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112 頭の痛い評議会

 アスラ連合評議会。

 それはアスラ連合の内政・外政における最高責任機関である。


 アスラ連合は元々幾つもの小国だった。

 かつては小国間での戦争や小競り合いが絶えなかったが、ある時、一国の王が連合化を提案した。


 長期に渡る戦いに疲弊していた各国はこの意見に賛同した。

 各国は自治領となり、元国王やそれに準ずる代表者が領主となった。

 そして自治領の代表者は評議会議員となり、アスラ連合の国政に参加するのだ。


 こうしてアスラ連合は誕生した。


 なお、評議会議員達が会合のために集まる場所は、アスラ連合国のほぼ中央に位置するニーベルン城である。


 ニーベルン城は、元々はニーベルンという名の小国の王城だったが、アスラ連合の建国と同時に国を解体し、城以外を隣接する領地へ併合した。


 これは連合化の発起人の一人であるニーベルンの国王が提案したもので、自分が私利私欲で周囲の国を吸収して大国にするという野心が無いことを周知するための措置でもあった。


 そして、ニーベルンの国王は退位し、どこの領地にも属さないニーベルン城を評議会本部として提供したのだった。


 その評議会本部では、マーカンド砦が陥落したことに関する対応措置を検討するため、緊急閣議が行われていた。


 急な開催になったため、閣議に出席できない者もいたが、出席人数が評議会議員半数を超えていたため、閣議は開催された。


「砦が落とされたことは事実だが、その後、オルリック軍の動きは確認されていない。大方、オルリック軍内の跳ね上がり者が勝手にやったのではないか?」

「ならば、抗議文書でも送るかね?」

「こちらが宣戦布告をしているのにか?そんなことをすればいい笑いものにされるぞ」

「いずれにしろ、砦が陥とされたことは看過できぬ。至急、軍を差し向けて取り返すべきだ」


 マーカンド砦を奪還することについては、出席者全員の同意が得られた。

 砦を落とされたまま何もしないとすれば、軍部やアスラ連合の国民達、ひいては同盟国であるカナート王国からも非難の声が上がるだろう。


 なにより、少人数で自国の砦を落とされたという事実は、評議会メンバーの矜持を傷つけていた。


 評議会は軍部に指示し、部隊をマーカンド砦へと向かわせた。



 数日後、評議会本部にもたらされたマーカンド砦奪還の報告は、拍子抜けのものだった。


 評議会に報告しに来たのは、砦攻略部隊の部隊長だ。

 部隊長は砦の奪還に成功したことを告げたが、部隊長はその手柄を誇るどころか、表情を曇らせていた。


「砦はもぬけの殻だっただと?」

「はい……誰もおりませんでした。砦の門は閉ざされておりましたが、中には一人も……」

「一体どういうことだ……まあ、無用な血を流さずに取り返せたのであれば、それに越したことはないが……どうした?他に何かあるのか?」


 発言を促された部隊長は、言いにくそうに答えた。


「砦は無人だったのですが、その……とてつもなく臭くてですね……」

「毒を撒かれたのか?」

「いえ……でも、体調を悪くする程度にはひどい臭いなので、ある意味毒とも言えますが。その臭いを嗅いだことのある部下の話によると、その臭いはグレース臭と言われているようです」

「グレース臭?」


 評議会の面々は互いに顔を見合わせた。グレース臭というものは知らないが、グレースという名前には覚えがあったからだ。

 そしてその想像は、当たらずといえども遠からず、というものだった。


「以前、カナート王国から派遣されたグレース殿が、その臭いによる攻撃を受け、しばらくの間、悪臭を撒き散らしたことから、誰かがそう命名したらしいのですが……」

「グレース殿には気の毒な話だな……」


 元々、グレースはアスラ連合国の一領主だった人物だ。カナート王国との同盟を進言し、同盟を成立させた中心人物でもある。

 そして同盟関係の証として、カナート王国に半ば人質のように自ら身を寄せたのである。


 実際、それがすべて筋書き通りのものであったことを知る者はこの場にいないが。


「そんなわけで、砦は取り返しましたが、あまりにひどい臭いなので、誰が駐留するかで少々揉めました。なお、グレ……いえ、悪臭の除去にはかなりの時間と労力がかかると思われます」

