侵入者と光る井戸
お読み頂き有難う御座います。
変な人がやってきたようですね。
「あんな! あんな呪詛吐き女とけ、けけけ結婚だと!? の、呪われる!」
「すみませんお客様、お客様でないのならお立ち退きください。当店及びご通行の方ご迷惑になりますので、警備騎士を呼びますよ」
何てったって走れば3分だしね。お呼び立ても楽よ。
それにしても此奴は意味不明な話を捲し立てて、何の話なのかしら。
「来い小娘!! 貴様、替え玉にしてくれる!」
「あーれー店員に暴行はおやめくださーい。きゃーん! おかあさーん、知らない殿方に掴まれたー! 警備騎士呼んでー! たーすけてー」
何なんだよ替え玉って。麺屋のおかわりか。そんなツッコミも心の内に秘めて、叫ぶわ!
「何なんだい煩……ニノン!! 娘に何するんだい! この、強盗!」
あ、母さんは腕相撲大会連覇の覇者なのよ。
あの逞し……いえ、肉感セクシー腕(そう呼ばないと怒られる)から繰り出すパンチで、ナンパしてきた父さんを打ちのめし……!!
「あ」
しまった!
母さんが打ちのめす豪快な未来にテンション上がって、勢い余って自ら頭突きを喰らわせてしまった!! じゃなくて!
ズベベッ!!
「ギャアアア!!」
……いや、本当に私は誓って何もしてないのよ。
相手が滑って転んで私の頭に顎をぶつけただけで。
「何だい、断末魔上げさせる余裕を与えたら駄目だろ」
「こ、このちょっと柔らか棘鋲付きカチューシャが、いけなかったのかしら……?」
またつまらぬヤツをブッ刺してしまったわ。
店の新作を見知らぬ犯罪者で試してしまった……。あ、ちょっと顎に鋲の跡が。
困るな。こんな跡が残ったら、事情聴取の申し開き面倒だわ。どうしよ。有害な金属じゃなく、無害なクズ鉄で出来てるのをアピールしなくちゃ……。
「で、でも母さん、この腕の跡を見て!ヤン爺の所に走って、診断書貰って来るわ!」
「警備騎士が先。ちゃんと確認させて被害届を出す上で医者を呼ぶんだよ」
……母さんってば、冷静よね。流石、ナンパしまくってきた父さんを警備騎士に30回突き出した、伝説の女……。
「……呼んだぞー! お父さんが走ったぞー!」
「呼ばれましたあー」
「あら、早いね」
この何だかヨレててダルめの警備騎士、最近隣の国からやって来たんだったかしら。
なーんか、やる気ないように見えるのよね……。仕事はキッチリやってるのに、何故かしら。苦手だわー。
「何か、どっかの金持ちに見えますねー。お名前言えますかー? どこのお家から来ましたかー?」
「ニノン、水汲んで来な」
「は、はーい……」
やったね! 逃げられる!
多分顔にブッ掛けて起こすんでしょうね……。犯罪者に慈悲は掛けないけど、大通りでやるとなあ。弱いものを甚振るチンピラみたいだからやめて欲しいわ。
「ニノンちゃん、お手手の具合と頭突きの経緯も後で伺いますねー」
「ぐっ……!! お、お水汲んで来まーす!」
バレてるわ……。
さり気なくカチューシャを外して背中に隠したというのに!! めざとい!
さっさと行かなきゃ!!
しっかし、水汲み……。めんどいなあ。
ウチの井戸は一応持ち井戸だけど、メンテナンスがめんどいのよね。
砂は入るし、この前なんか魚が何処からか入ってさあ。今日なんか光り輝いて……。
「は?」
光り輝いて……光り輝いてえ!?
だっ、だだだだだ!?
「誰よ、ウチの井戸に金メッキしたアホはああああああ!?」
何で、しがない町の雑貨屋さんの井戸が!! ちょっと苔むして掃除がダルいと嘆いていた、石造りの井戸が!!
どうして!? どうして金属光沢を放っているのよ!?
ああ、どうしよう。今度はウチが新聞の一面を飾ってしまう……!!
変な押し込み侵入者だけならセーフかと思っていたのに!!
メタリックな井戸に強制リフォームされたようです。