで」

「承知しました、ご主人」

「ポッ!」


 皆がそれぞれの持ち場に向かう中、啓とミトラはトータス号の運転席へと向かった。

 ちなみに運転席は、たった今会議を行っていた隣の部屋である。


 トータス号、それは、この建屋そのものだった。


 啓はユスティールを出立する前に、全員のバルダーを運ぶための輸送手段を用意したいと考えていた。

 バルダーを持っているのは啓、サリー、ミトラ、アーシャである。

 啓は輸送用のキャリアを、サリーとアーシャも輸送車を持っているが、ミトラは持っていない。


 ミトラのバルダー用の輸送車を用意して、各々が運転をしても良かったのだが、それでは効率が悪いし、行軍中に分断されて離れ離れになる恐れもある。


 ならば一度にすべてのバルダーを運ぶ手段はないかと考えた末に、ガドウェル工房とロッタリー工房による協力の元、考案されたのが「倉庫を自走車に改造して、丸ごと運べるようにする」というとんでもない代物だった。


 かくして、床面を強化して、バルダー数機を乗せて走っても壊れないようにした倉庫に、安定して走行できるように大量の車輪を付けた「倉庫型自走車」が完成した。


 なお、この「倉庫型自走車」にトータス号という名前をつけたのはもちろん啓である。


 啓は車輪を付けた倉庫の見た目を、亀みたいだと思った。

 そこで、海亀を指すタートル、主に陸亀を表すトータスのどちらが良いかで、皆にアンケートを取った。

 その結果、「倉庫型自走車」の名前はトータス号に決まったのだった。


 なお余談だが、「ご主人は天然のジゴロですし、名前をタートル号にして、片腕に銃を仕込むのも良いのでは」という バル子の意見は、誰にも理解されずにスルーされている。


 しかし、これほど大きな自走車を作っても、様々な問題点がつきまとうのが普通である。


 まずは出力の問題だ。いくら魔動連結器で出力を増加したとしても、普通の人間では満足に動かすことはできない。


 しかしその問題は、啓の能力の暴力で概ね解決した。

 一人で数人分の出力を生み出せる啓は、この倉庫型自走車をあっさりと動かしてみせたのだ。


 さらにこの自走型倉庫には、魔動連結器が6台連結されている。これによって、啓が一人で負担することなく、サリーやミトラをはじめとしたメンバー全員の力を借りて走らせることもできるようにした。


 動力の問題は解決できても、今度は大きさの問題がある。

 大きな倉庫をずっと走らせていけるような道幅の街道ばかりではない。当然町の中などには入れないし、山道など論外だ。


 その問題を解決したのはミトラの能力だった。

 ミトラの飛行能力で倉庫を飛ばし、走行の難しい難所をパスするのだ。


 重量級の倉庫なのでミトラ一人では大変だが、これも魔動連結器を介した啓達のサポートによって、短時間の飛行を可能にしたのだった。


 こうして移動に関しての問題点は解決できたが、最後に最も大きな問題点がある。

 その問題とは、無論、「目立ちすぎる」ことだった。


 倉庫が道を爆走したり、ましてや空を飛んできたら、誰でも驚くに決まっている。

 今現在、この世界では人が乗れるような飛行機械は存在していないのだ。


 おまけに啓達はゲリラ戦主体でアスラ連合に戦いを挑んでいるのである。敵に発見されるような目立つ行動は自殺行為なのだ。


 しかしこの問題も、啓はあっさりと解決していた。


「コノハ、頼んだ」

「ポウッ」


 啓の肩に乗ったオオコノハズクのコノハが能力を開放する。

 コノハの能力は姿を消すこと。

 啓を介して魔動連結器に伝播されたコノハの能力は、そのままトータス号に行き渡り、すぐにトータス号全体が周囲から見えなくなった。


「よし。ミトラ、飛ばしてくれ」

「はいよっ!」


 VTOLのように、トータス号がゆっくりと垂直に離陸していく。

 もちろん、その姿は周囲から見えない。


 これこそが、啓達がゲリラ戦術を成功させてきた理由である。


 ステルス飛行によってアスラ連合内を移動し、着陸後は倉庫を装って準備を整える。

 そして猫のドローン部隊と連携して一気に攻撃目標を叩き、攻撃完了後は再びタートル号のステルス飛行で速やかに戦場を離脱するのだ。 


 南西方面に進路を取り、トータス号が飛行を開始した。


「目標……バーボック砦!」


 いつもどおりの砦攻略と考えている啓達は、ハーボック砦でレオが手ぐすねを引いて待っていることなど、当然知る由もなかった。


カナートの介入、レオの読み、啓達の作戦行動が繋がっていきます。

次回、ハーボック砦の戦いです。


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よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 少数と油断でもしてくれりゃ良かったんですが、そう上手くは行かないか…。此方の思考パターンを読まれてるというのも更に厄介ですね。 それでは今日はこの辺りで失礼致します。
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