捧げ物を所望され
お読み頂き有難う御座います。
家名のルブラさん呼びから名前のジェントさん呼びに変わります。
私、ニノン。
聖女神殿の有る町に住んでる、一般的な雑貨屋の娘。
睫毛は長めだけど、瞼がボリューミーなせいで埋もれちゃって……糸目気味なのが悩みね。そして髪も目も単一で焦げ茶なのが何ともモブらしいフツーの町娘なのよ。
まあ、町の人間は軒並み黒髪と焦げ茶しか居ないんだけど……。余所の町出身の母さんは明るい茶色に明るい青い目だというのに……。
色々細々と不満は有るけど一般的な町娘らしく暮らしていた、その筈なのよ。
「釣れませんねー」
……そして趣味は、釣り……なんだけど。
横にね。
人んちのその辺を金ピカに光らせた、聖女と名乗る警備騎士が居るの。
「小魚で良いなら、結構釣れてるんですが……」
そう、滅茶苦茶上手い訳じゃ無いけど、それなりの数の川魚がバケツにビシャビシャと入ってるのよね。
戸棚とか井戸とか店とかのことを考えたくなくて力入っちゃった。……つい現実逃避してしまうわ。
「駄目ですよー。『恋焦げる鯉』でないと」
「……鱗がハートのピンクの鯉でしたっけ……」
そう、此処は近くの川。
新聞沙汰になりそうな謎魚が欲しいと仰るせいで急遽ここに居るのね。
「図鑑で見ましたよー。釣り上げて、私に捧げてください。守護者として!」
突貫作業な感じで呪文をブワッと被せられ、あっという間にその守護者とやらにされてしまったの。
そして色々有って釣りしているのよ。
本当にふざけた謎魚がこんな川にいるのか、本当に本当に疑問だわ。
そして、その訳分からん魚釣りを強いられる聖女の守護者とは本当に何なの。誰か説明して欲しいけど、知ってる神官は絶対に面倒そうなタイプだしなあ。
「ほら、聖女のご加護が有りますしー、鯉も釣れるかもですよーファイトー」
「聖女様のご加護って、魚釣り系も恋愛系無かったような……」
「体験してない加護は不可能ですー」
「と、言う事は……ご病気系は体験されてるんですか?」
「ある程度させられましたー」
「……神殿ってDVの温床なんですか」
「金蔓なんて名前を付ける野郎が目白押しですからー」
……う、そりゃ逃げ出したくもなるか……。
怪我や病気を体験させるなんて悍ましい……。神殿って、本当に碌でもないんだわ。匿って正解、なのかも。……今は外だけど。
「そもそも……どうして、ルブラ……ジェントさんはその、警備騎士として?」
「祈りに来た警備騎士のチョロそうなお偉いさんの不治の病を軽くしてやったらー、聞いてくれましたー」
「不治の病を……す、凄いですね」
「傷は傷ですからー」
……助けてくれた人にチョロそうなって罵る所が気になるけど、その人が善人で何よりだわ。
「その、聞きにくい事を聞いても?」
「お答えしてもいいなーと思うレベルでしたらー」
「その、あの金色に光らせる魔法? のせいなんでしょうか。その、結構酷いご本名は」
「あれー、本名じゃなくてー、聖女ネームですー」
「……聖女ネームとは」
失礼だけど、夜のお姐さんネームの様だわ。
「本人の納得出来ない名前を付けるのは虐待ですしー、申し立てしたら変更出来るのでしましたー」
「えっ、そ、そうなんですか……」
「申立て可能年齢到達の時ー、即やりましたー」
……何で閉じ込められてた割にこんなに世俗と法律に詳しいのよ、この人。
いや、籠の鳥の聖女様がそんな……改名のルールまで知り得るもんなの? 役場も遠いし普通の名前だと知り得ないのに……。いや、普通のお名前じゃ無かったけどさ。
「町の人の噂話、お役立ちですよねー。名前に同情してくれた町の人が大声で駄弁ってましたよー」
偶々法律に詳しい町の人の立ち話を聞いたっての!? あんなザワついた広場で聞き取ったの!?
聖女様、いえジェントさんは地獄耳すぎでは。
「ついでに未記入だった性別欄を埋めて来たのでー、性別固めないと困るんですよー」
「……そ、そう言われましても……あっ!」
竿がグイグイ引っ張られているわ。しめた! 誤魔化せる!?
「……居たぞ!? キャネズル様だ!」
「何? 本当か? 警備騎士の格好を!?」
えっ!? あっ! 何かゴワゴワした布の音がしたと思ったら!
走りにくそうな格好……のその辺を紐で縛ってダサ服と貸した神官が、こっちに来てる!
「……何故、今バレる。3年近くバレて無かったのに」
「油断するからでは!?」
恋焦げる鯉は釣り上げると恋愛は勝手にハッピーになるよ! やったね! とこじつけられた魚です。
近隣に生息しているかは不明らしいです。




