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妖怪屋敷のご令嬢が魔術アカデミーに入学します  作者: 音喜多子平
ご令嬢のストーカーが魔術アカデミーに入学します
39/51

7-3

 無事に従者の契約を終えたデキマは波路に同じ部屋になるように魔法を使ってクジを操作すると言うと、立ち上がってレオツルフのところへ行った。クジを引く権利の放棄を撤回してそれを引くと、紙に記された部屋へと先に向かってしまう。


 特にトラブルがないことを見るに、くじ引きに際して変な細工はしなかったらしい。それとも亜夜子の施した術を掻い潜ったのだろうか。波路は従者として同じ部屋になってお世話をすると言ってのけたデキマを思い、少し不安になってしまった。だが一先ず腕が吹き飛んだり、頭が燃え盛ったりしなかったのは安心だった。


 学年で最下位に降格したという事は、当然この寮でも最下位の成績なので最後にくじを引くことになる。というかレオツルフも波路の前の寮生にクジを引かせると、


「じゃ、後は君だけだから」


 などと言い残し乱暴にクジの入った箱を放り投げると部屋を出て行ってしまった。


 そうして一人取り残された集会所で、波路は残った最後のクジを引いて割り当てられた部屋へと向かったのである。


 ◆


「お待ちしておりました。カツトシ様」


 恐る恐る部屋の扉を開けた波路は、デキマの声に出迎えられた。部屋の中は今しがた掃除をし終えた時の独特の空気感に満ち溢れている。もしかしなくてもデキマが大急ぎで部屋を整理整頓してくれたことは知れた。


「ホントに同じ部屋だな」

「はい。そこは悪魔ですから魔法で」

「けど、亜夜子さんが箱に魔法をかけていただろ? 現に一人、腕が溶けて髪が燃えてたぞ」

「ええ。ですから予め細工を施したクジを私が引くときに箱に入れました。カツトシ様が引くように」

「なるほど。頭いいな」

「恐れ入ります」


 そこで一度会話が続かなくなった。男と分かっていても、見た目が女だから波路は妙にそわそわしてしまっている。


 なので部屋の中を軽く物色した後、分かり切っていることをわざとらしく言ってお茶を濁した。


「にしても中々こざっぱりしてるな。もっとオンボロ屋敷を想像してたんだけど」

「僭越ながらカツトシ様がいらっしゃる前に簡単にお掃除をしておきました。どうやら上級生が去年までこの部屋を使っていて、禄に片付けもせずに出て行ったようなので来たときは中々の有様でしたよ。恐らくですが上級生の嫌がらせでしょう。きっとほかの部屋も似たようなものだと思います。」

「本当かよ。悪かったな」

「いえ魔法を使えば問題ない散らかり方でしたので。それはそうとお着替えになりませんか? もうお寛ぎになってもよろしいようです」

「そっか、どうしよっかな…」


 どちらかと言うと寛ぐよりも空腹をどうにかしたいところだと思った矢先、デキマがタイミング良く告げてきた。


「もしくはお食事かご入浴をお済ませになる手もありますが、如何なさいますか?」

「先にご飯を食べるか? 確か食堂があるってレオツルフ先輩は言ってたけど」

「集会所に簡単な地図がございました。ご案内します」

「そっか、助かるよ。ありがとう」

「ではカツトシ様のお着替えが終わったら参りましょう」

「デキマさん…その前に二つばかりいいかな?」

「はい。なんでしょうか?」


 波路はこのタイミングどうしても気になっている事を言った。この機を逃すとなあなあのうちに定着してしまいそうだったからだ。


「まず、勝利様ってのは止めてもらいたいんだけど」

「おや。傅かれるのはお嫌いですか?」

「嫌いと言うか、むずむずする」

「私としては少々遺憾ですが、お嫌とあれば仕方ありません。しかし何とお呼びしましょうか?」

「呼び捨てでいいよ」

「…せめて君付けでも?」

「まあ、そのくらいなら」

「それともう一つと言うのは?」


 そう聞かれ、波路はもう一度彼女の格好を見た。もう一つ言おうと思っていたのがデキマの格好だからだ。


「なんでメイド服?」

「動きやすいからです。あと可愛い」


 きりっとしたポーカーフェイスというモノを初めて見た。少なくとも似合っているのは否定しないが…。


 それでもそんな格好をした奴と傍にいたんでは、嫌でも目立ってしまう。


「ご安心ください、これは部屋着ですから。部屋の掃除をするために着ただけです」

「ああ、そう」

「では着替えてお食事に行きましょう」


 デキマはそう言って一切の躊躇いなく服を脱ぎ始めた。見た目はアレだが本人が男と言っている以上、こういう格好をするという事は女装が好きという事なのだろう。そしてデキマはかなりの凝り性という事も波路には伝わった。惜し気もなく脱いだメイド服の下は、女性物の下着で揃えられていたからだ。


 動きやすい格好に着替えようと思っていた波路だが、デキマの着替えのシーンに耐え切れずそそくさと部屋を出てしまった。そしてこの学園に来てから一番の疲労感を感じて、ため息を一つ漏らした。


読んで頂きありがとうございます。


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