「小賢しい真似を……」


 なにはともあれ、砦を奪還できたことで溜飲を下げた評議会の面々は、部隊長の苦労……どちらかと言えば気苦労をねぎらった。


 そして部隊長を下がらせようとした時、新たな報告がもたらされた。


 それは、ハインツ領急襲の報だった。



 マーカンド砦から南東方面にあるハインツ領は、アスラ連合国内の領地の中で五番目に広い領地だ。


 元々はハインツ王国だったが、アスラ連合国の成立によって帰属し、ハインツ領となった。


 そのハインツ領は、王国時代は「城塞都市国家」とも呼ばれていた。

 名前の通り、周囲を高い外壁に囲まれた大都市と、その中心にある小高い丘の上に建つ領主の城が特徴だ。


 もしもこの城を攻略しようとした場合、まず外壁にある外門を突破し、国民を巻き込んだ市街戦を繰り広げながら市街地を超え、城の周りの堅固な防御陣を食い破ってハインツ城に辿り着かなければならない。


 そのため、ハインツ城は連合化前の戦乱時代から難攻不落と言われてきた。


しかし今、そのハインツ城は大火に見舞われ、今にも燃え落ちようとしている。


 城の兵士や使用人達は消化を諦め、押し寄せる炎から逃げ惑い、避難を始めていた。


 そんな燃えさかる城の中庭で、青白いカラーリングをした、細身で長身のバルダーが涼し気に立っている。

 啓のバルバロッサだ。


 もしもこの炎の中で、冷静に足を止めてバルバロッサを見ることができる人間がいれば、そのバルダーが半透明の壁で全身を覆っていることに気がついたかもしれない。

 

 しかし残念ながら、ハインツ城の領主は冷静では無かった。


『貴様ァ!我が城になんということを……絶対に許さぬ!』


 ハインツ領の領主は逃げず、自身専用のバルダーに乗って中庭にやってきた。自分の城をめちゃくちゃにしたバルダーに復讐するために。


 拡声器で怒鳴り散らす領主に、青白いバルダー……バルバロッサに搭乗している啓は、やれやれと溜息を吐いた。


「そのまま逃げてくれればよかったのに。一応、領主としての役目を果たす気概があるのかな」

「いえ。ご自分の財産が焼失したことに腹を立てているのだと思いますよ、ご主人」

「バル子もなかなか辛辣なことを言うね」

「城下町で集めた情報通りの領主ならば、間違いないですよ」


 領主の叫ふ内容が、金と賠償と口汚い罵りだけになったあたりで、啓も情報通りだと理解した。


 啓達はこのハインツ領を襲撃するかどうか、一応下調べをしていた。

 もしも治安が良く、平和に統治が行き届いているようならば、ハインツは素通りして、近隣の軍事施設にでも向かうつもりだった。


 しかし町に潜入して調査をした所、現在の領主はとんでもない人間だった。


 無駄に高いだけの税金、税金を払えないものは追放または投獄、刃向かう市民は即逮捕、酷い場合はその場で死刑など、権力を翳した金の亡者だったのだ。


 だから啓達は、この町の領主の城を攻撃することに決めた。

 別に正義の味方や、勧善懲悪のヒーローぶるつもりはない。

 ただそこに、倒してもかまわなそうな、都合の良い敵がいただけのことだった。


 もちろん城下町には被害が及ばないよう、例によって「上空から」直接城を攻撃した。

 

 猫のドローン部隊による爆撃後、啓はミトラにバルバロッサごと運んでもらって城内に降り立ち、そこらじゅうに火をかけて回ったのだ。


 そして、それなりの戦果が出たところで離脱するつもりだったのだが、目の前に領主が現れてしまったというわけだ。


 相変わらず拡声器でがなり続けているが、若干元気がなくなってきている。おそらく周囲の熱による暑さで、かなりしんどいのだろう。


 一方、啓は熱を遮断するために、バルバロッサの周囲を魔力の盾で覆っている。

 無論、いずれ酸素が足りなくなるので長居はできないが、炎に関しては完全に防いでいた。


「仕方ない。やるとするか」

「はい。きっと領民も喜びますよ」


 30秒後、バルバロッサの足下には、原型の分からないバルダーの残骸が転がっていた。



 ハインツ城が落ちたという報告と、その実行犯がマーカンド砦を落とした「ケイ」という人物と同じであると報告を受けた評議会議員達は、しばしの間、言葉を失った。


 やがて、議長が声を振り絞って聞いた。


「……それで、被害はどれほどだ?」

「はい、領主とその側近の数名が死亡、ハインツ城は多少焼け残っておりますが、再建には時間がかかるでしょう」


 もしもハインツの領主がこの臨時評議会に参加していれば、少なくとも死は免れたかもしれない。


 しかし、ハインツの領主が国政に興味を持たず、なかなか議会に参加しないことや、私利私欲を満たすことばかりを考えているということは、他の評議会議員もよく知っていることだった。


