正体を認めたくない
お読み頂き有難う御座います。
ニノンの思考回路はグチャグチャです。
「け、結局何をやらせたいんですか!? 私は、無害な雑貨屋の娘で一般市民なんですが!?」
「えー? ザッカリーさんって腕っぷし強いじゃないですかー。売掛金回収、完璧なんでしょー?
それにちょっとした守護者ですよー。簡単簡単!」
「ちょっとした守護者とは!? 全然ちょっとしてなさそうだし、それはそもそも何!? どういう業務!?」
て言うか、売掛金を100%回収するのは当然でしょ!
ああ! この前まで何かおもしれー事起こらないかなー、とか考えてた私のスーパーミラクルスカスカ大馬鹿考えなし野郎!!
そんな戯けた事を考えるから、店は光るわ、井戸は光るわ、戸棚は光るわしたのよ!!
何なのよ、このミラクル意味不明出来事!
イケメンに出会いたいとかどうでも良かった! 思考回路がスパーキングでショートしまくりよ! いっそ断線したい!
「私が恋愛するのを助けて欲しいんですよー」
「恋愛小説でも読んで学んでくれません!?」
彼氏いない歴を更新し続ける私に聞くなと叫びたいけど、そんな可愛くないプライベートは晒したくない!
何なら、過去に彼氏バカスカ居て其処らでモテモテさをアピール……いえ、それもね。うーん、どう思われたいのかイメージが固まってないな。飾らない私が仇になってるかも。
「そんな机上の空論は効かないんですよー」
こっちは飾らないどころか、夢が無いな!
「い、いえ、本の登場人物に惚れるケースも多々有るよ! いえ有りますよ!」
くそう! 敬語じゃなきゃ駄目でしょうに、ウッカリタメ口が出るな!
それに本の登場人物は素敵なのよ!? 例えば、最近発売した『愛★令息モテヤン』に出てくるサブキャラのエモノ王子! 机上の空論超えて庇護心を生まれさせて擽るイケメンだから! 最近挿絵版が出たけどそれは見なかったことにしたけど! だって、金髪設定なのに黒ベタ髪だったわ! 後、優しい眼差しって書いてたのに吊り目は許さん! 解釈違いと盛り下がったのよ!!
「本は役には立ちますよー。コイツ口だけ野郎だなって思わせる為に偽装するにはね。サンプルとして向きますけどねー」
「……ぎ、偽装……?」
え、何だって? 本に怒ってる場合じゃない。何を言ったの、この聖女を騙……る? 警備騎士! サンプルとして!? え、あのおかしな行動って、仕込みだったの!?
「ええー。黒い格好で変な文言唱えて彷徨いとけば、コイツ無害で口だけだなーってなるでしょうー? 皆生暖かくそういう目で見てましたしー」
うっ!!
た、確かに……。私もそういう目で見ちゃったけど……。
はっ! もしかして……野次馬してたから、恨まれてる!?
「あの、結構前から私の事とか認識……してます?」
「よく神殿前広場に来てる娘さんのひとりとは認識してましたー。お名前もお住まいもー、屋台のおばさんとお話してましたよねー」
狭い町中での密接なお付き合い……! 個人情報の守られなさが、仇に!!
雑貨屋のニノンちゃんって結構呼ばれとるじゃない、私ったら!
「うう……」
「観念しましたー? 足搔いても無駄ですよー」
優しげに言わないで欲しいわ……。
そもそも、何で恋愛なんか……。
「あの……第五王子とやらが来たんですよね? 許嫁として。そっちと恋愛する空気にはならなかったんですか」
「あんなスカに組み敷かれる未来なんて可哀想でしょうー?」
「……まあ、そうですね」
確かに、見知らぬ店の見知らぬ店員に絡む奴はカスだわ。それに、聖女様を貶したんだったわね。許せないな。
「あの人、聖女様を貶しましたもんね……」
「呪われるとかそんなんですか? そうですね。呪いなんて無理ですよー」
「ですよね……」
「呪えるなんて素敵な能力あるなら、全身ゴールドにしてやったんですが」
「慈悲も無い!?」
「あれれー? 変な事言いますねー? 私を見てたんでしょー?」
「え」
「呪いの言葉ばっかり吐いてるのに、無害だーって。そーゆー系感想、述べてましたよねー?」
やはり、私ったら恨まれてるのでは。
……と言うか……ルブラさんてば聖女様御本人に確定じゃん。だって、神殿の縄張りのあの場に警備騎士は居ないのよ。半径何メートルとかは決まってないけど治外法権的というか……。
「あの、何をすれば宜しいのですか聖女様……」
「素直に信じる心は美しいですねー。ジェントさんで結構ですよー」
……うう、不安だ……。
意外と、ヒソヒソ話は聞こえているものなのです。