聖女への後悔
お読み頂き有難う御座います。
毎日更新出来る限り頑張ります。
「し、失踪……聖女様が、失踪……」
……流石のウチも、つい号外を買っちゃったわよ。因みに今回、隣の若奥さんは実家に帰ってしまってたから、若旦那さんが窶れてションボリしながら号外を買ってたわ。……切ない背中だったわね。そして若奥さん、行動がスピーディーでビックリよ……。
まあ、でも飲み歩きしてる旦那さんの方が悪いわね。仲直りグッズにお高い石鹸とかでも売り込もうかしら。なんてね。
で、号外だけど。買っても特に有益な情報は無かったわね……。それでもつい買ってしまった家、多いと思うわ。
恐らく、聖女様はご自身の身の上……観光資源にされてる上に閉じ込められてる境遇を嘆かれて……って書いてあったわ。
いや、滅茶苦茶御本人が脱走の度にボヤいてらしたから……知ってたけど。
……しかし、今回は脱出成功されたのか……。
ついでに、ウチの井戸が金ピカになった記事は二行だったわ。
ミラクルでも、聖女様の話題には勝てないのね……。
しかし、聖女様のお命に比べりゃどうでもいいわ……。昼間眩しくて夜にちょっとテカってる位、何の害も無いわよ。
あー、聖女様は、何処に行ってしまわれたの。
失礼ながら、日々の糧はどうされているのなしら。あんな目立つご容姿では、人買いとか……ど、奴隷商人とか!?
おおおお! 恐ろしい!! そんな目に遭われていたら、本当にどうしよう!
しかも、ノホホンとしたこの町の平和は、聖女様がおられるからこそ!
何か凄い聖女パワーで町の平和をお守り頂いてたでしょうに!
道を掃き掃除してても、滅茶苦茶心配よ!
「あー! 野次馬とかしてないで、ちょっと手を引っ張ってウチにかくまってあげれば良かった!! 薄汚くて良ければ、物置と化してる叔父さんの家とか有ったのに!」
「へえー、ニノンちゃんは優しいですねー」
「ん? ……警備騎士さん」
「こーんにちはー」
あ、相変わらず間延びした人ね。気が抜けるわ。
「こんな所で油売ってていいの? 聖女様の失踪に駆り出されたり……」
「無いですよー。神殿のミスですしー、山程無駄に居座る神官も、ここぞとばかりにお給金以上に働かなきゃー。駆けずり回ればダイエットになりますよー」
い、意外とドライよね。いや、この人、元々結構ドライなんだけど。ニコヤカだから、つい騙されるわ。
「でも、お家いいなー。今、宿舎暮らしだから自分の城は憧れますねー」
「どっか借りれば?」
「親無しなんでー、手続きが面倒なんですよねー」
「そうなの……。そりゃ保証人とか困るわね」
重いな。しかし、サラーッと笑顔で言われたから、サラーッと笑顔で返すしかないわね。客商売で慣れたもんよ。……まあ、お客様じゃないけど。
「でも、警備騎士になれたなんて凄いわ」
「あはー、コネですよー」
「そ、そうなの。人間関係に恵まれてるのね」
「恵まれたりー、悪縁だったりーですよ。ニノンちゃんもそうではー?」
「ま、まあそうね……」
んん?
て、手を握られたわ。指の先とか荒れてるけど男の人にしては華奢な手ね。警備騎士だけど……ここの町平和だしな。それに、前に犯人を投げ飛ばしてたものね。強いのは強いんでしょう。
……まあ、彼氏いない歴更新中の私だけど、客商売だから手はよくチェックするのよ。
……しかし、セクハラしてくるオッサン爺さん以外に手を握られたのは、初めてかも。
……くっ、ちょっとドキドキする!
「ニノンちゃん、暫くその叔父さんのお家貸してくれません? 引き取られた家の奴らが無理難題押し付けにやってくるんですよ」
「え? そ、それは気の毒ね。……ちょっとお母さんに聞いてくるわ」
流石に警備騎士が迷惑な身内? 仲悪い養親は身内カテゴリなのかしら? 兎に角それをブッ飛ばす訳にもいかないんでしょうね。
かと言って急に別の町に赴任申請するのもね。無理そう。
「井戸はどうですー?」
「そうね……。あの井戸、これからどうなると思う? 水汲むと、若干キラキラしてるのよね」
「嫌ならバラして売ればどうです? 金っぽかったですよ」
「……ええー? 本当にー? 余計怖いわ」
……手の質感が変わった気がするけど、何でかしら。ちょっと固くなったというか、指が伸びた……?
いやまさかそんな、ホラー展開な……。単にアレよね。そう、気の所為だわ。頼むから勘違いよ。
「どーしましたー?」
「い、いえ。……警備騎士さんて成長期? 幾つなの?」
「細かい所は台帳見ないと不明ですけどー、たーぶん、19ですねー」
「へー。私と同い年なのね」
「運命ですね」
な、何の運命なのかしら。
冗談にしては……細めた目が綺麗だから本気にしそうよ。町娘を弄ぶのやめて欲しいわね。
この国では警備騎士も聖女も国から任命される職業となっております。