 死んだ方が良い、とはさすがに口には出さないが、あまり良い領主でなかったことは周知の事実だった。


「領主のことはどうでも……いや、領主が亡くなったのは残念だが、領民の被害はどうなのだ。ハインツ領は城塞都市だ。城を落とすために、多大な犠牲が出ただろうよ」

「いえ、それが……領民の被害は報告されていません」

「は?」

「ですから、領民に被害は無い模様です。城だけ落とされたようでして……あ、城が落ちたことで領民達がお祭り騒ぎを始め、浮かれすぎて怪我をしたという情報なら……」

「……もう良い。後で詳しい報告をまとめてくれたまえ」

「はい」


 部下を下がらせた議長は、頭を抱えた。


「……まさか、ケイという男は、本気で、一人で戦争をする気なのか?」

「何人かの仲間もいるようですが……ですが、そんなの無理に決まっていますよ。マーカンド砦は突然の急襲に油断しただけでしょう。ハインツ領は領主にいささか問題がありましたので、その隙を突いての攻撃だったのではと……」


 隣に座っていた評議会議員が、議長のつぶやきに答えた。

 しかし議長には、それがただの気休めにしか聞こえなかった。


「とにかく、全領地に警戒を強めるよう連絡を。それから……レオに至急、評議会に来るように言ってくれ」

「レオ、ですか?」

「奴は戦いたがっているだろう?ならば、やりたい奴にやらせてみるのが一番ではないか?」

「なるほど…‥しかしレオに任せる前に、ケイとやらを倒してしまうかもしれませんがね。初めから来ると分かってしっかり警戒をしていれば、たかがバルダー数機、叩き潰すのは造作もないでしょう」

「そうだといいのだがな……私には、嫌な予感しかしないのだよ……」



 議長の悪い予感は当たり、それから3箇所の軍事拠点と、2箇所の領主の城が潰されたのだった。


 評議会の面々は、ただただ頭を抱えるしかなかった。



 それから数日後の臨時議会に、ようやくレオが姿を現した。

 レオも評議会議員の一人なので、普通に召集をかけているのだが、最近は全く連絡がつかずにいたのだ。


「レオ、遅かったではないか!一体何を……」

「悪い悪い、俺も色々と準備があってよ」

「準備だと?」

「ああ。そのケイとかいう奴と戦うための、な」


 するとレオは、懐から短い杖を取り出した。

 杖の先端には、魔硝石が嵌っている。


「その棒っきれが準備なのかね?」

「おっさん達は見たことないのかい?まあ無理もないか。かなり昔に廃れた技術だし、今は作れる奴もほとんどいないだろうな」


 そう言うとレオは杖を振った。

 すると、杖の先から炎が噴き出し、評議会議員達に迫った。


「うわわっ!」

「な、なんだそれは!?」

「危ない!やめんか!」


 身を捩らせて炎を避ける評議会議員達。

 レオは会心の笑みを浮かべ、炎を消した。


「……レオ、お前のそれは、もしかして魔動武器、というものではないのか?」

「お、さすがは議長。よくご存知で」

「だが、そんな棒っきれ一本では……」

「誰がこれしかねえって言ったよ。まだあんだよ。もっとえげつないものがな」


 レオは杖の先端で手のひらにポンポンと叩いた。


「この魔動武器を使って、あのケイって奴を潰してやる。俺に任せときな」


啓達が蠢動する中、アスラ連合のレオも動き出します。

次は簡単にはいきません(笑)


風邪、納期、そして出張と、実に盛りだくさんでなかなか投稿できませんでしたorz

でも負けません。納期にも風邪にも!


レビュー、ブックマーク、評価、誤字指摘などいただけると大変励みになります。

よろしくお願いいたしますm(_ _)m

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