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第18話:推しキャラと夢

「……大事なお話があります」


 真剣な表情で告げる小鳥遊たかなしルリに、俺と霜田しもだは、そっと固唾かたずを飲む。


「わたし、マネージャーさんにも、茜さんにも本当に感謝しています。わたしを元の世界に戻すために、色んなことを考えてくださって……でも、」


 ルリはそれでも言い切る。


あかねさんを見ていて、元の世界に戻るよりも大切なことがあると思いました。……思い直しました」


「大切なことって、もしかして……」


 霜田も俺も、次にルリが何を言うか、ほとんど分かっていたように思う。


 そして、ルリは、やっぱり予想通りで、そしてとびきりに想定外のことを告げる。





「わたし、やっぱり、アイドルになりたいです。この世界で、トップアイドルに」





「ルリ……!」


「たしかに、この世界はわたしにとっては元の世界ではありません。でも、そんなことにこだわっているうちに、一日ずつ日々は過ぎて行きます。元の世界に戻る方法を考えても、調べても、帰ることは出来ないかもしれません。でも、わたしが今ここにいることは紛れもない事実です。だった、大事なことは、戻ることじゃないと思うんです」


 俺は、再びルリの気迫に圧倒されていた。


 そうだった。


 俺の憧れる小鳥遊ルリは、俺の推している小鳥遊ルリは、こういう人だった。


 優しく見えて実は我が強く、穏やかに見えて実は芯が深い。


 考えてみれば、はじめ(・・・)から、彼女はそう言っていたじゃないか。




『才能とか環境とかで諦められないことを、"夢"って呼ぶんじゃないんですか!?』

『……だから、わたし、絶対にトップアイドルになってみせます』




「だから、お願いします。わたしに、アイドルを目指させてください」


 小鳥遊ルリは、俺たちに、それこそ両親に夢を追う許可をもらうように、頭を下げる。


「……なあ、霜田」


 呆気に取られたまま、俺はそっと口にする。


「芸能事務所って、どうやって作ればいいんだろうな?」


「阿久津……!」


「マネージャーさん……!」


 正直言うと、俺は、ぞくぞくしていた。


 正直言うと、俺は、興奮していた。


 アドレナリンが湧き上がってくるのに、頭はどこか冷静で。



「だって、他に方法がないだろ。ルリのマネージャーは俺しかいないんだから」



 それは精神的な話だけではなく、実際に、ルリと俺は12時間以上離れたらルリは体調を崩す。


 であれば、俺がマネージャーとして、付き添い続けるほかないだろう。


「それに、戸籍もない、現状住所不定無職の美少女と契約してくれる芸能事務所なんか存在しないだろうし」


「それは、たしかに……」


 霜田は、少し逡巡してから、もう一度、ルリの目を見る。


「……ああ、そっか」


 そして、そんな風に息を漏らした。


「あなたは、あの、小鳥遊ルリ、なんだもんね」


 誰よりも小鳥遊ルリに向き合っていた霜田茜だからこそ、その一言で十分だった。


「分かった、ルリちゃん。あたしも協力する。何が出来るかはわからないけど」


「茜さんっ……!」


 ルリは嬉しそうに笑顔をぱっと咲かせる。


「ルリ」


 俺は、なるべくいい笑顔を浮かべて手を差し伸べる。


「一緒に、トップアイドルになろう」


「はい……!」





 俺は、手近にあったコピー用紙と黒いマッキーを手に取る。


「じゃあ、今日からこの部屋は、芸能事務所だ」


 小鳥遊ルリの所属している事務所の名前は、『音無おとなしプロ』。


 それをそのままもらおうかとも思ったが、ルリがいなくなっても、あのゲームの中に、音無プロは依然として在り続けている。


 であれば、それを少しもじりながら……。


 キュキュキュ、と小気味良い音が部屋に響く。


 どう考えても、会社のていなんて成していない。


 こんなものを作ったところで、なんの意味もない。


 でも、俺はそれでも、今の高揚感を書き留めておくべく、そこに高らかに宣言する。



「これが、この事務所の看板だ!」



 その紙に書かれた名前は。



『タカナシプロ』




「阿久津、あんた……!」

「マネージャーさん、それ……!」


 2人は、同時に目を見開く。

 そして、またしても異口同音に言うのだ。


「字、下手じゃない!?」

「字、下手ですね!?」



 ……前途多難な俺たちのアイドル育成プログラムは、こうして始まることになる。



===第1部:出会い篇 完===


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