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妖怪屋敷のご令嬢が魔術アカデミーに入学します  作者: 音喜多子平
ご令嬢のストーカーが…
49/51

9-4

「テメエが主犯か?」


 波路から先ほどよりも濃いオーラが滲み出した。黒よりも黒い闇に包まれているような錯覚さえ覚えるほどに。


 すると仮面の魔術師はそれとは正反対に極めて明るい声を出した。


「素晴らしい!」

「あ?」

「七つの大罪の一人が豹変しての暴走、謎の拘束魔法、そして事件が解決して安心しきったところを狙い撃ったというのに全員を庇ってからの応戦。全てが不測の事態だったはず。それなのにあなたは動揺を見せず、今もさも当然と言う態度で応じている。これを称賛せずにいられましょうか」


 称賛の言葉は裏を返せば、一連の騒動は自分が企てたと自白したも同然だ。魔術師がそう言い終わった瞬間、波路は脇突きと共に前進し斬りかかった。それは命中することは叶わなかったが、そこから目まぐるしい技の応酬が始まった。けれど私の目には半分以上も映っていない。速過ぎて分からなかった。


 何となく理解できたのは魔術師は距離を取ろうと奮戦しており、波路がそれを許さないように応戦しているという事だ。


 魔術師は武装解除の魔法を駆使して波路の武器を弾き飛ばして応戦しているが、その都度新しい武器を取り出してくるので手が付けらない。


 私の頭の中にはかつてコルドロン先生から聞いた教えが反復されていた。


『戦士とはテーブルを挟まない限り戦ってはいけない』


 テーブルというのは交渉や誘惑を含めた心理戦の事。私達魔術師は当然魔法を使って生活をし、いざという時は魔法を使って戦う。魔法を発動させる方法は呪文、薬品、ステップなど数多く存在するが、戦闘を本職としている者達からすれば、それは大きな隙になる。


 正直、私はその話を半分バカにしていた。日本にいる時に街のチンピラやヤクザ崩れのような男を相手にして数回ほど魔法を使って喧嘩をした事がある。確かにただのパンチやキックに比べれば隙はあるかもしれないが、それは事前の準備と慣れでカバーできる程度の事でしかなかった。


 けれど、目の前で繰り広げられている戦いを見て、私は無知だったと思い知らされている。仮面の魔術師が私だったら既に何度切り殺されていただろうか。


 昨日食堂でフィフスドルが言っていた言葉の意味も今ならとてもよくわかる。コルドロン先生から譲り受けたペンダントに付与された空間収納魔法と、波路が本来持っている武器の扱いの技とが融合して手が付けられない程の暴れっぷりだ。


 すると、あれほど激しかった波路に猛攻が横薙ぎの一閃を境にピタリと止んだ。急に訪れた静寂は仮面の魔術師よりも私達の方が混乱を覚えるほどだった。


 波路は決して警戒や構えを解くことはせずに、毅然とした態度で言い放つ。


「アンタ…コォムバッチ校長か、もしくはスオキニ先生だな?」

「え!?」


 驚きと猜疑心を孕んだ私達全員の視線が仮面の魔術師に集中する。するとどこからともなく一人分の拍手の音が聞こえてきた。


「素晴らしい。正解です」


 すると仮面の魔術師の影から他ならぬコォムバッチ校長が現れた。途端に魔術師のマントと仮面は光の粒になって流れ落ち、中からはスオキニ先生が姿を見せた。顔に大粒の汗を垂らしながら、スオキニ先生はコォムバッチ校長に対して跪く。


 二人の先生はすっかり敵意を削ぎ落しており、まるで毒気が感じられない。そのせいで波路も構えこそは解かなかったが、警戒心は少し薄らいだように思えた。


「どうして気が付けたのですか?」

「収納魔法を使った初太刀…躱されることは想定内だったが、反射や経験で避けた風じゃなかったからな。明らかに俺がそう言う戦法を取ると知っている奴の動きだった。俺がアメリカについてからこの魔法を使ったのは、入学試験の前と、あの『七つの大罪』の儀式の時と使い魔の丘での三回だけ。そのいずれかの現場にいて尚且つあそこまでの戦いができる実力がある奴ってのは、アンタとスオキニ先生の二人に自然と絞られる。だから鎌をかけた」

「感服ですよ。カツトシ・ナミチ」


 するとその時、周りの生徒たちを縛り付けていた金色の鎖が次々と壊れ始めた。今度こそこの一連の事件は終わりを告げたのだった。ほとんどの生徒たちが放心状態で事の成り行きを見守る中、リリィ達は一心不乱にこちらに向かって駆け寄ってくるのが見えた。


「まずは唐突にこのような事をしてしまった、その非礼をお詫びします。叶うならば武器を納めてください。もうこの場での安全はお約束しますから」


 コォムバッチ校長は波路に向かって深々と頭を下げて言った。学園の長たる者が波路に向かって頭を下げたことに、皆は並々ならぬものを感じ取っていた。


 それは波路も同じだったようで、収納空間から鞘を取り出すと持っていた刀を納刀し腰のベルトに差した。それでも柄から手を離さず戦闘態勢を完全には解かなかった。


「悪戯にしては随分と手の込んだことをするんだな。これがアメリカ式か? それとも魔女や悪魔の歓迎ってのはこんな感じなのか?」

「この十数年、思うところがあったのです」


 コォムバッチ校長は神妙な面持ちに変わる。そして波路の質問に答えているような、答えていないような返事をし始めた。


「今の悪魔や魔術師たちは、人間の怖さを忘れている、とね」

読んで頂きありがとうございます。


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