騒ぎの中に既視感
お読み頂き有難う御座います。
「……今日の売上は、まあまあだったね」
この状況で店を開け、商売をする母さんがマジ商売人の鑑過ぎて、ホント分からない……。
この、金ピカメタリックな井戸に仰天して、大騒ぎで……。訳が分からないわ。近所の人達で押し合いへし合いよ。
しかも、新聞社まで取材に来るしさー。
この金メッキ、結局誰の仕業が分からないんですって。
まあ、そりゃそうなんだけど……不気味すぎる。
ウチは店をやってるから、誰にも気取られず裏庭に忍び込むなんて結構不可能なのに。一体、どうやって作業したのよ。
「これは……聖なるお力を持つ者の御業では?」
「な、何の……?」
聖なるお力……。聖女様がお出でなら、確かにミラクルな現象が起こっても不思議では無いけど……。
しかし、何故に井戸よ。他に光らすべき物、有りそうだけど。
「いや、ヒローナちゃんの時も煙突が突然詰まってな……。詰まりが取れるとゴールドの煙が」
「……お義父さん、おやつ食べに帰りましょうね」
「そうかファニーちゃん、おやつは目玉焼きトーストがええのう」
「ハラですよ。お義母さんならお二階でしょ」
近所の家具屋の爺さんが、無関係な過去を思い出してシリアスに悦って、お嫁さんに連れ帰られたりしてたわね。
真面目に聞いて大損したわ。
まあ、ついでに金タワシが売れて……他のご近所さんが買い忘れを買ってってくれたから、野次馬もまあまあ良かったのかしらね……。
「カイダシ新聞社です! 第一発見者の子は?」
「私だけど、明日の朝刊に載るの? 調査とかするの?」
「警備騎士の仕事だけど、ウチも協力するよ! 所で滅茶苦茶光ってんな。これ、マジモンの金か?」
「……それこそどうやってウチの井戸を金の井戸に取り替えるのよ。何の為に?」
そんなに覗き込みすぎると嵌りそうね。引き上げるの面倒だから、もうちょい下がって調べて欲しいわ。梯子が重いのよ。
「関係ない人は触らないでくださーい。分析班来ますからねー。犯人の一味と見なしちゃうかもしれませーん」
あ、新聞記者ったら、脱兎の如く逃げ出したわ。戻ってきた警備騎士がいい感じで追い払ってくれたのね。
「ニノンちゃんちも、災難ですねー」
「はあ……」
この警備騎士も、結構曲者よね。
和やかに見せかけたメロンのような薄い緑の目が笑ってないわ。
さっきの新聞記者より背は低いのに、隙がないというか、偶に眼光鋭いというか。
「ん? ……メロンのような……」
「はいー?」
「いえ、警備騎士さんの目の色って、聖女様カラーですね」
「……そーおです? あんな派手派手しいかなー? それに、メロンとはー?」
「赤いメロンみたいな御髪で、目の色はメロンみたいでしょ? メロンみたいに青筋立ててるし……」
「あはー、散々ですねー」
……ヘラヘラ笑いがなーんか、怖いわね。
しかし、初めて顔をマジマジと見たけど……中性的なイケメンなのね。何と、こんな所に背の低いイケメンが……。
……まあ、キャーキャー信仰とか出来る感じでは無いわね。何てこった。イケメンにキャーキャー出来る未来が遠いわ。
「まあー、井戸位光ってても死にやしませんよ」
「有害物質が検出されたら死ぬじゃないの!」
「あ、そっちかー。あはー」
き、気楽ね。他人事だと思って。
はあ、疲れたわ。明日も来るのかしら野次馬……。
全国ネットではないでしょうけど……。
と、思ってたら。
「てぇーへんだぁーーー! 聖女様が、聖女様がーーー」
「うるさーい!」
いや、2日連続はどうなのよ。
「行方不明だ! 失踪の疑いだーーー!」
「えっ……」
その日の号外は、3回刷られたらしいわ。
因みに、ニノンのお父さんが雑貨屋の後継ぎで、お母さんは他の街からやってきた観光客でした。