線香花火
今日は夏休みの最後にあるお祭りだ。
たくさんの人と屋台、大きなイベントで大いに賑わっていた。
そこに僕は彼女と二人で遊びに来ていた。
「やっぱりお祭りは楽しいね」
君がそう言いながらはしゃいでいる姿はとても高校生とは思えない無邪気な子供のようだった。
焼きそばを食べながら君は僕との出会いを思い出していた。
かき氷を食べながら君は僕とのデートの日々を思い出していた。
その喋る舌は黄色く光っていた。
射的をしながら君は僕のかっこいいと思っているとこを挙げていた。
ヨーヨーすくいをしながら君は自分の将来について話していた。
会場にいるひとたちみんなで盆踊りを踊り、時間が八時をまわる頃、ほとんどのイベントは終わりあとは最後の花火を待つだけとなった。
どこで見ようかと場所を探そうとしている僕に君は
「ねえ、近くにいい場所があるからそこで見よう」
と、言ってきた。
この日のためにわざわざ人気のない場所を探してくれていたことを僕は知っていた。
偶然君が友達とその話をしているのを聞いた。
そのことを知らないふりをしながら君についていくと会場から少し離れた展望台だった。
この場所は意外と街でも知っている人が少なく穴場となっていた。
歩き疲れた君は近くにあるベンチに座り
「一緒に休も」
と、隣をポンポンと叩いて誘ってきた。
僕が隣に座ると君は僕の肩のあたりにより掛かるようにして顔をのせてきた。
「あなたと付き合い始めたのが高校一年の夏休みだったね。偶然キャンプで同じ班になって色んなことを手伝ってもらったね。違う高校だったけどこれが運命なのかもしれないって思えた。これからもずっとよろしくね」
君はそう言うと何も喋らなくなった。
僕は君の言葉にただ頭を撫でてあげることしかできなかった。
それでも君は満足したように撫でる手に頭を擦り付けていた。
そんなことをしていると花火は始まった。
最初はゆっくりと小さな花火が一つ、二つと上がっていた。
次第に花火の数が増えて、気づけばその数は数十もの花火が夜空に咲き誇っていた。
そんな花火に君は見とれながらも僕の手を握りしめ離すことはしなかった。
そんな君の小さな手を僕は優しく、それでも話さないようにしっかりと握りしめていた。
最後の花火が大きく大きく夜空に花開いて今年の花火は終わった。
さっきまで明るく騒がしかった夜空には静かに星星が輝いているだけだった。
僕らは花火の余韻を楽しむかのように静かに夜空を見上げていた。
どれだけの時間が流れたのかわからないが夜空を見上げていた顔を隣に向けるとそこには目を閉じて僕により掛かる君がいた。
僕が体を動かしたことがわかったのか君は目を開けてゆっくりと微笑んでいた。
君は立ち上がり
「今から私達だけの花火をしよう」
そう言って君は持っていたカバンから数本の線香花火を取り出した。
火を付けパチパチと花のように開き儚く散っていく花火
そしてそれをを見つめる彼女。
その横で手に線香花火を持ちながら俺は彼女の線香花火の淡い光に照らされる横顔を眺めていた。
その姿はお祭りで無邪気にはしゃいでいる君ではなかった。
ただ、淡い光に照らされどこまでも美しく輝いている君がそこにいた。
その輝きはこの世界を、宇宙のどこを探しても見つかることのない君だけの輝きだった。
そんな君に見とれていた僕に気づいた君は優しく、妖艶な笑みを浮かべていた。
そして線香花火が最後の火の玉だけになったことろで僕の持っていた線香花火にくっつけてきた。
くっついた火の玉は最後の輝きを放って下へと落ちていった。
その瞬間、君は僕と君との一生の思い出に一際輝く思い出を落としていった。