突然の任命
お読み頂き有難う御座います。町はザワついてますね。
うーん……。
3日経つけど、聖女様は見つからないみたいね。
「聖女様ー!! 早く出てきてくださいー! 皆さんに怒られますよー!!」
他力本願な神官が煩く走り回ってるのも、誰もが見慣れてきたわ。
て言うか皆さんって誰よ! 自分で怒りなさいよね! と町民達の中で評判よ。実際叱り倒した人も居るけどね。それでも止めないなんて、懲りない奴らよね。
「いやー、助かりましたよー。ザッカリーさん」
「いや、いいよ。アンタも苦労してんだね。えーと、名前何だっけ」
「ジェントです。ジェント・ルブラですー」
へー、そんな名前だったのね。
間延び語尾警備騎士の……ルブラさんに、ウチの叔父さんの家を貸すことになったの。結構顔合わせてる気もするけど、知らなかったわ。
父さんの弟である叔父さんは隣国に商売に行ったっきり、戻ってこないのよねえ。
「叔父さんにご加護が有るといいんだけど」
「有るといいですねー。助かりましたしー」
き、気の抜ける人ね。
母さんがご近所に配達に行ったから、ルブラさんとふたりになってしまったわ。
仕事は良いのかしら。それに、メタリック井戸の件も未だ解決しないし。
「でも、あの井戸どうなるのかしら……。この前、掃除に降りてみたら、横穴が空いてたのよ」
底掃除しないとね……。光ろうが蓋しようが砂は何故に溜まるのかしら。どうせ光ってミラクルチェンジするなら、メンテナンス不要のスーパー便利井戸になって欲しかったわ。
「危ないですよー」
「しかもちょっと広めだったから、人とか通れそうなサイズでね」
「好奇心は怪我しますよー」
「あれ、辿ったらどうなるのかしら。聖女様って、よく売店の影から出てきてたけど……それ系の脱出口だったりして!」
……あれ? 何か変な雰囲気ね。
ルブラさんの顔、怖……く、ないかしら?
え、ウチの井戸を調べたんだから、別に良くない?
だって、真ん中の方よ? 水漏れしたら困るじゃない。ただでさえ光ってて怪しいのに、これ以上のトラブルは。
「潜ったんですか?」
「は? え、まさかー」
「ですよねー」
「だって、金色にビカビカ光る変なバリアーみたいなのが張っててね。残念! 途中までしか行けなかったわよ!」
流石、聖女神殿のある町よね! 意味不明な仕掛けをリアルで体感できるなんて! こんなおもしれー系の体験、中々スリリングだったわ!
「ニコニコで……行ったんじゃないですかー」
「いや、行ったってのは、最後に到着しないと」
「そのビカビカ光る変なバリアーが、最後の手前なんですよー」
「へー、そうな……」
え。
何、それ。
え?
ちょっと、待って。
何故に、そんな事を知ってるの。
「警備騎士と、神殿は……関わり、無いんじゃあ……」
「無いと見せかけて、裏で手を結んでいる……。定石ですよねー」
……この、薄い緑の瞳は……。
「聖女の守護者って知ってます?」
「聖女の? し? しご……私語者?
え、聖女……。聖女、様!?
ルブラさんって、聖女様の関係者なの!?」
「……ふふふ」
「ルブラさん、聖女様を匿ってるの……」
「まさか」
ニッコリその笑顔が……ヤバいな。とびきり胡散臭い……。犯罪に関わってそうで滅茶苦茶嫌だ……。関わってたら、バケツで殴って逃げても良いかな……。あ、その前に聖女様の居場所を聞いて助けなきゃ。
「聖女の名に於いて、貴女を守護者に任命しますね」
「ん?」
その時、背後の井戸がこれでもかと光ったらしいんだけど、驚きすぎて全く気付かなかった。
いや、何かその壁の辺がテカってるなとは思ったけど!
「え? え?」
「私、聖女本人です。バラせないですから、安心してくださいね」
「はあ!?」
「おい!? 雑貨屋が光りだしたぞ!?」
「何なんだ雑貨屋!?」
「え、あ、はああああ!?」
いや、どういう事!?
聖女!?
え、聖女!?
聖女って、聖女って……目の前のルブラさんって、滅茶苦茶男の人だけどおおおお!?
野次馬が押し寄せて、そ、それどころ……それどころじゃ、無かったのよ!!
井戸ダンジョンとかロマンですね。湿気てそうですが。